第19話 ざまぁ断罪
「言い訳はあるか、エイリーン・アバルフィール」
「い、いえ……」
特等寮、王族専用階の一室でエイリーンは一人の生徒に跪(ひざまず)き、頭を垂れたまま顔も上げられずにその身を震わせた。
相手の名はレイラ・アヴァリス、この召喚術大国アヴァリス王族の一人で、現王の姪に当たる人物であり一年A組のクラス代表にして学園代表。
一年の全生徒を代表し統括する存在だ。
髪型は金髪の縦巻きロールでドレスは彼女の絶世の美しさに負けない豪奢なモノで白と水色を基調として金の刺繍が施されている。
贅の限りを尽くした部屋の中でイスに座り、絨毯の上に跪くエイリーンを氷のような目で見下して、女帝さながらの貫禄で問いかける。
「アヴァリス、そしてこの独立学園国家サモナーアカデミーの歴史と伝統は知っているな?」
「はい! それは重々承知しております!」
「東洋人の男がこの学園に在籍している事は由々しき事態、本来ならばあの男が大浴場に侵入した時点で処刑ものだ、だが、残念ながら女しかいないこの国にはそういった事を取り締まる法律が無い……」
悔しそうにレイラは歯を食いしばる。
この学園、サモナーアカデミーはアヴァリス国内にあるとはいえ独立学園国家。
アヴァリス本国を含めたあらゆる国の法を寄せ付けず、校則という独自の法律を持っている。
だが全国民が女性のため、当然に覗きや痴漢行為を取り締まるような校則は無く、紛れも無く学園の生徒である義人が生徒用の大浴場に入ったとしても咎める事はできないのだ。
「だから先日の演武はあの男を亡き者にする絶好の機会だった、戦闘行為による事故なら日本幕府も文句が言えないだろうからな」
何の躊躇い無く『亡き者にする』と言って、レイラは自身の頬に手を当てため息をつく。
「それで、アバルフィール公爵家の貴様がしたのは何だ?」
「それは……」
言い淀むエイリーンにレイラは冷たく言い放つ。
「全校生徒や教員、街の住民の前でアヴァリス国公爵家にしてクラス代表に選ばれた生徒が極東のジャップ風情に無様に負けてあんな醜態を晒す罪の重さ、分からない訳ではないだろう?」
歯をカチカチと鳴らすエイリーンを見下ろして、レイラは立ち上がり振り返るとゆっくり窓際へ歩みを進める。
「この事は実家に報告させてもらう、それと、アヴァリス国の権威を貶めたとしてアバルフィール家への評価も改めなくてはならないな」
「待って下さいレイラ様! この失態はワタクシの責任でお父様達には」
キッと睨まれ、エイリーンは慌ててうつむく。
「最終的な判断は王である伯母(おば)様に任せるが、公爵(デューク)から侯爵(マーキス)への降格も有り得るかもな」
「…………!?」
「ただ負けただけなら問題ないが、相手がジャップで、しかもあんな公衆の面前ともなればな」
一等貴族の公爵から二等貴族の侯爵への降格。
貴族とは家名を重んじるモノ、個人の意志よりも家の意志を尊重する存在である。
そんなエイリーンに取って、自分の失態のせいで古くから代々公爵家として君臨してきた家が侯爵へ落ちるという事は、死刑以上に辛い事だった。
死刑ならば自分の首一つで済むが、家柄の降格は一族全ての首を刎(は)ねるに等しい。
当然、今までは侯爵家として崇められ、もてはやされていた権威が今度はアバルフィール家全体に降りかかる。
親しくしていた筈の他の公爵家や、アバルフィール家に代わって公爵家の座に治まる有力侯爵家の人々は自分達を蔑み、今までご機嫌取りに必死だった二等以下の貴族達は国家の威信に泥を塗った、堕ちた貴族としてここぞとばかりに責め立ててくるだろう。
「いつまでそこにいる?」
「あの……?」
「とっとと下がれ!!」
顔を上げるとレイラの靴の先が迫り、エイリーンの顔面を蹴り飛ばす。
成すすべも無く倒れて、エイリーンは転がるようにして部屋から飛び出し、泣きながら廊下を駆けて行く。
一人部屋に残ったレイラは舌打ちをして、壁に貼ってあるアヴァリス国の中でアバルフィール家の領土に注視した。
「使えないゴミに用は無い」
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