第25話 生徒会長


「てめぇらっ! ツルむなら死ぬまでツルめっ!!」


 食堂の声が消えた。


 誰もが義人へ注視し、言われた本人達もしばらくは黙ってしまい、そして反論をする。


「何よ日本人の分際で!」

「ジャップ如きが私達に話しかけないでくれるかしら!」

「私達の品位が下がる!」

「そうよ東洋人のくせに!」

「そのジャップに四人がかりで一撃で負けたのはどこのどいつだ?」


 取り巻き達が黙る、憎らしげに睨むがそれ以上何もできない。


 義人の圧力に侯爵家イルナッシュもただ驚いた顔で見るばかりで何も言えず、それを確認すると義人は一度鼻を鳴らし、その長身を翻(ひるがえ)して席に戻った。


(お主も懲りんのう)

(うるせぇ)


「駄目だよヨシトくんあんな事しちゃ!」

「ヨッシー今度はイルナッシュと戦うの?」


 元のテーブルに戻ると、エレオとチェリスがすぐに騒ぎ、ハイディはまたスクープの予感だと眼を輝かせる。


「だってあれじゃエイリーンが可哀相だろ」

「可哀相ってヨシトくん、エイリーンさんに何されたか忘れちゃったの?」

「そうだよ、あんなたかびーお嬢様なんて別にいいじゃん」

「十分仕返しはしたし、そういう訳にはいかないだろ」


 そんな言葉で始まり、義人はまた『それに』ときっぱりと言い放つ。


「一度喧嘩した奴はみんな友達! それが俺の鉄則だ!」

「ヨシトくんそれどういう鉄則!?」

「じゃああの取り捲き達も友達なの!?」

「あれは喧嘩に入らねーよ、まとわりついたハエ潰しただけだし、つうわけでエイリーン、邪魔な取り捲きいないならそんなところで一人で食べてないでこっち来ないか?」


 既にこちらを見ていたエイリーンの肩がぴくりと動いたその時、


「サギサワ・ヨシトだな」


 声のする方を向くと、入学案内で見た生徒会エンブレムをドレスにあしらった四人組が義人を見下ろしている。


「生徒会長がお呼びだ、今すぐ来てもらおう」


 義人達の間に緊張が走った。





 庶民が見れば目がチカチカしそうな程豪奢な生徒会室へ通されて、義人は生徒会長と面会する。


 高級ソファに身を預けていた美少女が上体を起こし、生徒会長専用デスクにヒジを乗せる。


「よく来てくれたね、サギサワ・ヨシト、私は生徒会長のアルメール・アヴァリス、現アヴァリス女王の三女だ」


 流れるような金紗の髪が窓から差し込む陽光で輝き、一〇代の少女ながら気品溢れる顔立ちはエイリーンとは違い、目元が柔和で親しみを感じられる。


 涼やかで良く通る声は耳に心地良く、ガラス細工のような繊細さと美しさを持った人だと義人は感じた。


 青と紫を基調としたドレスは装飾が多く、並の貴族ならドレスに負けてしまうが、彼女の身を包ませると驚くほど良く似合う。


 青い、サファイアのような瞳と義人の視線が交わると、義人を連行してきた四人は生徒会長の左右に二人ずつ並んで彫像のように口をつぐみ、よく訓練された兵士のようだった。


「ヨシト君、君に来てもらったのは他でも無い、石化事件の事は知ってるかい?」

「ええ、さっき友達から聞きました」

「そうか、友達から、まだ入学して四日目だと言うのにそれは良い事だね、それでは本題に入るが君の蛇、あれは石化能力を有しているのかい?」


 ヨーロッパでは有名な蛇のモンスター、バジリスクは石化の力を持っている事を思い出して、義人は首を横に振って否定する。


「いえ、俺の蛇はただデカくて強いだけでそういう特殊な力は持っていません」

「けど君の国には『蛇に睨まれたカエル』ということわざがあるのだろう? うわばみ君?」

「うわばみ扱いですか?」


 やや警戒気味に言う義人に対して、アルメールは微笑を浮かべる。


「よく酒を飲む人をそう言うのだろう? 入学式の日のパーティーでは君の飲みっぷりを見せてもらったよ、気どらない実に気持ちのいい飲み方だった」


 生徒会長の意外にも好意的な態度に義人は毒気を抜かれる。


 ハイディの説明によればアヴァリスは特別に白人至上主義の強い国、そこの王族ともなれば東洋人である自分をさぞ嫌っているだろうと思っていたのだ。


「本当に東洋人が嫌いならば君の受け入れを私の父も認めないだろう」


「(考えを読まれた!?)」


 表情には出さなかったが、心を見透かされ少なからず義人に動揺が走る。


「そう硬くならなくていい、私は皆のように君を迫害したりはしない、私は生徒会長だからね、全ての生徒の味方だよ」

「…………」

「ただそれを踏まえた上で聞いてもらいたいのだが、あまりここの生徒を恨まないでくれないか?」


 結局は会長も人種差別かと思うと、すぐ会長は続ける。


「みんなに悪気は無い、ただ怖いだけなんだ」

「怖い?」

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