第24話 作戦会議

「進路を変える可能性はねえのか?」


「超ド級戦艦だけあって動きは陸亀よりも鈍重だからね、もしも方向転換すればすぐわかるし、軍のほうが移動速度は圧倒的に上だから、仮に方向を変えられても慌てる必要は無いよ」


「ですが、上から攻められる地の利は捨てることにはなりますね」


 紅茶を半分ほど飲み終えたカイの指摘にはライナも頷いた。


「カイちゃんの言うとおり、当然、いかなる作戦においても一番良いのは敵がこっちの予測どおりに動いてくれることだからね、敵さんがこの丘のすぐ近くを通ってくれればこっちもやりやすい」


 ライナが紅茶のカップを置いて笑うとリアは空になった自分とライナのカップにポットから新しい紅茶を注ぎ込んだ。


「それでライライ、軍隊で何人くらい行くの?」

「そうそう、それって重要だよな、巨神の軍勢と戦うならかなり数を出兵させなきゃマズイよな?」


 個体差はあるが、巨神の戦闘力は兵士千人分、尉官や左官ならばもっと少なくても倒せるが、相打ちでは困る。


 この先もセントラルを守ることを考えれば、此度の遠征で大量の死人を出すわけにはいかない。


 階級の高い将軍達を含めて、巨神の一〇〇倍の数の兵は用意しておくべきだろう。


「それなんだけどね、元々規格外の敵だし、セントラルの兵隊は全部で二万人しかいないだろ? 上層部の決定でどんなに頑張って半分の一万人が限度だってさ」


「えー、それって少ないんじゃないの?」


「その通り、なんせ予想される巨神の数は最低で一〇〇機、それを越える可能性は十分にあるし、その戦艦そのものの武装が生きているかもしれない、よほど運が良くないと全滅したあげくに敵戦力を削って終わりになりかねないよ、そうなったらセントラルに残っているもう一万の兵が迎撃してくれるだろうけど……」


「世間じゃそれを捨て駒って言うんだぜ大佐」


 苦笑いを浮かべるライナにロイは肩を竦め、ライナは肩を落す。


「仕方ないよ、救援してくれる国も街も無いんだから……」


 これが今の国であり世界のありようである。


 自らの保身のために軍を使うような諸外国が救援の軍を送ってくれるはずもなく、外国よりも幾分かマシなこのリブル共和国でも、相手が巨神の軍勢などという絶望的強さとなれば、自分達の軍を無駄に消費するだけと判断し、他の街も何かと理由をつけて援軍を送ろうとしない。


 これがもしも数体の巨神ならば、恩賞と巨神の部品目当てに喜んで援軍を出したことだろう。


 首都であるセントラルシティが滅べば国は乱れ、下手をすればリブル共和国そのものが滅ぶ可能性がある。


 だが、リブル共和国の五大都市である他の四つ、イーストシティ、ウエストシティ、サウスシティ、ノースシティの役人はそんなこともわからないバカ揃いなのか、今日の自分の身を守ることしかできない刹那的な考えに庶民であるロイ達はほとほと呆れるばかりである。


「細かい支持はその場で送られることになるけど、一応の動きとしては一万の兵と解体屋の中で接近戦担当が突撃、その間に後方、丘の上から射撃部隊や戦車で敵戦艦を集中攻撃、兵が戦艦にたどり着いたら一端砲撃を中止、全ての突撃兵が艦内に侵入後、射撃部隊はド級戦艦のキャタピラを攻撃、機動力を完全に奪い去る」


 言い終えるのと同時に拳でテーブルを軽く叩き、ライナは背もたれに体重をかけながら「以上が大まかな流れだけど質問はあるかな?」と言った。


 流れる沈黙、ライナはそれを確認してから書類をしまった。


「それじゃ解散てことで、明後日までは好きにしていいよ」


 言いながら立ちあがり、ライナは玄関へ続くドアに向かった。


「大佐はどこに行くんだ?」


「オジサンは軍人だから司令部に顔出して色々報告しなきゃならないんだよ」


 そう言い残してこの屋敷の主であるライナは出て行った。


 時刻は午後五時、残されたロイ達はゆっくりと休ませてもらうことにした。

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