第10話 百合百合
「(美少女なのにぐへへって言ったぞこいつ……)」
「日本の風呂じゃ男とかも混ざっておるのに視界いっぱいに裸の女だけとは、たまたま女が多い時に入った日以来じゃぞ。
おまけにみんな若くて巨乳で美人で、あぁ……あれほどの光景、古代皇帝の酒池肉林でも拝めんぞ」
国中の村や町から美しい娘達をさらい酒池肉林を築いた暴君は歴史上何人かいたが、さすがに貴族の娘揃いなどという規格外を実現した者はいなかった。
先程の光景を思い出しながら、スケベ親父のように怪しく笑う百合に義人は頭痛を覚える。
「相変わらずの百合野郎だな、このレズレズの百合レズめ」
「だって女体だぞ! 裸だぞ!」
くわっ、と目を剥き、危機迫る勢いで百合が義人を睨みつけて全身の毛を逆立てる。
「あの動きに合わせて揺れるけしからん柔らかな双球やぷりんとした尻にむちむちっとした太腿! あのような最強宝具を見せられ理性など保っておれるか! わしはあの丸く柔らかい肉感的な体を見ておると、こう腰の辺りが熱くなって下腹がむずむずと」
「だったら自分の体鏡に映して乳揉んでればいいだろ」
今のところこの学園のだれよりも胸が大きな百合だが、そう言われていよいよ額に青筋をビキビキ浮かべて牙を剥いた。
「うつけ者!! 自分と他人の乳は別物!! いくら大きく柔らかくとも自分の乳など興味ないわっ!! それに百合、百合と言っているがわしには立派な名前がだな!」
「はいはい、百合百合の百合ちゃんはおとなしくしましょうねー、それと暴走して風呂場では出て来るなよ、むしろ風呂に入っている時は俺との視界共有遮断しろ」
「そ、そんな、日本を追いだされたのだからこれぐらいの役得はあって……いや、すまん」
涙ながらに訴えようとして、すぐに百合は顔を伏せてから謝った。
「いいよ、気にしてない、むしろ悪いのは俺だし」
いつもよりも声に張りの無い義人に、百合は上目遣いに、ちらちらと様子を覗いながら尋ねる。
「なぁ義人、もしもわしの事がばれて、ここも追い出されたらどうするのじゃ?」
急にしおらしくなり、うなだれてしまう百合を気遣い、義人は微笑を浮かべる。
「その時は高天ヶ原に行くさ、それに何度も言うけど原因を作ったのは俺だし、そのせいでお前には不自由をさせているんだ、だからお前がそうやって気にする必要はないよ」
百合の頭を、今度は優しく、慈しむように撫でる。
「それに百合にはいつも元気でいてもらわないと、俺も調子出ないだろ?」
「じゃよなぁ♪」
「うわー、切り替わりはえー」
棒読みの義人を無視して、百合は着物を消滅させると幼年体となり、代わりに白く薄い寝間着用の浴衣をまとう。
そのまま部屋に備え付けられたベッドに潜り込み大きな欠伸をして目を閉じた。
「それじゃわしはもう寝るからの、朝になったら起こしてくれ」
言い終わる頃にはもう寝息を立てる百合、平和そうなその寝顔に義人は思わずクスリと笑ってしまう。
「ったく、本当に自由な奴だな」
自分も着替え、初めて使うベッドの柔らかさに感心しながら、百合の横に寝る。
下等寮とはいえ貴族用のベッドは二人ぐらい楽に寝られそうな大きさだが、百合が幼年体になって体を小さくしているのはこちらを気遣っての事だろう。
無防備に寝息を立てる可愛い少女の頬を指でつまみ、義人はその寝顔をのぞき込む。
「まったく何が誘惑だ、こんなに無防備だとそのうち、本当に襲っちゃうぞ」
小さな百合を愛でながら、義人も静かな眠りについた。
三〇分後、義人の寝息を確認して百合は起き上がる。
「義人、お主は謝るが」
厚い胸板にそっと顔をうずめる。
「……わしは幸せじゃぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます