第8話 女子風呂に入る男

 全裸の義人が入って来た。


 この男は何度の時間を止めれば気が済むのか、凍りつく大浴場の空気にも気づかず義人は上機嫌に話しかける。


 顔もスタイルも最高の全裸美少女達、それも全員高貴な家のご令嬢揃いともなれば、仮にヨーロッパの青年ならば気絶か、一瞬で理性を失うだろうが、この大国の暴君の権力を以ってしても実現不可能な光景を前に義人は冷静である。


「いやー、この国の女の子ってみんな背高いしおっぱい大きいし足長くてくてスタイルいいな、ああでもやっぱエレオが一番色っぽいぞ……あれ? なんだ前らもか、なぁ、さっきからずっと気になってたんだけどなんでヨーロッパの女って下の毛生えて無いんだ? 剃ってるのか?」


 全裸をガン見されて、一番最初に反応できた、というより凍りつかなかったのはチェリスだった。


「いやぁん、さっきはおっぱい見るの断っといて自分から見に来るなんて反則だぞ♪」


 恥ずかしそうに胸と局部を隠すが顔は笑っている。


「反則って風呂はもともと裸見せ合う場所だろ? 何訳わかんない事言ってるんだよ?」


 眉根を寄せてから義人はエレオやチェリス、ハイディやエイリーンとその取り巻きといった知り合い達の体をさらに検分し始める。


「やっぱボリュームはエレオが一番、色も形も最高だな」


 などと一人一人の体を評価してハイディの体を見るとようやく彼女もハタと気づいて、しゃがみこんでしまう。


「む、胸を見ないでください!」

「なんでだ?」

「だ、だってわたくしの胸はその、みなさんのように立派じゃないし……」


 羞恥が強過ぎてしどろもどろに話すハイディの姿が可愛くて、義人は優しく語りかける。


「そんな事ねえよ、ハイディは確かに胸小さいかもしれないけど美乳だし全身のバランスも取れていてスレンダーな魅力十分だぞ」

「そんな嘘はやめッ……~~ッッ!!?」


 文句を言おうとしゃがんだまま顔を上げて、目の前にあるモノに目が釘付けられる。


 額から汗が滝のように何本も流れだし、ハイディは目を血走らせて目の前にそそり勃つモノに注視する。


「よ、ヨシトさんの言っている事は本当のようですね」

「だろ?」

「いやでもしかしわたくし以外の人に反応してかもしれないしでもでも」


 小声でぶつぶつと言い続けるハイディを無視して、義人の興味は凍りついたまま動かないエレオに戻る。


「おーい、どうしたエレオ?」


 ぽん、と肩に手を置いた途端、エレオの飛んだ意識が戻ってきて、悲鳴を上げて転び尻もちをついてしまう。


「イタタ」

「…………エレオ、その格好は大胆すぎるぞ」

「ふえ?」


 見下ろせば、義人へ向かって大の字になって倒れる自分の体があった。


「いやぁああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!」

「おいどうしたエレオ!? なんで急に悲鳴あげてんだよ、ここお風呂だろ? ん、おうエイリーン明日の決闘よろしくな、勝てばなんでも一つ言う事聞くんだったよな? 覚えとけよ? じゃあ俺はさっさと体洗うか」


 誰の反応も特に気にせず、


「西洋の人って恥ずかしがりなんだな、だったらちゃんと手ぬぐい巻いといたほうがいいぞ」


 壁際の蛇口前に用意されているイスに座り、体を洗い始める義人。


 高貴故に、高貴過ぎるが故に一番精神的ショックが大きかったエイリーンにも意識が戻り、一気に霊力を溢れさせる。


「こんの変質者がぁああああああああああああああ!!!」


 空間に鋭い槍が召喚され、弾丸のような速さで義人に飛んで行く。

 ぎゅるん!


『!?』


 刹那、背を向けた義人の左腕が有り得ないほど速く、関節の存在を感じさせないほど柔らかく、迫る槍をつかみ取る。


 渾身の一投はその手に絡め取られると零秒で運動エネルギーを殺され、召喚されて一定時間経つと空気中へと掻き消えてしまう。


「おいおい、風呂場で戦闘はご法度(はっと)だぜ、まぁ今日はその胸に免じて許してやるけどな」


 言いながら義人は今一度振り向き、体の正面をエイリーン達に見せる。


 同時に大浴場は嵐と化す。


 恥ずかしくて湯船から上がれない女子もいるが、多くの女子はこの危険地帯から逃げるべく腰にタオルを巻き、タオルの無い女子は手で隠せるだけ体を隠し、恥を承知で少しでも見られないよう出口に向かって一斉に全力疾走をして転び、将棋倒しになり、大浴場は完全にパニック状態だった。


「いいからさっさと出て行きなさいよアンタ! ここはアタシ達のお風呂なの! 男が入っていい場所じゃないの! そもそも男と女が一緒にお風呂なんて非常識だと思わないのこのドスケベ淫乱エロ魔神!」


「風呂に男も女も無いだろ、てか風呂は男女がお互いの裸を見せ合って前科者の刺青が無いか確かめたり好みの体か確認しあって交際相手を見つける社交場だろ?」

「どこの淫乱文化よこの東の田舎野郎!」


 かつて日本を訪れたあるアメリカ人は手記にこう残している。



 男も女も裸体をなんとも思わず互いに入り乱れて混浴しているのを見ると、この国の住民の道徳心に疑いを挟まざるを得ない。他の東洋国民に比べ、日常の道徳心が遥かに優れているにもかかわらず、呆れ果てるほどに淫乱な人民である。



 日本人とて裸が恥ずかしく無いはずが無い、だが海では下着と露出度の変わらない水着になっても恥ずかしく無いように、共同浴場という環境で裸は恥ずかしい事ではなく、むしろ裸体を晒し自分が前科者でない綺麗な人間である事を知らしめ、性的な魅力で異性に好印象を与えておけばそれだけ結婚相手を選ぶ範囲も広くできる一石二鳥の行動なのだ。


 それではカラダ目当ての助平しか集まってこないようにも思うが、どのみち日本はそういう国民性であり、心の相性は大切だが、体の相性も同じ位に大事だった。


 流石は世界で最初に触手プレイやパイズリを考え、春画(エロ本)をお守りや嫁入道具にしたり友達や夫婦で談笑しながら眺める国である。


 結局エイリーンは義人を追いだす事ができず、湯船に残る女子達も義人が入浴しようとする直前、


「に、妊娠しちゃう!」


 と叫んでタオルも巻かずに出て行った。


 エイリーンも逃げ出し、広い大浴場を貸し切り状態で義人は歌を歌い始める。


「ババンがバンバンバン いーい湯ぅだぁな、バババン」


 頭に手ぬぐいを乗せて、義人は裸の女神像を見上げた。


「うーん、この女神さんもいいカラダしてるなぁ、胸は足りないけど、あはは」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る