第24話 ツルむなら死ぬまでツルめ
「それで、実家にも咎めってのはなんでだよ? それもお前の新聞のせいか?」
「言い訳ではありませんが先程のわたくしの新聞だけの力ではもちろんございません、一番の問題はエイリーンさんの爵位です」
「格下に負けるのが恥ってやつだろ? それならうちの国にも少しはあったよ」
「ですが召喚術師にとっては致命的なのです」
「?」
「義人さんもご存じとは思いますがアヴァリス王国は召喚術大国でその爵位、身分には召喚術師としての格と密接に繋がっています」
「密接に?」
「はい、他の国も召喚術師の家系は似たようなモノですが、遥か昔、アヴァリス王国が建国された時に多くの召喚術師達が集まり独立戦争をしたのです。
その時は当然召喚術師として格の高い、つまり強い召喚術師がリーダーとなり戦争が行われました。
そして近隣の国を打ち破った彼女達は召喚術師だけの王国を作り、戦争で活躍した人や階級の高い人を貴族にして、その戦争の大将、当時最強と謳われたアヴァリス家当主が初代王に君臨しました。
その血を受け継いだ子孫は必然的に生まれた時から高い霊力を有し、高位な幻想種と契約をしてきました。
つまりアヴァリス国における身分、爵位は強さとイコールで結ばれ格下の者に負ける道理は無く、負けるような事があればその者は出来損ないの烙印を押されてしまうのです」
「でも才能無くても努力次第で……たまたま才能ある奴が生まれる事だってあるだろ?」
納得できず反論するがハイディは首を横に振る。
「残念な事ですが、もしもこれが侯爵家や伯爵家の生徒ならただの非難で済んだでしょうし、最悪男爵家でも停学、悪ければ退学かもですが実家に影響は無いでしょう、ただその子は出来損ないで、格下の相手は評価が上がると思います。
ですがヨシトさんは東洋人ではありませんか」
やはりそこか、と義人は思わず眼を細めてしまう。
「幼い頃から世界中を旅行したわたくしはそこまで狭い価値観は持っていませんが、すくなくともこのアヴァリスを中心にヨーロッパでは白人至上主義が一般的で黒人や中東人、東洋人は白人よりも劣った生物というのが常識です。
どんなに身分が低くとも同じ白人ならばトンデモない天才が生まれたか、貴族にトンデモない出来損ないが生まれたで済みます。
でもダメなんです、白人以外は。
白人以外の人種は絶対的に劣った下等種族で自分達より優れるはずが無い、稀ですが酷い人に至っては白人以外は人間では無いとすら断言します。
だからヨシトさんを天才とは認められないんです、東洋人が西洋人を追い越す事はあってはならない事ですから。
だから全ての原因はエイリーンさんに行き、アバルフィール家の血統がそれほど劣っているという事にしないと皆さん納得できないんです」
伯爵家だが平等な価値観を持つハイディは少し悲しそうな顔でそう説明してくれた。
下級貴族である子爵家チェリスと男爵家エレオも顔に影が差す。
エレオとチェリスは貴族で、世間的に見れば十分すぎるほどお金持ちで、贅沢な日々を暮らす幸せな人間だろうが、それは庶民の目線から見ての話であり、貴族の世界に住む彼女達からすればそれは当然のことで、むしろ上級貴族からは貧しいと蔑まれる。
その人生を低い身分のせいで苦しんできた彼女達はハイディの説明にすっかり暗くなってしまう。
「ボクは、やっぱりエイリは自業自得だし、可哀相だとは思わないけど、ヨッシーへの見方はやだなー」
「わたしも……エイリーンさんに勝ったならヨシトくんの強さを認めればいいのに」
「それができない人種なんですよ、わたくしの実家は新聞社ですから、職業柄王族や公爵家の方へインタビューした時の話を聞きますが皆、家の名誉ばかり気にする窮屈な方ばかりですから」
「俺もうそういうのは嫌いだ」
普段とは違う、真剣な声にエレオ達の意識が集まる。
「たった一つの黒星で評価を変える連中も、個人の失態を家全体の責任にするやり方も俺は嫌いだ」
きっぱりと言い切る義人に、エレオ達はあらためて義人の真っ直ぐさに惹かれるが義人は続けて、
「そんでああいうのもっと嫌いだ!」
立ち上がり、義人は大股にエイリーン……の取り巻き連中の元へ行った。
「え? ヨシトくん?」
「ヨッシー?」
「どうしたんですかヨシトさん?」
三人の制止を聞かず、新たな大樹イルナッシュとその取り巻き達の座るテーブルの前に立つと取り巻き達へ一喝。
「てめぇらっ! ツルむなら死ぬまでツルめっ!!」
食堂の声が消えた。
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