第29話 情熱のヒロインアヴリル


「おい、なんか空気が変じゃないか?」

「ヨッシー、それについては後でボクが詳しく教えてあげるから、それまでは金とか宝石を不用意に出すのはやめようね」

「お、おう」

「ヨシトやんかー!」


 明るく陽気な声に皆が向くと、店の入り口から腰から上は体にフィットして、腰よりも下はレイヤースカートという真っ赤なドレスを着た美少女が走ってくる。


 黒く長いウエーブヘアーとエイリーン以上の巨乳を揺らしながら腕や首筋、胸の谷間を露出したドレスでいきなり義人に抱きついて感極まったように叫ぶ。


「やー! こんなところで会えるなんてめっちゃ嬉しいわぁ!」

「くっつかないで!」


 慌ててエレオが突き飛ばして、紅い美少女は腕を外した。


「なんや自分、ってごっつデカイなぁ、ウチ身長と乳で負けた事あんまないねんけど」

「はうぅっ……」


 赤面して猫背になって自分の胸を隠すように抱くエレオ、義人はこの姿を見るのが大好きだったりする。


「なんやアンタ、もしかしてヨシトのコレか?」

「ち、ちがいまひゅっ!」


 小指を立てられて、エレオは恥ずかしさのあまり噛んでしまう。


「あれ、アヴリル?」

「久しぶりやなイタリアの可愛い女の子(bonito chica)、今度また一緒にトマト料理食おな」

「ボニトチカ? そういやお前スペイン人だっけか?」


 チェリスと顔見知りらしい美少女に義人は確認の意味で尋ねる。


「ウチの事知ってるんか?」

「俺とエイリーンの演武の前にライオン丸焼きにしてたろ?」


 鷺澤義人、一度見た美少女は忘れない男である。


(わしは一度見た乳は忘れんからな、無論覚えていたぞ)

(黙れ変態百合レズ蛇女幼女仕立て風)


「知ってるみたいやけど改めて自己紹介するわ、ウチはアヴリル・アルファーロ、スペイン公爵家の三女でD組のクラス代表しとるのが自慢で好きな物はトマト料理とフラメンコと強い男や!! よろしくなダーリン!!」


「ダーリン?」

「せや、ウチな、アンタにめっちゃ惚れとんねん」


 爆弾告白発言にエレオが死にそうな顔になって目に涙が浮かぶ。


「ちょっとアヴリル、公爵家のお譲さんがそんな事言ったらダメだよ!」


 チェリスが必死に止めるがアヴリルの情熱は燃え上がる一方だ。


「人種なんて関係あらへん、ウチが求めるんは強い情熱的な男、逆に日本人に負けるような白人男に興味ないわ!

 この前のエイリーンとの試合を見てウチは確信した。アンタは今まで見たどの男よりも強い! それも圧倒的にな! ウチと結婚したい言うてオトンのところに通う男共が束になっても義人の蛇には敵わんわ、それに義人はただ召喚術が強いだけやない」


 言うと、アヴリルはとろけた表情で義人の髪を撫で、そのまま手を首、肩、胸板へと撫で下ろす。


「このキスするのに背伸びせなあかん高い背ぇ、たくましい筋肉、それに……」


 細い指が袴の上を這い、布越しとはいえ危ない場所近くまで伸びて、アヴリルの視線が一度下半身まで落ちてから上目づかいにこちらを見上げる。


「入学式の日、あの時ウチも大浴場に入っててなぁ、アンタのたくましい体にもうメロメロやぁ、ウチたくましい男に目が無いねん、なのにアンタの規格外や、あんな凶器見せられてもうウチの体ん中火山みたいにグラグラや」


 魔性めいた笑みで顔を近づけ耳元で囁く。


「あんな興奮したの生まれて初めて闘牛見た時以来やで」

「(この女言いたい事ずけずけ言うな)」


(この女と付き合え義人! そしてこの“だいなまいとぼでー”を我が物に!!)

(感覚共有遮断するぞ)

(それだけは殺生じゃー!)


 だがアヴリルは誘っている。


 余りにもはっきりとアヴリルは義人を誘っていた……のだが。


「この学園女しかいないやろ? 三年間も男いない場所で過ごすなんて死んでまうと思っとったけどアンタがいて助かったわー、それでなヨシト、アンタの事口説きたいねんけどその前にお願い聞いてくれへん?」


「お願い?」

「ウチと戦ってや」

「「「へ?」」」


「言ったやろ、ウチは強い男が好きなんや、せやからウチはアンタの強さをこの体で感じたい、あの強さを体感したいんや、その代わり勝てたらそうやな……ところで自分ら今日は街まで何しにきたん?」


 思い出したように尋ねるアヴリル。


「今日は俺の衣装買いに来たんだよ」

「ダーリンの?」

「そうなんだよね、ダンスはボクとエレオで教えてるんだけどさ、ヨシトって着物しか持ってないから燕尾服買おうかと思って」


 その返答に、アヴリルは口元を緩める。


「なら決まりや、ウチに買ったら上等な燕尾服買うたるで、ついてき」


 まだ勝負をOKしたわけではないが、アヴリルは義人の腕を持って歩き出し、そしてすぐに止まった。


「その前にメシやな」


 お腹を押さえながら「たはは」とアヴリルが苦笑いを浮かべる。


 ピザを注文したのを思い出して義人も苦笑せずにはいられなかった。

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