第35話 シルフ杯
『話を最後まで聞け! よってこれから全員で城狩りを行いレッドキャップを退治する。なお、見事レッドキャップを退治した者はボーナスとして明日の本戦でスタートを二時間遅らせる』
バトルロイヤルでは勝った数に意味が無い。
最後まで生き残る事が勝利条件である以上、極端な事を言えば最後までどこかに隠れ潜み、消耗仕切った最後の一人を潰してしまえばいいのだ。
無論世間体を気にする彼女達貴族の娘にそんな事が出来るはずもないが、ルールにのっとったボーナスならば気兼ねなく、皆が二時間たっぷりと消耗した戦場へ優雅に参戦できる。
「ま、こんなの出来レースなんだけどねー」
口をとがらせるアホ毛少女チェリス、もちろん小声だ。
「そうなのか?」
「だってレッドキャップはBランク幻想種だもん、そんな強敵相手じゃどうしたって霊力も持ち霊も両方Aランクの生徒じゃないと勝ち目無いもん、つまりこのボーナスゲームは最初からクラス代表の公爵家や王族の人の為の物なんだよ」
「俺には西洋基準法のランクってのは良く知らないけどエレオの死神ってAだろ?」
義人に振られてエレオは肩を落とす。
「でもわたし自身の霊力はDランクだから、フォースサモンは何秒も持たないしサードサモンじゃ力は互角でもわたし自身戦うの得意じゃないし」
言いながら、エレオは潤む真紅の瞳を伏せて肩を落とした。
「ボクのユニコーンはBランクだから、レッドキャップに勝つにはフォースサモンでユニコーンに直接戦ってもらうのがいんだけど、ボク自身の霊力ってCランクだから長時間の召喚て出来ないんだよね」
(わしらSランクでごめんなさーい♪)
(それもそうだな、てか口調変わってるぞ)
「じゃあ俺ら全員で組んでサクっとボーナス貰おうぜ」
「「え?」」
「だって組んじゃ駄目ってルールねぇだろ? それにほら、ルールブックにも」
『また、他者と組んでレッドキャップを倒した場合、協力者全員にボーナスだ!』
「な? だったら俺がレッドキャップ倒すから三人で……ハイディー」
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃん、ハイディ・アスペルマイヤーなのですよ」
カメラを構えたポーズで人ごみから湧いて出たのはショートカットだが横髪だけ長い髪型が特徴的な新聞記者の卵、ハイディである。
「お話は立ち聞きさせて頂きました。わたくしのグリフォンもBランクでわたくし自身の霊力はCランクなのでそのお話、ありがたく受けさせて頂きます」
「なぁダーリン、ウチと一緒に」
「アヴリル様、私達と一緒に参りましょう!」
「アヴリルお姉様ぁ!」
「ささ、こちらへ」
同じD組の生徒であろう人ごみに担ぎあげられて、アヴリルの姿が見えなくなっていく。
「あー、ダーリンが遠ざかって行くぅー!」
「あはは、アヴリルってば大人気ー♪」
さらわれるアヴリルとそれを笑ってみるチェリス、そしてルールブックの内容を暗唱するレイラ。
「(なんつーかフリーダムだな)」
日本で武家や公家が大会のような物を催す時は参加者全員が身分によって全て立つ位置を固定されて綺麗に並び、全員座して開催者の挨拶を黙って聞くのが当たり前だ。
天幕も何も無い外とはいえ、ばらばらに立って、周りと大会の相談をしながらレイラの話を聞くというのはなんだか違和感があった。
『それでは城狩り……開始だー!』
出来レースとは解っていてもソレとコレとは話が別、一流の召喚術師を目指す者として、誰もが一斉に丘を一気に下りて城を目指し、空を飛べる者は空から一気に城を目指した。
義人達もこれからの戦闘に備えて霊力節約の為にサードサモンは使わないが、ファーストサモンで飛行能力をうまく引き出して空から一気に森を抜ける。
「ていうかこのメンバーって全員飛べたんだな……」
「わたしの死神一応浮かぶっていうか空飛べるし」
「ボクのユニコーン空を駆けるし」
「わたくしに至ってはグリフォンですから、それよりヨシトさんは何故飛べる、というかそれは走っているのですか?」
空の上をチェリス同様、まるで地面の上のように走る義人の姿にハイディは首を傾げる。
「これは普通に霊力で空間に足場作ってるんだよ」
「随分芸達者な持ち霊ですねぇ」
「え? あーあー、うんそう、便利だろ?」
慌てて誤魔化す義人。
実際には百合の力とは関係なく、完全に義人の独力である。
そもそも義人は生まれた時から人間とは思えないほど圧倒的な霊力を持つ異常児、本来は魔導書を読み、深い魔術の知識と霊力を扱う訓練をしてようやく使える魔術だが、義人は鳥が飛べるように、魚が泳げるように、そして妖怪が妖術を使うように、子供の頃から幻想種同様に呼吸と同じ感覚で霊力を使い様々な事をしてきた。
日本ですら異端だったのだから、これも隠しておいたほうがいいだろうと義人は苦笑いを浮かべた。
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