第44話 本物のチートはレベルが違う
「いける!」
「何がいけるだ!」
エレオの三撃目が炸裂、鎌の先が突き出されたゴルゴンの右腕に刺さり、ゴルゴンは慌てて腕を引くが刺し傷からはまたも出血、傷は塞がらない。
死を司る神の力の前に、ゴルゴンの不死性が完全に殺されているのだ。
そしてエレオの霊力の低さで目立たないがエレオの持ち霊はあくまで死神、神である。
単純な強さならば、それこそヴァルキリーすら上回る。
目にも止まらぬ瞬速の鎌がゴルゴンに何度も入り、ゴルゴンはその度に鎌を避け、防ぎ、だが防ぐと付けられた傷から血が流れる。
当然ゴルゴンもエレオに何度も鉄の爪を振るう、黒い衣が引き裂かれ、鎌で受け止めると手が痺れて腕に激痛が走る。
しかし退くわけにはいかない。
エレオはずっと、自分は役立たずだと思っていた。
幼い頃から周囲から蔑まれ、劣等感の塊りで、人生に絶望していた。
だが義人が自分の有用性を示してくれた。
霊力が低くとも、不死殺しという特性は他の誰にも無い武器だ。
ならば不死の化物であるこいつを倒すのは自分の仕事だ。
心の中で何度も叫んで、エレオはデスサイズを振る。
しかし、エレオ達は失念していた。
ゴルゴンが遊んでいる事を……
「やっかいな鎌だ、そういえばワタシの妹を殺シタノモ不死殺しの鎌ダッタナ」
突如ゴルゴンの霊力が膨れ上がる。
危険を感じて、エレオが下がる。
間髪いれずゴルゴンは大きく両手を振り下ろし、一〇枚の斬撃が一斉に襲い掛かる。
「くっ……」
鎌で受け止めるが威力を殺しきれず、背後へと押し飛ばされて衝撃で地上に落下する。
「モウイイ、石になれ……」
本気になったゴルゴンの目が怪しく光る。
すぐに飛翔しようとエレオは立ち上がるが、同時に死神の衣と鎌が消える。
霊力が尽きてしまったのだ。
終わりだと、エレオ達はヒザをつき、時間稼ぎとして目をつぶった。
石にならなくても、視界が効かなければ八つ裂きにされるのは容易い。
だが石になるよりは時間が稼げる。
一体なんの為の時間稼ぎかは自分達でも分からないが、それでもゴルゴンの思惑通りになるのがいやだというせめてもの抵抗だ。
自分の不甲斐なさに自分で自分を殺したいほどの念にエレオは歯を食い縛り……
吼えろ! オロチ!!
宿舎の城から巨大な光の柱が天に昇る。
雲まで突き抜ける灼熱の波動にはゴルゴンですら驚き魔眼発動が止まってしまう。
雨の中、城の屋根に立ち、今まさにこちらへ跳んでくるのは紛れも無く、鷺澤義人である。
「ヨシトくん!!」
「よぉエレオ、なんかヤバそうだったから出て来たぞ」
ニカッと笑う義人の姿に、レイラが呟く。
「馬鹿な、あの牢獄を破ったと言うのか……それに、あの光は……」
「ああ学年代表、悪い、あの拘束具なんだけどよ」
義人が手首を見せると、黒い消し炭となった手錠がボロリと崩れ落ちた。
「牢屋ブチ破ったら壊れちまった」
絶望色に染め上げられたエレオ達の顔が、希望に染まった。
「それでエレオ」
義人の額に青筋が浮かぶ。
「お前らをこんなにしたのはどこのどいつだ?」
ボロボロになったエレオ達が一斉に指差したゴルゴンを見上げて、義人は眉間に深いシワを刻んだ。
「とりあえず話を聞こうかゴルゴン、お前の名前、それと目的はなんだ?」
今すぐブチのめしてやりたいところだが、まずは相手の理由を聞く。
もしも正当な理由があったり、自分に解決できる事情ならば穏便に話を進めたいからだ。
「フン、この中ではキサマが一番か……」
興味ありげな顔で義人を眺め、ゴルゴンは語る。
「我はゴルゴン三姉妹の長女ステンノ! 古代にキサマらニンゲン共に殺された妹メデューサの首を取り戻す!!
古代では叶わなかった夢も神が世界からいなくなった今なら果たせる!!」
「それで人間達の戦力を削ぐ為に未来の召喚術師を殺すってわけか?」
「ソウダ、そして魔術協会に封印される我が妹の首を取り戻すノダ!!」
「へぇ、それはまた随分妹想いのいーいお姉ちゃんだな、マジ共感するわ、マジイイ子だわお前、だけどそれなら勝手に魔術協会と戦争すればいいと思うんだよな、ウチの可愛い女の子達に危害加える必要……ねえだろ」
最後の言葉には明確な憎しみが込もる。
「ワルイが美しい娘を見るとコロシたくなる性分でね、未来の戦力を削ぐのが目的だが、高貴な身分の美しい娘達を石コロに変えてやるのは気分がイイ」
最後の言葉に、義人の中でオロチがその力を発揮する。
「なるほどな、百合から聞いた通りのゲス野郎だ、女神から化物に変えられたのには同情するぜ、お前らを退治に行った戦士を石にしたのはそいつらの自業自得って事で恨まねえ、けどな」
言いながら、義人の全身がウロコ状の装甲甲冑(スケイル・アーマー)に覆われ、蛇の眼と牙を得る。
召喚術師で言うところのサードサモンの状態だ。
「現代人に関係ねぇだろがっ!!」
浮空術で空を飛び、義人はステンノと同じ空に立つ。
「それに美少女を石コロにするのが楽しいとかフザけんなよてめぇ!!」
(女のやわ肌を硬い石にした罪は償ってもらうぞ!!)
(百合! こいつブチのめすぞ!!)
(任せろ!!)
「ナマイキな、キサマも石にしてくれるわ!」
途端に、ステンノの翼が二倍にも膨れ上がり、鋼の爪から金属質の光沢が手、腕へと広がって、頭の蛇がさらに長く伸びて、頭髪部分だけでなく首筋からも生えて牙もより太くなる。
蛇の髪、黄金の翼、真鍮(しんちゅう)の腕、猪の牙を持つとされる伝説の通りだ。
死神の鎌で付けた傷も、完治はしていないがもう血は流れていない。
死神は死を司る神だが、ステンノは元女神の不死の化物、同じ神同士では不死性と不死殺しが相殺し合ってしまったのかもしれない。
そして今まさに、ステンノの金色の蛇眼が義人の真紅の瞳と視線を交える。
「ヨッシーそいつの目見ちゃだめぇ!」
「ヨシト目をつぶって!」
「ヨシトさーん!」
地上ではチェリス達が騒いでいるが義人は至って冷静で、チェリス達も異常に気付いたらしい。
「あれ? ヨッシー、平気っぽくない?」
「フフフ、どうやらキサマは魔眼耐性があるらしいな、だが妹メデューサよりも強力なワタシの、この強き乙女(ステンノ)の真の力を見るがいい!!」
次の瞬間、ステンノの目から巨大な光線が放たれた。
義人はその光に飲み込まれ、姿が見えなくなってしまう。
地上からの悲鳴を愉快そうな顔で聞きながらステンノは笑う。
「目が合った者を石にする? ワタシが本気を出せばワタシが見るモノ全てが石になるわ!! さあ石コロになりワタシに逆らった事を一生後悔……」
光が治まると、耳をほじりながら義人が冷めた顔でステンノを見る。
「お前さっきから何やってんの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます