第6話 黄金の国ジパング


「へー、ヨシトの国って面倒な仕組みだねぇ」

「う、うん……」

「他の国と交流が無い島国だからな」

「そういえばさ、日本てなんでもかんでも金で出来てるって聞いた事あるけどホント?」

「と、東方見聞録っていう本に載ってたよ……」

「あー、黄金の国ジパングってやつか? そんなわけねえだろ、確かにうちの国は金銀豊富な土地だけどなんでもかんでも金で作れるわけないし作る意味もねえよ」

「なーんだ、当たり前っちゃ当たり前だけどちょっと残念だったね」

「そ、そうだね……」


 義人の答えに二人は少し残念そうに胸を撫で下ろす。


 現在三人は義人の部屋でテーブルを囲み、義人の淹れた緑茶を湯のみですすっている。


 他の生徒と違い、遠い島国から来た義人の部屋は寮で最初から用意されている家具はあるものの、荷物は木箱に収められたままで、部屋には大量の箱が山積みになっていた。


 それでも、すぐに使う物には目印をつけていたおかげで義人はすぐに茶器一式が入った箱を見つけられた。


 初めての日本茶は以外と好評で、二人は美味しそうに飲んでいる。


「ただ金閣寺や中尊寺金色堂っていう総金箔張りの神殿や礼拝堂はあるけどな」


 二人がお茶を噴きかけた。


 むせるエレオに代わってチェリスが尋ねる。


「き、金箔張りの神殿!? 礼拝堂!?」

「ああ、お偉いさん金箔張り大好きだからな、金箔張りのティールームとか金箔張りの仏像とか、そうそう、奈良って場所には金箔張りの一五メートルくらいのでっかい仏像あるぞ、刀の鞘とか羽織とか着る物にも金箔金細工するし、あと徳川家康って人は金の甲冑持ってたらしいな」


 平然と言う義人に、エレオは言葉を失い、お喋りなチェリスでさえ口が回らない。


「金の甲冑って、金の使い方めちゃくちゃじゃない?」

「そうか? あと装飾以外にも祝い事の時はご飯に砂金混ぜたり木や花の成長が良くなるからって庭の土に撒いたりしてるな」

「さささ、砂金を撒くってヨシトくん!!?」

「ききき、金食べるのヨシト!?」


 乱暴に湯飲みをテーブルに置いて冷静さを失う二人に、義人は着物の袖に手を入れて話を続ける。


「あとは小判ていう金貨作るのに使ってるな」

「「小判?」」

「これだよ」


 スッと差し出したソレは、西洋で使われる金貨の二倍以上もある大きな長丸い金の板で、二人は顔を引きつらせ。


「えっとヨシトくん、これ流通してるの?」

「まあな、さすがに庶民は銅銭使うけど金(かね)ある商人とか、あと武家や公家はみんなこれで売買してるな、その上の大判てのもあってこれな」


 どこからか取り出したソレは、子供のお面にできてしまいそうなほど大きく、通貨としての枠外にあるようにしか見えない。


 もはや金塊(きんかい)だ。


「なんだお前ら、貴族なのに金が珍しいのか?」

「いや、別に金細工や金製品なら、わたしの実家にいくらでもあるけど……」

「これが通貨として流通してる国って、どんだけ金豊富なの……?」

「豊富って、金なんかそこらへんの金山掘ればいくらでも出てくるだろ?」


 トドメの一撃にエレオとチェリスの肩が落ちた。


「なんだろう、ヨーロッパと日本との格差に涙が止まらない……」

「エレオちゃん、ボク達のヨーロッパって本当に選ばれた土地なのかな?」


 極端過ぎる貴金属格差社会に泣き崩れる二人が理解できず、義人は疑問符を浮かべながらお茶をすすった。


「ああもうこの話は終了! ねえねえそれよりヨシト、さっきエイリの取り巻き達と戦う時召喚術使わなかったよね、なんで?」

「それわたしも気になる」

「うーん、まあ使うまでも無かったっていうか、あんまり召喚術には頼りたくないんだよな」


 鼻の頭をこする義人へチェリスは畳み掛ける。


「でもでもぉ、四人分のフォースサモンを一撃で斬り伏せちゃうなんて凄過ぎるよね、それにヨシトって男なのに召喚術使えるんでしょ?

 やっぱヨシトって特別な何かだったりするの?」


 子供のように興奮するチェリスに、義人は苦笑で返す。


「多分チェリスが期待しているような事はないよ」

「でも霊力Sランクなんでしょ? ヨシトの持ち霊って何? すっごく強いんだよね?」


 ぐいぐいと詰め寄るチェリスを席に押し戻して、義人はお茶をすすった。


「内緒だ内緒、それに日本の妖怪の名前言ってもどうせわからないだろ?」

「そりゃそうだけどさ」

「まぁ俺の力は今度の決闘の時のお楽しみって事にしてくれよ」

「えーやだやだー、教えてくれたらエレオちゃんのおっぱい見せてあげるからぁ」

「ふえっ!?」

「う~んそれは魅力的だなぁ」

「ヨシトくんも悩まないで!」

「じゃあお尻も見せるから」

「あ~、なんか折れそう」

「折れないでっ! それにチェリスちゃんも人の体勝手に売らないでよ!」

「だってボクのよりもエレオちゃんのほうがずっとずっと大きいんだもん」

「日本じゃそんなサイズの人間見た事無いぞ」

「はうぅ……」


 恥ずかしそうに赤面して、昼間の時のように自分の胸を抱いて隠すエレオ、そうやって誇るべき体を恥ずかしそうに隠す姿が可愛いくて、義人とチェリスの視線が集中しさらにエレオは恥ずかしくなってうつむいてしまう。


「チェリス、やっぱエレオって可愛いなぁおい」

「だよねー、やっぱりそうだよねー、エレオちゃん可愛いよねー?」

「うぅ、そうだ、これから入学祝賀会があるんだからもう私部屋に戻るね、ドレス着直さないと」

「逃がすかぁー!」


 立ち上がるエレオの足元にしがみついてチェリスはへばりつき動かず、続いて義人もエレオの両ワキから腕を通して羽交い締めにする。


「チェリス隊長! 目標を捕まえたであります!」

「うむ! よくぞやったヨシト隊員! このまま目標をベッドへ移すぞ!」

「はわわ、やめて二人とも、私こういうのは本当に」


 すっかり悪ノリに興じる二人はエレオをベッドに押し倒して両手両足を手で抑えつけたまま、その綺麗な顔とみごとなバストを鑑賞し続けた。


 怪しく光る四つの目に晒されて、エレオは悲鳴をあげるが助けなど期待するだけ無駄だった。

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