第39話 バトルロワイアル

 翌日明朝、島全体に霧が立ち込める悪天候ではあるが、シルフ杯は中止する事なく開催され、全生徒は各自所定の場所へと移動する。


 五〇〇人もの生徒達がバラバラの場所に配置され、鐘の音と共にスタートする為、仲間同士で最初から組んで大会を有利に進める事はできない。


 全員最初は一人から始まり、仲間と合流する前に負ければジ・エンドだ。


「というわけで勝手に脱落する奴もいるだろうけどクラス代表や学年代表含めて俺らで全部ぶっ飛ばすぞ」


(面倒じゃのう)

(なんだ、自信ないのか?)


(ふん、馬鹿を言え、わしが本気を出せば全世界の軍隊が相手でも勝てるわ!!)

(頼もしいねえ、ほんじゃ)


「飛ばして行くぜ!!」


 いきなり百合の力を武器化した長大な蛇腹剣を具現化、広い草原を疾走する。


「ジャップ発見!」

「男野郎よ!」

「みんな一旦休戦よ!」

『フォースサモン!』


 早くも戦いを初めていたらし生徒達が一斉にこちらを向き、いきなり最大攻撃をしかけてくる。


 召喚されたモンスター、妖精、精霊、魔獣達へ一喝。


「邪魔だ!」


 走りながら義人は蛇腹剣をムチ状にして炎をまとわせる。


 横薙ぎの一撃は広大な範囲をまとめて薙ぎ払い、計六体もの幻想種が虚空に掻き消えた。


 同時に少女達の首からぶら下がるペンダントは色が銀から黒に代わり、彼女達の敗北を意味した。


 そのままスピードを落とさず義人は彼女達の横を走りぬけ、後に残された生徒達はただ唖然とするばかりだった。





 戦いは順調に進み、既に二六人の生徒を打ち倒している。


 エレオ達がまだ見つからないのが心配だが、このペースならばすぐ見つかるだろうと安心したその時、義人の霊力知覚が巨大な霊力を捉えた。


「これは!?」


(うむ、これほどの霊力、間違いなくクラス代表じゃろう、じゃがそれにしても大き過ぎる……この力は昨日見たスカイドラゴンよりさらに強力じゃぞ)


 百合の言う通り、霧の中で義人が感じる力はエイリーンの戦乙女(ヴァルキリー)やアヴリルの炎の魔神(イフリート)と言った、Aランク幻想種よりも遥かに強大だ。


 隠れたまだ見ぬ強敵へ、義人は駆ける。


 こいつを倒せば優勝へ大きく近づくと、そう期待して濃霧をかきわけ、そして見てしまった。


「……こ、これは」


 驚き、一瞬言葉が出無かった。


 義人と百合が見たモノ、それは七体もの若い娘の石像、着ているドレスなどを見ても、間違いなくこのシルフ杯の参加者、学園の生徒達である。


「まさか……」


 石化事件の犯人がここに。


 そう考えを巡らせて、霊力の中心地へ視線を向ける。


「そこか!」


 濃霧の中に浮かぶ人影を見つけ、すかさず火球を放った。


 火球は人影に弾かれるが、爆炎で霧が一瞬薄まり、その影が持つ眼光を見て取れた。


「……あれは」

「な、なにこれ! 石像!?」


 背後から別の生徒が駆け寄って来てこの惨状に驚く。そして……


「え?」


 その人影、厳密にはその人影の眼光を見ると同時に、生徒の体は足下からみるみるうちに石となる。


 悲鳴をあげ、義人に助けを求めた姿のまま石になる少女、何もできなかった事に歯がみし、義人は一瞬で蛇武装をまとい、蛇の目と牙、舌を得てその人影に向き直る。


「おい、お前一体」

「何者ダ?」


 先に問われて、義人が言葉を失う。


「ナゼ貴様は……」

「そこに誰かいるのか!?」


 空からの声に仰ぎ見る間に影は消えてしまい、代わりに上空から一人の生徒が飛び下りて来る。


「私は二年C組風紀委員アイナード・オルバッシュ、今回のシルフ杯の実行委員を務めているが……これは貴様の仕業か?」


 背中からドラゴンのような翼が生えた釣り目で背の高いその少女は、周囲の石像を見て半蛇姿の義人を睨みつける。


「他の場所で石化した生徒が何人も発見されている。石化事件の犯人が紛れ込んでいると思い捜索中だったのだが、貴様だったか日本人」


 唐突に犯人扱いされて、義人は人間の姿に戻って否定する。


「違う、俺が来た時にはもうこいつらは石になっていた!」

「ふむ、つまり私同様この惨状を発見しただけだと?」

「そうだ、それに俺は犯人を見た」

「ほお、それでどんな奴だった?」

「いや、霧の中だったからよくは分からないけど、でも目が光っていて、そいつを見たこいつが石になったんだ」


 先程の、自分に助けを求める姿のまま石になった生徒を指差し、風紀委員の女子は怪訝そうな顔をした。


「それはおかしいな、ならば何故貴様は石になっていない?」

「そ、それは」

「貴様の言う事が本当ならば相手はバジリスクやコカトリスのように見た者を石へと変える能力があるのだろう、しかし貴様は犯人の姿を見ておきながら貴様以外の生徒が石になり貴様が無事とはどういう事だ? それはつまり、貴様が犯人だからではないのか?」


 目を鋭くして、義人を犯人扱いする風紀委員、彼女の中ではすでに義人が犯人という事で固まりつつある。


 人は一度思いこむとなかなか思いなおす事ができない、早く誤解を解かねばと義人は説明するが、


「俺だけ効かなかったんだよ、相手も『ナゼ』とか言ってたし、俺には耐性が――」


「貴様がバジリスクやコカトリスなどの石化能力を持った者ならば石化耐性はあるだろうが、生徒会長の調べで貴様は石化能力は無いと言ったそうだな?

 石化能力が無いのに石化耐性だけは都合よく持っていると? 岩型の幻想種なら分かるが貴様の持ち霊は蛇だろう? とにかく大会は中止だ、貴様の取り調べを行う!」


「いや、そうじゃなくてだな!」


 強引に話を進め、アイナードは義人の話を聞かずに本部へと連絡した。

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