第22話 日本金属無双


「なんかヨッシー、完全に先生にも目をつけられてるよね」


 食堂のテーブルでパスタを食べながらチェリスは真昼間からワインを飲み、その隣でエレオはフランスパンを口に運ぶ。


 ちなみに和食はおろか米も無いので、義人は蛇である百合の好みに合わせて鳥肉と卵を使ったメニューをてきとうに頼んだ。


「しくじったなー、ガチで四面楚歌だぜ」


(お主はうつけじゃなぁ)

(今回のは罪ねえだろ! むしろ俺からすればヨーロッパの連中がここまで学習後進国だなんて知らなかったわ!!)


(まぁ字の読み書きもできないのには驚いたの)

(まず庶民は学校に行けないらしいからな、泰三にこの事実を教えたら踊りながらフグを毒袋ごと食うぜ)


「ヨッシーどうしたの急に黙って?」

「え? いや、ただお前の揺れるアホ毛が可愛いなって思ってただけだよ」

「ああこれ? 見てみてヨッシー、これ霊力で動かせるんだよ」


 言った途端、チェリスの頭頂部から生えるアンテナがぴょこぴょこと動く。


「髪伸ばしたら便利そうだな」


 触手のように動かせば第三の手として利用できそうだと思ったのだが、チェリスは、


「いや、動かせるのこの一房だけだし三〇センチから先は動かないから無理」

「チャームポイント以外の用途ねえんだな」

「えへへー、チャームポイントー♪」


 顔を綻ばせて喜ぶチェリス、するとエレオが義人に顔を近づけ必死に見つめて来る。


「えーっと、エレオは赤い目がチャームポイントかな」


 ぱっと顔を明るくしてパンを食べるエレオ、女の子としてチェリスだけが褒められるのが不満だったのだろうと義人は思う。


「(さすが女の子は自分の魅力に敏感だな)」


(お、お主それは本気で言っておるのか?)

(本気だけどなんで? あ、俺は百合の長い黒髪が大好きだぞ)

(いや、まぁそれは良いのだがそうではなくエレオはお前の事をだな)


「またヨッシー黙ってる」

「ヨシトくんて時々急に黙る事あるよね、なんで?」

「そ、それは……」


 幻想種を高位の、雲の上の存在とし交流を持たないこの国の人間に百合の話をすれば気味悪がられるかもしれないし、そもそも百合の事はできるだけ秘密にしたい。


 ただでさえ日本人の男の召喚術師というだけでも目立っているのだ。


 これ以上トラブルの種を自分から撒く真似はしたくないのが本音だった。


(とてもではないがそうは見えんがの)

(女の子の為ならトラブルの種なんかいくらでも撒くぜ、まあそれは置いといてここは無難に誤魔化しとくか)


「そりゃエレオとチェリスが殺人的に可愛いから四六時中見惚れているだけさ」

「そ、そんな可愛いなんて……はぅ」

「さっすがヨッシー、見る目があるよねー♪」

「(よし誤魔化せた)」


(お主日に日に天然ジゴロになるのぉ)

(ん? 今なんか言ったか?)

(空耳じゃ)


「これはこれはお三方、仲良くお食事ですかな?」


 とことこ上機嫌に近づいてくるのは同じC組で伯爵家の令嬢、ハイディだ。


「どうした、機嫌いいな?」

「はい、実はまたもやスクープを発見してしまいました」


 言って、義人達の目の前に広げた一枚の新聞には『謎の石化事件』という見出しの記事が掲載されていた。


「これお前が作ったのか?」

「もちろんです、どうやらその反応を見るところ三人ともまだ知らない様子ですね」


 首を縦にふるエレオとチェリスにハイディはにやりと笑って席につく。


「これは昨日の日曜日に起こった事件なので無理もありませんね、ではわたくしからご説明させていただきます。そして一人一部ずつどうぞ」


 押しつけるようにしてバッグから取り出した新聞を一部ずつ渡し、ハイディは人差し指を立てて饒舌(じょうぜつ)に語りだす。


「実は昨日の夕方、校舎の中で石になっている生徒が五人も発見されたのですよ」

「ふえ!?」

「ほんとに!?」

「ふーん」

「反応が薄いですよヨシトさん、それで今朝から石化能力を持っているバジリスクやコカトリスを持ち霊にしている生徒は全員生徒会室か風紀委員室に呼び出されています」

「なんで分かれるんだ?」

「身分の高い生徒は生徒会室で他は風紀委員室です」

「また身分かよ」


 辟易する義人にエレオが尋ねる。


「そういえばヨシトくん、日本には人を石にしちゃう幻想種いないの?」


「いないなぁ、磯女(いそおんな)ってのが石にはするけど石化じゃなくって本当に石っころにしちゃうし、自分が石になる妖怪ならいるけどな、子泣き爺ってのが」


「子泣き爺? それはどういう幻想種なのですか?」


「顔が爺の赤ん坊で山の中で赤ん坊が泣いているから捨て子かと思って拾ったら顔がしわくちゃの爺さんで、途端に背中に飛び乗って来て石になってそのままどんどん重くなってその人を押し潰すんだよ」


「お、おそろしい妖怪なのですね……」


 ハイディと一緒にエレオとチェリスも引き気味だ。


「でもその重みに耐えたら小さな願いを叶えてくれるんだよ」

「なるほど、つまりそれは子泣き爺からの試練なのですね」

「おう、だから毎年背負って毎年豊作してもらったぜ」


「「「それは頑張り過ぎ!!」」」


 総ツッコミにも動じず義人は笑う。


「あはは、でもそしたら自分の願いじゃなくてみんなの為の願いばかりで偉いからって言って、元は人間の名工で幻想種界最高の刀鍛冶一本だたらが鬼火とヒヒイロノカネで作った妖刀三日月連夜(みかづきのれんや)もらったぞ」


 腰の刀を撫でてエレオ達の視線が集まる。


「ふえー、入学式の日に幻想種四体も斬っちゃうから凄いとは思ってたけど、その刀のおかげだったんだ」

「妖刀って魔道具だよね、ボクの家にもいくつかあるけど使わせてもらえないんだよね」

「それでそのヒヒイロノカネとはなんですか?」

「えーっとこっちの言葉だとオリハルコンとか言ったかな……」


 三人が同時に悲鳴を上げそうになって自分の口を塞ぎ、悲鳴を呑みこんだ。


「よ、ヨシトくん……オリハルコンてそれ神の金属でアヴァリス城の宝物庫にもそんな剣現存しないよ」


「え?」

「それもう魔道具じゃなくて完全に神剣、宝具の類(たぐい)だよヨッシー」

「そうなの?」

「し、失礼ですがこれ以上取材したらわたくしの命がまずかったりそういう事情含んだ物ですか?」

「…………」


(おい百合、どういうことだ?)

(ヨーロッパではオリハルコンでできた装備はエクスカリバーなどを始め全て伝説上の存在で全て人間界からは消失してしまっている、持っていてもせいぜいランクの落ちるミスリル製の剣じゃ)


(隠しとくか?)

(ただでさえ日本は金銀を狙われとる、ヒヒイロノカネ目当てで大陸が日本に責めてきたら面倒じゃ)

(了解)


「そうだな、まあこの刀は幻想種達から貰ったものだし俺以外の人間があまり踏み込むと危険だぜ、だから記事にもしないほうがいいぞ、誰が死んでも俺責任取れないし」


 ちょっと強めに脅してみると、ハイディの表情が固まる。


 これで義人の刀を記事にしようとは思わないだろう。


 幻想種を超常の存在として崇め恐れるヨーロッパ人にだからこそ効く脅し文句だ。

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