第26話 生徒会長との対話


「そうだ、そして人種差別は良く無いが、故郷が一番でないと嫌だと思うのは人の本能だと思わないかい?」

「俺は納得できません」

「だろうね、だけどヨシト君、君はアメリカ人が征夷大将軍になって日本の政治をしたらどう思う?」


 金髪青目で肌の白い白人が城の座敷に座り、武士達に頭を下げさせる姿を想像して、義人は言葉に詰まる。


「それは……」


「人種差別が駄目だと言うのなら王たる器があれば人種に関係なく誰がどこの国の首相になってもいいはずだ。

 だが実際には自分の国の首相、王や大統領は自分の国の人種でなくては人々は納得しない。

 赤の他人で、一度も口を聞いた事が無くても地元から有名人が出るだけで人は喜ぶ、人種差別とはその拡大版、理屈では無い、あらゆる感情を超えて起こる本能的なものだ。

 無論、迫害はいけない。人種による差別は無くすべきだろう。けれどそれは私の考えであって皆の考えでは無い、それに先程怖いと言っただろう?」


「……はい」


「なんとも難しい問題でね、人間には幼い頃に作られた価値観がある、これもまたあらゆる理屈を飛び越える絶対的なモノだ。変えることは至難の業だ。

 そして多くの人は生まれた時から自分達は選ばれた特別な人間であると教えられ、白人以外の人種を下等な生物と教え込まれている。

 例えば生まれ時からリンゴは毒だから食べてはいけないと教えられている人に、そんなの嘘だから食べるよう言ってもその人は絶対にリンゴを食べないだろう? つまりはそういう事だ」


 アルメールの説明に、思わず義人は納得してしまいそうになって、心の中でなんとか自分を保つ。


「誰だって子供の頃から信じていた世界が崩れるのは怖い、まして選ばれた存在だと思っていた自分がただの人間だなんて信じたくない」

「会長は、信じられたんですか?」


 先程から西洋人の説明に何故か当てはまらない生徒会長に義人は思わず聞いてしまう。


「私は、最初から自分達が優れているとは思えなかっただけだ。

中東の幻想種フンババ、東アジアのナーガやハヌマーン、鳳凰(ほうおう)や麒麟(きりん)、どれを取っても我々西洋の幻想種と比べて劣る所は無く、それらと契約を結ぶ多民族が劣っているという話自体が私には眉つばだった。

 それに世界中の英雄譚にも詳しくてね、多民族の英雄達の話は聞いているが、ギリシャ神話や北欧神話、ローマ神話の英雄より劣っているとは思えない」


 一呼吸置いて、アルメールは義人の黒い瞳をしっかりと見据える。


「だから皆、悪気はないんだ。

 ただの愛国心や人の本能として、白人には強者であって欲しいと願い、多民族に負ける姿を見たくなくて、幼い頃から築き上げてきた価値観を否定されるのが恐ろしくて、君の実力を認めたがらないんだ。

 君の霊力評価がSランクである事実は変わらないのに、未だイカサマ説や、たまたま検査紙が反応しやすい質の霊力だったんだとか言う輩も絶えないしね」


 机の引き出しから長方形の小さな紙を二枚取りだすと、会長はその一枚を握り、しばらく待つ。


 すると何秒もしないうちに紙は紺色に染まった。


「霊力評価A……」


 アルメールはもう一枚の紙をデスクの前に置いて、視線で義人を促す。


 二歩進んで紙を掴み、義人はしばらく待った。


 紙はみるみるうちに水色に染まり、さらに濃くなって青く、アルメールと同じ紺色になってもまだ濃くなり続けて、ついには墨で染めたように黒くなる。


 その光景には石のように動かなかった生徒会役員の四人ですら驚きのあまり口が僅かに開く。


「色が濃くなれば濃くなるほど最大霊力は高い。

その年にして青系統の色から逸脱し黒くしてしまう生徒などこの学園の歴史上でも二人だけ、それも両方我がアヴァリス王家に伝わる伝説的な召喚王で幼い頃から神童と謳われたお方だ。

私の自慢のご先祖様だが、私の憧れるマイヒーローと同じ力量を持った一年生が目の前にいると思うと興奮すると共に、やはり私も人間だからね、君がアジア人である事がほんの少しだけ悔しいよ。

 君がアヴァリス国民で貴族だったなら今すぐ父上に進言して婿養子にしているところだ」


「…………」


「話が長くなってしまったね、君が石化事件と関係無いのならいいんだ。下がってくれ」


 言われて義人は一礼して帰ろうとするが、振り返りかけて足が止まった。


「生徒会長、質問ですがシルフ杯、あれで俺が優勝したらエイリーンとアバルフィール家が許してもらえたりしますか?」


「意外だな、エイリーンは君と敵対していたはずだが……まぁいい、そうだね、もしも君が優勝したらそれは可能だしエイリーンは退学にならず学園に残れる。

 君が望むなら君を表彰し君に負けたエイリーンはなんら恥じる事はないとしてもいい、けれど注意してくれ、シルフ杯で優勝するという事は私の従妹(いとこ)であるレイラにも勝たなくてはいけないという事だ」


「会長の妹ですか?」


「ああ、一年生の学年代表で霊力と持ち霊評価は共にAランク、これはエイリーンと同じだが彼女が持つ持ち霊はスカイドラゴン、同じAランク評価でもドラゴンの攻撃力はヴァルキリーを凌いで余りあるし、アヴァリス王家の姫として幼い頃から召喚術と戦闘の英才教育を受けている。

 特に彼女は戦いの天才だ。いくら君の霊力がズバ抜けていても力押しで勝てる相手では無いよ」


「安心してください、俺も……力押しが売りじゃないんで」


 ニヤリと、含みのある笑いを見せる義人にアルメールも笑みを返す。

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