第17話 祝勝会

「というわけでヨッシーの勝利&ムカつく公爵家レディをぶっつぶしちゃったもんねパスタパーティー開始でかんぱーい♪」


 夜、義人の部屋でチェリスが長すぎるタイトルを告げてワイングラスを突き出し、義人とエレオもカンパイする。


 グラスの中のワインを一気に飲み干し、三人はチェリスが用意したパスタ料理を食べ始める。


「そういえばヨシトくんケガはいいの?」

「ああ、サードサモン使った時に治ったよ、俺の持ち霊再生系だから」

「へぇ、それにしても凄かったよねヨシトくん、まさかクラス代表の人倒しちゃうなんて」

「そうそう、ていうかあの蛇すっごく大きいよねー、あれなんて幻想種?」


 リスのように頬を膨らませるチェリスの顔が可笑しくて可愛くて、義人は笑いをこらえるの必死だった。


「内緒だ内緒、それに日本の幻想種だからお前らに言ってもどうせ分からねえよ」

「まぁ、それはそうだよね」


 納得するエレオとは対照的にチェリスは不満そうな顔でまたパスタをほお張る。


「そう言うお前らの持ち霊ってなんなんだよ?」

「むぅ、自分は言わない癖に乙女の秘密にだけは触れようとはなんたる浅ましさ」

「わたしは……死神だよ」

「って教えちゃうのエレオちゃん!?」


 チェリスのツッコミも空しく、エレオはテンションを上げる事なく何故かうつむいてしまう。


「死神ってあいつら強いじゃん、なんで馬鹿にされてるんだよ?」


 まるで死神が顔見知りであるかのような言い方には気づかず、エレオは溜息をついた。


「わたしは違うの、実力があったんじゃなくて他に選択肢が無かったの」

「どういう事だ?」

「私は霊力低いし、才能無くて幻想種と契約できなかったの、それでわたし体が弱いから、色んな死神が時々様子を見に来るんだけど、その時に頼んで契約したの、わたしが死んだらあなたに魂をあげるからって」


 寂しげに話すエレオの肩を、急に義人がつかみ取る。


「どういう事だよそれ!? ガンか? 結核か? 待ってろすぐに山の仙人から万能薬貰ってきてやる!!」


 陸上選手のようにスタートダッシュポーズを取る義人の姿に微笑んで、エレオは手を横に振った。


「違うよヨシトくん、今は大丈夫、特になんの病気でも無いから」

「そうなのか?」


「うん、ただ体が弱くてよく風邪も引いてたし、体力も無いから大きな病気にかかったらまず助からないだろうって言われているから、死神さん達が魂を取りこぼさないように様子見に来るっていうだけ、それにわたしドジだからケガもしやすいしね」


 人の運命とは神でも分からないモノ。


 死神の仕事は死ぬ運命の人の元へ来るのではなく、死んだ人の魂が迷わずあの世に行けるようにする事。


 だから死にそうな病人やケガ人だけでなく、エレオのように虚弱体質の人のところにもよく現れるのだ。


 義人は日本でも自分がケガする度に陽気に現れるハイテンションな死神を蹴飛ばしてやった事を思い出す。


「そういえばそうだったな、悪い取りみだした」

「ていうかヨッシー、仙人様が人間相手にそんな簡単に妙薬くれるわけないじゃん」

「えっ、あっ、うんそうだな(俺日常的に貰ってたけど)それでチェリスは?」

「ボクのは秘密だよ、ヒーローは遅れてやってくるものだからね、みんながピンチの時にさっそうと現れるのさ♪」

「ユニコーンだよ」

「なんで言っちゃうの!?」


 さらりと言うエレオにツッコミ一発。


「だってヨシトくんが知りたがってるから」


「うっわ、愛人(ともだち)売ったよこの娘(こ)信じられない!! ショックでグレてやる!!」


「パスタうめぇ、やっぱチェリスって料理上手いんだな」

「あぁん、ヨッシー愛してるぅ♪」


 義人に飛びついて甘えるチェリス、その行動にエレオが赤面しながら挙動不審になる。


「あう、あう、駄目だよチェリスちゃん、そんな……そうだヨシトくん、わたしも料理、っていうかお菓子作ったんだよ、ほらブリオッシュ」


 言って、エレオがバスケットから取り出したパンは大きくて丸いパンの上に小さな丸いパンがくっついて、ダルマのような形の可愛らしいデザインだった。


「可愛い形してんな、でもこれってパンじゃないのか?」

「ううん、パンと違って水の代わりに牛乳使ってバターと卵を多く使っているの」

「おいしいから食べてみなよ、大丈夫今回は媚薬や睡眠薬は入ってないから」

「媚薬?」

「ななな、なんでもないよヨシトくん、それより早く食べて!」


 慌てて会話に割り込むエレオの様子に首を傾げながらも義人はパンを口に運んだ。


「そんじゃ一口」


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