第42話 ラスボス
「みんな外よ!」
まだクラス代表という地位にいるエイリーンもC組を引き連れ城狩りをしていた。
そして外の事態に気づいて駆け付け、絶望する。
「そん……な……」
龍鱗(りゅうりん)が砕け、全身をズタズタにされて空いた口から舌を垂らすスカイドラゴンの首を右手に、鎧の破片に塗(まみ)れ息も絶え絶えのレイラの首を左手に持ち、ソレは空に立ったまま手を離した。
スカイドラゴンの巨体は地上に到達する前に虚空へ掻き消え、レイラの体は素早く飛び出したハイディがキャッチ。
グリフォンの翼をはばたかせて着地するとC組の元へ戻って回復呪文を使える人に治療を頼む。
こちらに背を向けたソレの正体は見た時に分かっていた。
だがソレがゆっくりと振り向き、否定できなくなってしまう。
ギリシャ神話の女神のような白いドレスを着ているが全身を蛇のウロコに覆われ、
手足には鋼のような鋭い爪、黄金色に輝く金属の翼に口から覗く牙と黄金色の蛇の眼。
そして蛇の髪……ギリシャ神話の怪物ゴルゴン…………
「嘘でしょ!? なんでこんな、あんな怪物がいるのよ!!?」
ギリシャ神話において、主神ゼウスの子、半人半神のペルセウスが四つの神具を持ちいて奇襲をしかけ退治したとされる伝説的な怪物だ。
召喚術師と言えど、とてもではないが相手にできる域にはない。
何せゴルゴンとは元、ギリシャ神話原初の神ガイアの孫娘にして主神ゼウスの又従姉妹に当たる。
それがアテナの呪いで化物にされてしまったのだが、化物になろうが相手は神、確かに雷を操るゼウスのように戦闘向きの能力は無く、ただ血筋が良いというだけの女神だが、元神の霊力に比べれば、エイリーン達など足元にも及ばないだろう。
大陸中の神話や伝承に詳しい召喚術師だからこそ、C組の生徒達はその強大さを理解し、そして逃げだした。
レイラを治療中だった生徒も術を切り上げて逃走。
だが、エイリーンは退かない。
勝てる相手とは思えない、しかし、どうせここで逃げても家に戻され地獄の日々、ならば召喚術師の一人として敵と戦い散ったほうがマシだと、エイリーンは騎士の魂を振るい起こしゴルゴンを見据えた。
「サードサモン!! ――フルウエポンモード――」
エイリーンの装備がヴァルキリーのソレとなり、地面から湧き上がる光が成した天馬にまたがり飛翔する。
「来なさい化物! ヴァルキリーの力を思い知らせてやるわ!」
槍を突きつけ、敢然と言い放つエイリーン、その姿にゴルゴンは鼻を鳴らす。
「北欧神の使い魔風情ガ……先程のドラグーン娘の方がまだやりがいガアルゾ」
「黙りなさい!」
天馬が駆ける。向かうは神話に名を轟かせる怪物ゴルゴン、死ぬとは分かっているが、ならばこそここが死に場所だ。
アヴァリス王国公爵家の名に賭け、逃走だけはしてなるものかと、エイリーンは聖槍に闘士を込める。
ゴルゴンとエイリーンの激しい空中戦は一度槍と爪が触れるごとに衝撃波が地上まで伝わる。
エイリーンが連続突きを放ち、全て鋼の爪で弾かれる。
刃に霊力を込め、大きく振って光の斬撃を放つがゴルゴンの翼の一撃が斬撃を打ち砕く。
まるで勝てる気がしない、それでもエイリーンは退く訳にはいかない。
「ヴァルキリー、アタシに力を!!」
残る霊力を最大放出させる。
エイリーンの体が白銀の光りに包まれて聖槍を核に四メートルもの巨大な光の槍が形成される。
天馬が嘶(いなな)き、急加速した。
「行くぞゴルゴーン!!」
エイリーンの槍がまたゴルゴンの爪に触れて、今度は弾かれず、逆にゴルゴンの爪を削り、そして肩口に突き刺さる。
「グッ」
「よし!」
そのままエイリーンは畳み掛ける。
渾身の突きを何度も放ち、霊力の出し惜しみはしない。
そして一度さらに上昇して、義人に放ったのと同じ一撃を敢行。
重力加速度をも動員し一気に落下した超音速をそのままにカーブを描いて滑り下り、槍を突き出してゴルゴンに直進する。
「死ねぇええええええええ!!」
ゴルゴンが爪で空(くう)を薙ぐ。
視界を覆うほどの斬撃が五本、一撃でA組全員の召喚獣を屠ったソレだ。
エイリーンの槍が斬撃を貫く、軌道が逸れたがまだ威力は死んでいない、このままゴルゴンの心臓を貫こうと突撃し、エイリーンの穂先はゴルゴンの心臓からは逸れたが、確かに右胸に刺さった。
だが……
「やはりこの程度か」
不敵に笑うゴルゴンが至近距離からエイリーンの腹を殴る。
それでも軽く殴ったつもりだろうが、戦乙女の鎧が砕け、天馬の背から真っ直ぐ地上へと叩き落とされる。
意識が飛びかけるほどの激痛の中、いくらサードサモンで強化されているとはいえ、この高さから地上に頭から落ちれば無事では済まないだろう。
天馬はあいまいな意識の中で本能的に呼び戻すが間に合わないだろう。
そして地上が迫り、最期の時が来たと覚悟して、エイリーンの体は誰かに受け止められた。
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