第18話 負けヒロインの苦悩

「そんじゃ一口」


 下の大きな方にかじり付いて、その柔らかさと口当たりの良さに義人は感動する。


 是非ともこの美味しさを故郷の友達達にも教えたいものだ。


(うまいのぉ、おい義人、さっさと二口目を食え、ほら早く)

(せかすなよ、わがまま言うとマジで味覚共有遮断するからな)

(むぅ、今日はわしだって頑張ったのだからご褒美があってもよいではないか)

(それはそうだけどよ)


「どしたのヨッシー、急に黙り込んで?」

「おいしくなかった?」

「いやいや、このブリオッシュ超おいしいぞ、まったく毎日でも食べたいくらいだぜ」

「ま、毎日……はぅ」


 エレオの顔が首元から耳までぽぉっと赤くなる。


「駄目だよヨッシー、エレオちゃんはボクの嫁なんだから!」

「え? お前らそういう関係だったのか? 何で俺の周りはレズが多いのかねぇ」

「ち、違うよ義人くん! わたしとチェリスちゃんはそんな関係じゃないよ!」

「裸で同じベッドに寝た事があります!」

「あれは寝ている間にチェリスちゃんが脱がせたんでしょ!」

「エレオちゃんの体でボクの指が触れて無い場所はありません!」

「ヨシトくんの前で変な事いわないでぇー!」


 涙ながらに訴えるエレオとそれを楽しむチェリスのやり取りを微笑ましく見ながら、義人はブリオッシュを食べる。


「(こんな平和で美味しくて少しエッチな日々が続けばいいなぁ)」


(そうじゃな、こんなエロスと御馳走とエロスと愛人とエロスがあればそこが“ぱらだいす”じゃな)

(…………自重する気は?)

(ありませんが何か?)

(もういい)





「クソッ! あのクズ共!!」


 特等寮の自室でシャワーを浴び、エイリーンは鏡を睨みながら毒づく。


 エリートの自分が、公爵家の自分が、クラス代表の自分が、霊力評価と持ち霊評価共にAランクの自分が、極東のサルに負けるなど有り得ない、まして大衆の前であんな姿を晒して、違う、晒されてしまうとは。


 完全な逆恨みで地団太を踏み歯を食いしばる。


「たかだかセカンドサモンごときで私のサードサモンを……あら?」


 湧いた疑問で急に怒りが鎮火し、エイリーンは今までの事を思い出す。


 お風呂場で義人に投げた槍はつかみ取られた。


 今日の戦いでも自分の攻撃はほとんどかわされ、とんでもない肉体強化能力だと思っていたが、



 義人は一度でも『サモン』と言っただろうか?



 召喚術を使っていない、普通の状態で戦い異常な身体能力を見せ、無言のままに蛇腹剣を召喚、無言のままに体を蛇と一体化させ、無言のままに大蛇が召喚された。


 それどころか、大蛇の召喚に至っては召喚陣すら見えなかった。


 詠唱破棄は不可能ではないが、義人の年齢でその境地に辿りついたならばまさしく天才、義人の実力高さを認める事になる。


 東洋の召喚術の特徴なのだろうか?


 だとするなら東洋の召喚術は詠唱と陣がいらないのか?


 そうなると今度は東洋の召喚技術のほうが上という事になってしまうような気がして、やはりまた否定する。


「でも……でも……」


 その夜、エイリーンはこの謎に悩まされベッドに入っても悩み続けた。

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