第9話 ロリ登場
「ほらエレオちゃん元気出して」
「はうぅ……」
その頃、チェリスはエレオの部屋で彼女を慰めるのに必死だ。
「……あれかな、今回の事でヨシトの事嫌いになっちゃった?」
ベッドの上に座るエレオは首を振る。
「ううん、だってヨシトくんの国は混浴だし、そういうの知らなかったなら仕方ないし……文化の違いに怒るのは、やっちゃダメな事だと思うから」
「(ほんとにいい子だねぇ)じゃあやっぱ恥ずかしかったから落ち込んでるの?」
「うん、それもあるけど、でももう一つ」
「もう一つ?」
「そのね……これでヨシトくんに全部見られちゃったけど、ヨシトくんは日本の女の子の裸もいっぱい見てるわけでしょ? わたしの体と、やっぱり比べたりしてるのかな?」
「…………」
「わたしよりヨシトくん好みの体の子いたのかな? せっかく期待してくれてたのに、わたしの裸見てがっかりしてないかな?」
急に詰め寄ってくるエレオに気押されながらも、チェリスはフォローする。
「大丈夫だよ、最高とか一番とか言ってたし、ボク達の中じゃエレオちゃんが一番だよ」
「でも日本にはもっといい子がいるかもしれないし」
「大丈夫だよ、ほら、ヨシトが言ってたじゃん、こっちの女の子はみんなおっぱい大きくてスタイルいいって、つまりヨシトって大きなおっぱいが好きってことでしょ? 日本の女の子がこっちの子よりもおっぱい小さかったならエレオちゃんの圧勝じゃん」
「そうかな?」
「そうだよ、大丈夫、ヨシトは今エレオちゃんの事を一番可愛く思ってるよ」
「うん、なんかわたし自信出てきたよ、ありがとうチェリスちゃん」
涙を拭き、チェリスの手を握り締めるエレオ、ようやく立ち直ったかとチェリスが安心すると、エレオは自分の化粧台の引き出しを開け、
「じゃあまず媚薬と睡眠薬を」
「それはやりすぎ」
的確なツッコミにエレオがまた落ち込んだ。
「お母さんが持たせてくれたのに」
「(エレオちゃんのお母さん、女子しかいないこの学園国家で何を想定していたんだろう)」
「それに好きな人ができたらまずは既成事実だってお母さんが、お母さんもそれでお父さんをゲットしたって」
がしっ!
「エレオちゃん、今までの事は全部忘れてここでボクと一緒に恋の勉強しよっか?」
「う、うん、分かったから肩離して、さっきから痛いよ」
チェリスの剣幕に押されて、今度はエレオがタジタジだった。
風呂から上がり、義人は部屋に戻る。
今日初めて一人になれた義人はカーテンの隙間から洩れる月明かりを頼りに、ろうそくが乗った燭台を見つけると指を鳴らし、それだけで九本のろうそくには火が灯る。
「他人の気配は無し……もう出て来ていいぞ」
言うが早いか、義人の体から翡翠色の光が床へと溢れ、その中から長い黒髪の小さな女の子が飛び出した。
「ふぅ、やっと出てこれたわい、やはり体があると気分が違うのぉ」
年寄り臭い喋り方で肩を回しながら、少女は翡翠色をした着物の乱れを直す。
フォースサモンではない、ただ出てきただけ、ただ実体化しただけだ。
「なんだ百合(ゆり)、今日は珍しく幼年体だな?」
「ふふふ、この国は巨乳の巣窟じゃからな、幼女成分が足りていないであろうお主へわしからのの“さーびす”というやつじゃ」
小悪魔っぽく笑う百合へ一言。
「っで? 本音は?」
「子供のほうが、万が一にも連中に見つかった時甘えやすっ、誤魔化しやすいじゃろ?」
誰にどう甘えるのかは聞かなくても分かる。どうせエッチな事だ。
「こちらの姿は如何せん大人過ぎてお主とも不釣り合いじゃしな」
途端に身長が五〇センチも伸びてエレオ以上の長身となり、胸や尻が膨らむ。
顔が大人の色香を含んだ切れ長の瞳と筋の通った鼻に小さくも形の良い口を持ち、化粧をしなくても天女のような美しさだった。
その上豪奢ながら着物は幼年体のサイズのままなのでなまめかしい美脚と零れそうな胸の谷間が丸見えだ。
「じゃあもっと貧乳に化けろよ、簡単だろ?」
「馬鹿者! これは変化の術ではなくあくまで人間形態、その姿は本人が人間だったらという仮定の元に成り立っておる! よってこの乳と尻はわしの実力じゃ! 本物じゃ!」
熱弁する百合に義人は純度一〇〇パーセントの疑惑で返す。
「なんで蛇が扇情的な体してんだよ、もっと寸胴だろ、むしろ蛇って真っ直ぐに見えて腹出てるよな」
「し、失礼な事を言うでない、痩せっぽっちは白蛇は別じゃが蛇は人を惑わす者、蜘蛛女同様に蛇女もボン、キュッ、ボーンしかおらん!」
「大きくなっても性格は変わらないな」
頬を膨らませて怒る百合の頭を微笑ましい顔で撫でると、百合は一歩下がって背後へ逃れるが顔はまんざらでもなさそうだ。
「ふんっ、とにかく人間形態で自由にできるのはあくまで零歳から二十歳までの年齢だけ、“ぼでぃらいん”を変えようと思ったらそれこそ霊力を使って変化の術を使わねばならん」
「婆さんにはなれねえのか?」
「わしは不老の蛇じゃから中年や老年の体はわしには有り得ん、じゃからわしが人間だったとしても老人だったらという仮定は有り得んのじゃ」
「……不老ねぇ」
何か思うところがあるような顔をするが、百合は自分の胸を見下ろして続ける。
「まぁ乳好きのお主を誘惑するにはこちらのほうが便利そうじゃがな、しかし……」
急に百合の身長が少し縮んで、胸と尻も先程に比べれば控えめになる。
「大人の色香も良いが、やはり同年代の女子が一番興奮するかの?」
美人ではあるが若さゆえの可愛らしさを残した顔でぺろっと舌を出す百合。
その容姿には、同年代どころか女慣れした中年男性ですら虜にできる、魅惑的な威力があった。
まさしく人外の美しさ、明日決闘をするエイリーンも相当な美少女なのだが、百合と二人で美人コンテストをすれば勝つのは果たしてどちらか……
「しかしながら、興奮と言えば風呂場は凄かったのう、ぐへへ」
途端に絶世の美女の顔が怪しく緩んで、鼻血やよだれを拭くような仕草で口周りを拭う。
「(美少女なのにぐへへって言ったぞこいつ……)」
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