第23話 転落したエリート

「でもさー、入学早々ってのもあるけどこんなシルフ杯前に事件なんて迷惑だよねー」

「シルフ杯?」


 今度は義人が質問する番だ。


 どうやらエレオとハイディも知っているようで、チェリスが説明を始める。


「そっか、日本から来たヨシトは知らないんだっけ? えーっとね、シルフ杯っていうのはヨーロッパでは有名な伝統ある召喚術師の大会で、毎年春に行われるんだよね、内容は単純でサモナーアカデミーの全一年生によるバトルロイヤル、優勝者には一年生最強の称号が貰えて生徒会長権限で願いを一つ叶えてもらえるんだよ」


「願い?」


「そうそう、って言っても出来レースだけどね、優勝は毎年アヴァリス王家の生徒か公爵家の生徒、当然身内だから賞品て言っても毎年新しいドレスだの宝石だのパーティーを開きたいだの無難な事ばっか」


「なんで毎年アヴァリスの奴が優勝するんだよ?」


 義人の問いにハイディがため息をつく。


「仕方ないのですよ、入学したてでは持ち霊の強さが勝敗を決するのがほとんどですし、そうなると霊力の高い王族や公爵家の人間で召喚術大国アヴァリスで育った生徒は皆規格外の持ち霊揃いです」

「ヨシトくんは勝ったけど、エイリーンさんのヴァルキリーだって、学年代表のレイラさんが持つスカイドラゴンを除けば学年最高位の幻想種なんだよ」

「確かに強かったな」

「そうですよ強いんですよ、それでヨシトさん、そろそろヨシトさんの持ち霊の名前を教えて下さいよ」

「いやそれは……」


 顔を渋らせる義人に詰め寄るハイディ、だがチェリスが首を横に振って手をひらひらさせる。


「無理無理、ボクらも結構聞いてるけど教えてくれないんだもん」

「だから言ってるだろ、日本の妖怪だから聞いても分からないって」


「分からなくてもいいんですけど名前だけでも、確か蛇の幻想種でしたよね、でも火を使えるわけですしバジリスクにしては大き過ぎますし、調べようにもヨーロッパでは日本の資料は手に入りにくいんですよねぇ」


「まぁとにかく日本の凄く強い火を吹く蛇の幻想種って事でいいだろ?」


 一際黄色い声が聞こえたのはその時だった。


 見れば、エイリーンの取り捲き達が何故か違う生徒と一緒に歩き、その生徒を褒め千切って阿諛(あゆ)追従(ついしょう)に必死だった。


 その後ろから一人きりのエイリーンが食堂に入って来て、取り捲き達とは離れた席に座った。


 取り巻きがいない事もだが、今のエイリーンにはいつもの元気が無く肩を落とし、視線も落ちている。


 それから食事を持ってきてくれる取り巻きがいない事を思い出したのか、また席を立ってカウンターへ向かう。


 サモナーアカデミーの生徒は皆貴族のご令嬢だが、食事を持ってくるメイドや執事はいない。世界最強の人間兵器である召喚術師は将来軍人として戦場で活躍する事が期待される為、生徒達は学園に在籍する三年間は使用人のいない生活を強いられるのだ。


「なんだあいつら、エイリーンもだけど、あの取り巻きに囲まれてるの誰だ?」


「わたくしが説明しましょう、彼女は私達と同じクラスでアヴァリス国の貴族であるマクレアー侯爵家の四女でイルナッシュ・マクレアーさんですね、ちなみに実家は有力侯爵家でいわば侯爵家筆頭、うちのクラスではエイリーンさんの次に爵位が高いですね」


「でもエイリーンのほうが爵位高いんだろ? それにあいつらこの前までエイリーンにコバンザメだったのになんでだ?」


「まぁ、エイリーンさんは退学が決まってますし、アバルフィール家は没落の危機ですから」


「……それって俺と関係あるのか?」


「はい、やはりこの前の戦いが問題だったようで、学園の顔に泥を塗ったということでアバルフィール家は咎めを受けるそうです。実家に呼び戻されるとか、学園の中でもエイリーンさんの評価は地に落ちて彼女もここに留まるのは辛いでしょう」


「でも自業自得だよねー、公爵家だからって調子にのって散々偉そうなことしてヨッシーに喧嘩売った結果がこれでしょ?

 社交界じゃいつもボクとエレオちゃんに意地悪してたし、ボクはちょっといい気分かも」


「なんでそこまで評判落ちるんだよ、ただ俺に負けただけだろ?」

「それはわたくしの記事の力ですよ!」


 得意げにバッグから取り出した新聞にはでかでかと『公爵家エイリーン・アバルフィール、日本からの留学生鷺澤(さぎさわ)義人(よしと)に敗北』の文字が印刷され、エレオ、チェリスという美少女に挟まれる義人の写真の横に、百合のヨダレだらけで失神するエイリーンの写真が掲載されている。


 文面には、如何にエイリーンが公爵家の地位を傘を着て横柄な態度をしてきたのか、そして義人がエレオなど下級貴族の為に立ち上がりエイリーンと一騎打ちで見事破った事が細かく記載され、はっきりとは書かれていないが、まるで弱きを守る救世主が悪しき貴族を討伐したかのような印象を受ける内容だった。


「やりすぎだ」


 びしっ!

 義人に軽くチョップをされてハイディは額を抑える。


「うぅ、何故わたくしが……」


 しかしエイリーンの評判は落ちても義人が下級貴族から英雄視される事は無い、相変わらず不条理な世である。

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