第36話 ハンティング


「「「セカンドサモン!!」」」


 エレオがデスサイズ、チェリスがドリル状のランス、ハイディが羽飾りをあしらったロングソードを手に敵に立ち向かう。


 城の中はゴブリンやスライムも住みついており、まさに魔のダンジョンと化していた。


 計六体の一体はゴブリンはエレオに首を刎ねられ、一体はチェリスに胸を貫通されて残る四体は義人が抜刀の一撃で首を切り落とした。


 スライム達はハイディの剣が巻き起こした竜巻で散り散りになってしまう。


「なんか楽勝ペースだよねー♪」

「もおチェリスちゃんすぐ調子に乗るんだから」

「レッドキャップが何階のどこにいるかわからないからな、先は長いぞ」

「しかし戦力的に言ってもこの四人なら敵無しって気はしますね」


 冷静に考えれば、全員がBランク以上の持ち霊を持つというこのパーティーに勝てる輩はそうはいないだろうが……


 次の角を曲がると廊下の奥から先程の五倍、実に三〇体以上のゴブリンが斧を手に走ってくる。


「よし、じゃあみんなもう一度行くぞ!」

「うん! 援護は任せて!」


 先頭を歩いていたチェリスが背後で弓を構える。


「チェリスちゃん変わり身早過ぎるよ!」

「ち、違うよエレオちゃん! これはユニコーンの弓モードを試すべく、あくまでも訓練の為にで――」

「そう言って少し強そうな相手になるとすぐ逃げるじゃない!」

「そう言うエレオさんも腰が引けてるようですが?」

 ハイディの言う通り、エレオは腰を引き足が小刻みに震えている。

「だ、だってわたし実戦なんてほとんどしたこと無いし、ってもうそこまで来てるぅ!」



「(俺とじゃれるか?)」



 義人が本気でゴブリン達を睨んだ瞬間、三〇体ものゴブリン達が硬直、その刹那に義人は名刀三日月連夜を手にゴブリン達の中を駆け抜け、廊下の奥へ辿りつくと刀を一振りして刃についた血を払い落とす。


 ゴブリン全員の首や胴体がゴロリと落ちた。


「急ごう」


 肩越しに精悍(せいかん)な顔を見せられて、チェリスとハイディは軽い足取りで義人の背を追う。


「わーはっはっはっ、ボクらに敵うものなーし!」

「さすがはヨシトさんです!」


 そして一人、エレオだけが暗い顔で追った。


 しばらく敵のいない廊下や階段が続いて、義人達は小走りに進むが、相変わらず暗いエレオの表情に義人はこっそり声をかける。


「どうしたエレオ? 何か気になるのか?」

「……うん、わたし、邪魔なんじゃないかなって」

「邪魔?」


 うつむき、自分を責めるようにエレオは呟く。


「だってヨシトくん一人いればレッドキャップやゴブリンだって簡単に倒せるだろうし、なんかわたし、ヨシトくんのお世話になりっぱなしって感じがして」

「それ言ったらチェリスやハイディに失礼だぞ」

「二人はいいよ、戦えば強いし、でもわたしは霊力低過ぎるし、戦闘経験も少ないからやれる事も限られてるし」

「やれる事……」


 周りがなんと言おうが感じてしまう劣等感、霊能力に関しては天才型の義人だが、そういった気持ちが理解できなほど愚かでは無い。


 自分もみんなの為に何かしたい、自分にできる事をしたい。


 それは人として当然の欲求だ。


 自分が西洋への留学が決まった時、なんとかそれを阻止しようと動いてくれた仲間達の事を思い出して、義人はエレオにできる事を考えた。


「なぁエレオ、死神の鎌って確か不死殺しの力持ってたよな?」

「う、うん、死神の与える死は絶対だから、アンデット系とか不死系には強いよ」

「だったらさ……ちょうどお出ましだぜ」




 侵入者の気配に気が付き臨戦態勢なのか、目の前の木製の大きな扉が砕け、奥からゴブリンやスライム、そしてリビングアーマーが向かってくる。


 中身の無い、空っぽの鎧が剣と盾を手に金属音を鳴り響かせながら迫ってくる鎧騎士は、成仏できぬ怨霊が取り憑き動いている。


 日本人の義人だが、並々ならぬ霊力を持つ彼の霊視能力は初めて見るリビングアーマーの特性を完全に把握できた。


「あの鎧全部任せた、チェリス……は、いいや、ハイディ、ゴブリンとスライムを叩くぞ」

「はい!」

「え!? よ、義人くん!?」


 頑丈な鎧には刃を入れず、義人とハイディはゴブリンとスライムを片っ端から斬っていく。


 幸いリビングアーマーは動きがゴブリンほど機敏ではないので、素早く動けば無視できた。


 リビングアーマー達は敵を倒しながら先へ進む義人とハイディの背後を狙い、前衛の者はエレオに向かってくる。


 義人に無視されたチェリスは、


「援護はまかせてー♪」


 安全圏にいるから心配ない。


 エレオは覚悟を決めて思い切りデスサイズを振る。


 すると一撃でリビングアーマーが同時に二体吹き飛び、パーツの継ぎ目が離れてバラバラになる。


 鎧に宿った怨霊が死神の鎌の力で成仏したのだ。


 自分でもやれると自信を持ち、エレオは積極的にリビングアーマー達に斬り込む。

 エレオの腕では同時に複数の敵と戦うのは厳しいが、相性が良すぎてエレオが経験を積むには最高の戦いだった。


「ユニコーンの矢をくらえー♪」


 全体がドリル状になった矢がエレオ達の頭上を飛び、奥のゴブリン達の額を正確に射抜いていく。


 なんだかんだ言っても、やはりチェリスは優秀な召喚術師である。




 背後の戦闘音からエレオがデスサイズを振るっている事を感じて、義人は微笑を漏らす。


 これでエレオも少しは自信がつくだろう。


 そうすればエレオもチェリスみたいにもっと笑えるようになるだろうと、そう思うと嬉しくなってついゴブリンをまとめて五体ほど斬り殺してしまう。


「ヨ、ヨシトさん本当に何モノですか?」

「世界で唯一の男召喚術師ですが何か?」


 そんなやり取りをする間に最後のゴブリンを斬り殺して振り返ると、ちょうどエレオも最後のリビングアーマーを倒したところだった。


「よし、じゃあこのまま……いるぞ、この上だ」


 人並み外れた霊感で霊力の強い波動を感じて、義人は天井を見上げた。



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