第34話 八百万の神々が住む国日本
謝った。
全ての動物の頂点に立つ獣神王が一介の人間に謝罪をしたのだ。
「麒麟さんが謝るような事は何も……」
「いや、天上の高天原に住み全ての人間に平等であらねばならぬ立場であるとは言え、お主の国外追放を止められなかった事、お主達の交わった魂を解放できぬ力量不足、そして」
百合を一瞥する。
「その娘の事も、元はと言えば我らのせいだ。遥か古代、誰もこの者の事を理解してやれなかった。誰もこの者を救ってやれなかった。そして誰もがこの……ただ寂しかっただけの娘のことを誤解したままスサノオが退治してしまい、封印してしまった」
遥か昔、神々の時代、余りに強過ぎる蛇の娘は自分の力の使い方を分からず周囲の者たちをいつも傷つけてしまった。
そして皆から誤解されたまま、誰からも愛される事無く、愛を知らぬままに荒んだ心を癒すべく、その蛇は地上で猛威を振るい、人々から若い娘を生贄に出させた。
強く成長し過ぎた蛇は天上の神々でもどうにも出来ず、下界に降りた戦いの神スサノオが蛇を泥酔させる事で退治し、人々を苦しめる化物として粛清された。
生まれた時から寂しくて、愛されたくて、けれど誰もが彼女を恐れ、蔑み、全てに絶望し狂気に駆られた挙句が悪として断罪される。
そんな、絵に描いたような悲劇の少女を救った人間の少年に、麒麟は蛇を含めた獣の王として謝罪する。
「いいさ、気にしていないよ、ただ百合にこの日本は狭すぎたってだけだ」
百合と融合し、その力を手にした義人は今や幕府にとっては目の上のタンコブ。
天上の神々すら凌駕する力を、一個人が所有する恐怖、時の権力者達は外国から舞い込んだ開国要求を利用し、危険極まりない化物を西洋に押し付けたのだ。
これがもし、百合ではなく、目の前の麒麟との融合だったならば、幕府は義人を司祭様として崇めたてまつり幕府の重鎮として登用しただろう。
だが相手が悪い。
百合は神や神獣ではなく、人間達の中ではあくまで“化物”という認識なのだ。
「念の為、もう一度だけ聞くが、高天ヶ原へ来る気は無いか?」
「…………ありがとう、でも俺はまだ人間だし、人間の知り合いが生きている間は地上で暮らしたいんだ、それに、それは幕府から逃げる事になるしな、逃げるのは趣味じゃない」
義人の決意を受け止め、麒麟は一度目を閉じた。
「解った。だがこれだけは覚えておいてくれ鷺澤義人……高天ヶ原は、いつでもお主に開いている、そして今一度」
天地を揺るがす獣神王は一介の人間に頭を下げて告げる。
「その娘、八俣遠呂智(ヤマタノオロチ)の事を頼む」
蒸気機関車に乗る事三時間、学園街から港について蒸気船に乗る事二時間、計五時間の移動を終えた頃にはもう昼を過ぎていた。
そうまでしてようやく到着した島は、船着き場こそしっかりとしているが、その風景は一言で言えば未開の地だ。
目の前にはいきなり先が無限に続きそうなほど深い森林に埋め尽くされ、地面もでこぼこで、土木工事などで均(なら)した痕は無い。
船から五〇〇人近い生徒が下り、青空の下全員が集まると、地面の上に用意された簡単な壇上の階段を、クラス代表で生徒会長の従妹に当たるレイラ・アヴァリスが拡声機片手に上る。
『それでは皆の者、明日はついにシルフ杯本戦だ!』
長ったらしい挨拶は学園の開会式で済ませてある為、レイラは挨拶もそこそこにすぐルールの説明をする。
『既に知っているとは思うが、ここであらためてル―ルの説明をする。このシルフ杯は完全なるバトルロイヤル形式で皆には明日、このアータム島で戦い合ってもらう!
そして最後まで立っていた者が優勝だ、選手の残り人数などの進行状況は放送で準じ報告する。
皆に配ったペンダントは召喚獣が倒されたり術者が一定以上のダメージを受けるとその旨が大会本部へ伝わり回復呪文が作動すると共に医療班が派遣されるようになっている』
義人達を含め、生徒達が自分達の首からぶら下がる銀色のペンダントを見下ろした。
『また、自らリタイアする者はペンダントを握って『我、敗北を宣言する』と言えば同じように本部へ選手の敗北が通達される。
では今日は宿舎でゆっくり休めと言いたいが、あれを見ろ!』
「サードサモン!」
壇上の隣に立つ生徒が地面に手をつけると、義人達が立つ地面が急にせり上がり、丘が形成されて視線が木を越え遥か彼方、森の中にそびえる古城の姿を捉えた。
『あれが我らの宿舎だが何せ一年に一度しか使わないからな、レッドキャップ達が住みついている』
(レッドキャップ?)
(西洋の古城に住みつくタチの悪い妖精で狂暴性は妖精の中でも随一じゃ)
『つまり、レッドキャップを倒さねば今夜の宿は無い!』
生徒達から上がる悲鳴にレイラは一喝。
『話を最後まで聞け! よってこれから全員で城狩りを行いレッドキャップを退治する。なお、見事レッドキャップを退治した者はボーナスとして明日の本戦でスタートを二時間遅らせる』
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