第25話 準備
次の日の朝、ベッドからリアを追い出すのに疲れ二度寝したロイが起きてキッチンへ行くとラジオのニュースとご飯の湯気に彩られた朝の空気が九割ほど終了を迎えていた。
朝食を食べ終えたライナとカイはリビングにも自室にも行かず、ダイニングキッチンの食卓テーブルでラジオをBGMに新聞を分け合って読んでいる。
チビ神兵はと言えばラジオのそばで置物のようにジッと座っていた。
おそらくはラジオの言葉を録音してボキャブラリーを増やそうとしているのだろう。
最後に、流し場で食器を洗うリアの着ているピンクのエプロンにはフリフリのフリルがやたらと付いており、それがリアには殺人的なまでに似合って、彼女の可愛らしさを倍化させていた。
思わず見入ってから数秒後、ハタと我に返ってからテーブルに残された自分の分の朝食になんとか意識を向けた、それほどにリアのエプロン姿は魅力的だった。
ついでにそのエプロンはライナの家に常備されている物でリアの私物ではない、最初にフリル付きエプロンを見せられた時はライナが自分で着ているのだと勘違いし、気持ち悪い想像をしてしまったのは今なお苦々しい思い出として残っている。
ちなみに、今ロイが食べ始めた朝食を作ったのはリアである。
住宅ではなく屋敷なのだからメイドの一人や二人はいてもおかしくないのだが、何故かライナは自炊しており、メイドも家政婦もいないのに屋敷がいつも綺麗な理由は「内緒」の一言で片付けられ、屋敷の構造といい家事といい、ライナとは本当に色々と謎な部分が多い人間だとロイ達はつくづく痛感した。
午後九時、ロイ達を今回の作戦に参加させる正式な手続きを踏むためにと、思い切り重役出勤をしたライナに続いてロイ達もセントラルに来た別の目的を果たすために屋敷を出ると、艦のコンテナに積んである巨神の部品をライナのキーが挿しっぱなしのトラックの荷台に乗せて向かったのは市場である。(チビ神兵お留守番)
「ロイ、相変わらず良いパーツもってくるな、このジェネレーターにラジエーターなんてかなり値が張るぜ」
「まあ俺にかかればざっとこんなもんよ」
パーツの鑑定をする男に胸を張ってロイが自慢をすると後ろからカイが軽く頭を叩いてきた。
「パーツの解体、選別はリアに任せ切りのくせに何を言っている」
「でもよう、巨神をぶっ倒しているのは俺達なんだぜ」
「それはそうだが……ともかく自慢をするのは料金を受け取らないなどという馬鹿な真似をやめてからにしろ」
「むぅ……」
ロイがばつ悪そうに黙ってしまうと、ジャンク屋の男、マルバーが助け舟を出した。
「まあまあ、巨神倒すのも部品を選別するのも両方必要なんだから、ロイが自慢したって問題ねえだろ、まっ、報酬を受け取らねえのは大問題だがな」
喋りながらもひたすらリアと査定を続けるマルバーは浅黒い肌と青みがかった黒い髪と瞳が特徴的な二〇歳丁度の男で、こうしてロイ達解体屋が回収した巨神のパーツを買い取ってくれている。
そう、今、ロイ達は解体屋の二つの収入の内の一つ、解体した巨神のパーツの換金のためにセントラルのジャンク屋に足を運んだのだ。
作業着の胸ポケットから取り出したペンで紙に各パーツの買取金額をメモし終えるとペンを耳に引っ掛けて頭を掻く。
「えーと、じゃあ今回はこんなもんで」
マルバーが金額を記載した紙を渡すとロイが礼を言って、マルバーは背を向けて金を取りに壁際の金庫に向かう。
巨神の行動を考えれば、国はその権力を維持できず、貨幣価値も滅茶苦茶になってしまうが、リブル共和国は五つの大都市の市場と役人が貨幣と品物の流通量を調べ、物の値段を調整することで、それを防いでいるため、今の所はまだ貨幣が流通している。
「ありがとな、っと、どこ行くんだカイ?」
店の外へ出ようとするカイに声をかけると、カイは振り向き答える。
「少し、軍に顔を出そうと思ってな……」
リアに「いってらっしゃい」と言われて、カイは無言のまま店を出ていく。
ロイは何も言えず、複雑な顔でただカイの背中を見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます