第11話 決闘当日


 休日の土曜、校舎近くに建造された巨大円形闘技場。


 そのアリーナへ続く廊下の途中に、エレオとチェリスが待っていた。


「やっほーいヨシト、昨日はねむれたー?」

「昨日はいいもの見れたからな、朝までぐっすりだよ」

「やぁん♪」


 わざとらしく胸の谷間を隠すチェリス。


 対象的にエレオは本気で恥ずかしがっている様子で、小柄なチェリスの後ろに隠れようと無駄な努力をしている。


「エレオも応援に来てくれたのか?」

「ふえっ!?」


 びくんっと全身を跳ね上げ直立不動の姿勢になるエレオ。


 いつもの露出の少ない地味なドレスを着ているのに腕で胸を隠すあたり、まだ昨日のショックが抜けないのだろう。


「えと、その……が」


 躊躇いがちに一言。


「がんばって」

「頑張る!(かはまだ検討中なんだけどな)」





 エレオとチェリスが客席の方へ向かったのを確認して、選手入場口を抜けた義人はアリーナの様子に口笛を吹いた。


 一万人以上収容できそうな客席は学生を中心に大人も混ざった客に埋め尽くされ、黄色い歓声がそこら中から溢れて義人の耳を突く。


 広大なフィールドを階段状の客席が囲む作りは日本では見た事が無い。


 日本の木造建築とは違い、レンガ作りが基本のヨーロッパであるため、当然このコロシアムも石材が基本材料なのだろうが、客席の床は板張りで、並ぶイスは自分のスペースを十分に確保できる程広く、座席の左右には手荷物らしき物が置かれている。


 座り心地を追求し木製で、座る部分や背もたれは上等な革で覆われている。


 当然、イスの一つ一つ全てのあらゆる場所に細かな模様が彫り込まれ、細部に至るまで手を加えられた客席はさらに種類があるようで、戦いが良く見える前の方の席には金細工まで施されている。


 おそらく王族や公爵家の人間が座るのだろう。


 義人は三重の反転結界の中に入り、このコロシアムを作るのにどれだけ金がかかったんだろうと思いながら視線を客席からフィールドへ戻すと、既に戦いが始まっていた。


 天へ噴き上がる爆炎に思わず腕で眼に影を作る。


 何ごとかと見直すと、一頭の獅子が焼け焦げて倒れている。


 無論ただの獅子ではない。


 首の横からは山羊の頭が生えて、尻尾からは蛇が生えている。


 山に住む狂暴な合成獣、キマイラだ。


 しかし幻想種は人が勝てるべくもない高位の存在。


 キマイラの幻想種としてのランクは決して高くないが、マスケット銃で武装した兵が中隊で、いや、大隊で立ち向かったとして勝てるかどうか。


 そんな相手を丸焼きにできる人間は当然この世にただ一種類。


『演武終了ー! 流石は一年D組クラス代表、アヴリル・アルファーロさん! スペイン公爵家の実力は本物だー!』


 拡声機越しに会場に響く声。


 キマイラの横でドレスの隙間から炎を噴き上げる絶世の美少女が観客へ視線を送りながら情熱的に踊っている。


 黒く長いウエーブヘアーが長い足のステップに合わせて揺れて、一緒に体にフィットしたドレスが彼女の抜群のプロポーションを際立たせている。


 それでいて、腰から下はフリルの多いレイヤースカートで、髪と一緒に激しく揺れてスリットの隙間から見える美脚が艶めかしい。


 アヴリルとは彼女の事だろうが、今日は自分とエイリーンの試合のはずだが、前の試合がまだ終わっていないのだろうか?


 なんにせよ、あれほどの火炎を扱うのだ、結界も確かに一枚では観客が危険だ。


『それではアヴリル選手の演武、キマイラ狩りの興奮も冷めやらぬ中、続いての演武はみなさんお待ちかね、一年C組のクラス代表、ヨーロッパが世界に誇る召喚術大国アヴァリス公爵家のご令嬢』


 溜めて、観客の期待を煽る中で義人はアナウンスのニュアンスに違和感を感じる。


 試合では無く演武、それではまるでショーだ、決闘とは違う観せる為の戦い、しかしここは学び舎(や)、所詮は学生同士の決闘などお遊びのような物なのか、ならばこちらも娯楽気分で気軽に闘うかと、日本の喧嘩仲間達とした相撲や竹刀による試合を思い出しながら義人から平和な表情が零れると、


『エイリーン・アバルフィール選手によるジャップ狩りでーす!』

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