第31話 ダーリンめっちゃカッコええ!



「気がついたか?」


 闘技場の医務室で目を覚ましたアヴリルへ、義人がそう声をかけた。


「あれ? ウチは?」


 まだ眠気眼のアヴリルは目をこすりながら起き上がる。


「俺の毒で眠ってただけだ、あれから二〇分くらいしか経ってない」

「眠らせた? なんでや? アンタの力ならウチくらい簡単に倒せるやろ?」

「そりゃアヴリルくらいの美人傷つけるのは忍びないし」

「で、でもそんなの後で回復術師のとこで簡単に治るやろ?」

「どうせ後で治るんだから傷つけていいって考えは俺嫌いだな、傷ついている時は痛い思いをするんだし、痛みなんて無いにこした事はないだろ?」


 そうやって、自分の本心をただ言っただけなのだが、


「あぁん! ダーリンめっちゃかっこええわぁ!」


 義人を抱き寄せ、顔面を自分の胸に埋(うず)めさせる。


「(柔らか、やっぱ気持ちいいな)」


(うっしゃああああああああ!! ひゃっふぃー!! なんだなんなんだこの柔らかさはこの弾力は!? 顔を押し当てると簡単に潰れるのに内側から程良い力でしっかりと押し返してきて敏感な顔の皮膚を刺激しつつも甘い香りで鼻腔を刺激する!

 ぬぉおおおおお、神よこの世に乳を作った事を感謝するぞ!!!)


(ちょっとは黙れ)


「ヨ、ヨシトくん何してるの!?」


 背後のドアが開く音と一緒にエレオの悲鳴が聞こえて来て、またエレオはアヴリルを突き飛ばそうとする。


 それをベッドに座ったままのけぞりかわしてアヴリルは意地悪く笑った。


「安心しいや、まだ何もしてへん、まだ……やけどな」

「はうぅ……」


 赤面しながら悔しそうな顔をするエレオだが、当然義人は何も気づかない。


「まあとにかく勝負はウチの負けやさかい、ダーリンには上等な燕尾服(ドレスコート)一着プレゼントさせてもらうで」


「でもこの学園て女物しか売ってないんじゃないのか?」


 ここ、サモナーアカデミーは全国民が女性という独立学園国家、当然学園街の客は女性だけなので、必然的に女性向けの商品しか売っていないはずだ。


「家族や故郷の彼氏への贈り物用に少しは紳士物も売ってる筈やし、無ければ服屋で特注すれば問題ないやろ、じゃあさっそく」

「ま、待って! ヨシトくんにはわたしが燕尾服あげるの!」

「そ、そうだよ、エレオちゃんがあげるんだよ」


 大声で割り込むエレオにチェリスも援護に回るが、アヴリルは大人の笑みで受ける。


「ははーん、そういう事かいな、ウブで可愛いなぁ」

「おい、そういう事ってどういう事だよ?」

「ヨシトはまだ知らんでええよ、それに知らんままのほうがウチにとっては都合ええし、ところでチェリスは別にええのか?」


 急に話を振られてチェリスは童顔をチラリと義人へ向けて、それからエレオに向けるといつもは騒がしいチェリスが黙ってしまう。


「チェリス、恋に情は禁物やで~、まぁええわ、それならここにいる三人で買おうや、三人からの送り物っちゅうことで」


 フランス、イタリア、スペイン、気がつけばヨーロッパを代表する恋愛大国のご令嬢にしっかりとマークされる義人であった。


「なんか話が見えないけど、燕尾服ってやつに関してはみんなにしてもらってばかりでなんか悪い気がするな、やっぱ後で金払うよ」


 腑に落ちない顔でプレゼントを断る義人にアヴリルは首を振って否定する。


「アカンアカン、貴族の世界は贈り物文化やで、贈り物は素直に受け取っとき」

「でも、二人にははダンス教えてもらったりパスタ食わせてもらったりしてるしよ……」

「き、気にしなくていいよヨシトくん、好きでやってるんだから」

「そうだねぇ、エレオちゃんは好きだからやってるんだよね?」

「きょ、強調しないでよ!」


 二人のやり取りにニヤニヤしながら義人はじゃあ素直に貰おうかと思って、ある事を思い出す。


「じゃあ送り物って事で俺も三人にこれやるよ、手ぇ出してくれ」


 一体何だろうか、と手を出した三人の手に、赤紫に光る大粒のバラ輝石、ようするに、パイロクスマンガンを置いた。


 エレオとチェリスの目が輝いて、そのキラめきに思わず魅入る。


 宝石を金目のモノではなく、綺麗な物として魅せられるあたりは二人もやはり女性だ。


 公爵家のアヴリルも、その輝きには度肝を抜かれて魅入る。


「な、なんやコレ……? パイロクスマンガンなんていくらでも持っとるけど、こんな……一級品どころの騒ぎやない、こんなの超一級品や! 規格外や!

知り合いの宝石商に見せたら腰抜かして死ぬわ! これどこ産やアフリカ!?」

「いや、俺の国で採れるぞ」

「日本で!? 日本は黄金の国やろ?」

「黄金の国って、この学園来てから結構聞くけどなんでみんなそう言うんだ?」

「ヨシトくん、金(きん)で売買したり建物や日用品を金で作る国を世間じゃ黄金の国って言うんだよ」

「オマケに料理や樹木の育成に金使ったりするのも世間じゃおかしいからね」

「日本は金(きん)をなんだと思っとるんや!? 日本は街に金貨ばらまいてパレードでもしてるんやないか!?」

「よく知ってるな、お祭りでこう、神輿(みこし)っていうのに乗った人が千両箱っていう金貨入った箱からパーっとな」


 三人娘は空いた口から鳩が出……てもおかしくないくらい驚いていた。


 日本とはどれほど潤沢な資金を持っているのか、もはや想像の範疇を超えている。

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