第16話 チビ神兵

 それから一〇分後、事件は起こった。


 まず、ロイ達はさきほどの部屋を出てさらに下へ向かうべく、ライナが部屋で暗記した地図を頼りに廊下を歩いていた。


 その間に敵とは遭遇しなかったのは運が良いだろう。


 そして廊下の途中でリアがつまづき、抱っこされていたチビ神兵がリアの手を離れ、空中に投げ出された。


 綺麗な放物線を描いて空間を舞うチビ神兵、弾道計算で導き出される到達点の壁にはぽっかりと開いた穴 ガタコン


一瞬だった。

 時間にして一〇分の二、三秒ではないだろうか、底の見えないほど深い穴からガタガタゴトゴトとチビ神兵が穴の中を転げ落ちる音。


「わわ、チーちゃん!」


 慌ててチビ神兵を追いかけるリア、彼女からすれば腕を突っ込んで取ろうと思ったのだろうが、ここで第二の事件発生 ズボン


 ロイ、カイ、ライナの目の前で勢い余ったリアの体が穴に飲み込まれた。


 以上が事件の内容である。


 目の前で起こった珍事に眉根を寄せ、ロイは壁の穴の上に取り付けられたプレートの文字に目をやる。


「……リアの野郎、いくら小さいからって何も……ダストシュートに落っこちることねえだろ……」


 ゴミと同じように穴の中に落ちる妹の叫び声の最後にボスンと音が鳴る。


「痛ッター、お兄ちゃーん、早く迎えに来てよー」

「上れねえのかー?」


 ダストシュートの奥から「無理ぃー」と返ってきた。


「どうする大佐?」

「そうだねえ、オジサン達もここから降りれたりしないかな」


 ライナは物は試しにとダストシュートに体をいれてみるが、一八七センチメートルを誇る彼の肩幅が入るサイズに設計されているダストシュートがあるはずもなく、案の定、彼の幅の広い肩が入ることは無かった。


「ロイはどうだい?」

「俺かよ……」


 と、ライナに促されるがままにチャレンジするもロイは肩を竦めてどうにか入る程度、これでは途中で詰まるのが関の山だ。


「しょうがない、私は先にリアの元へ行くから、大佐達は後からきてください」


 言いながら槍をライナに渡し、ダストシュートに腕を入れようとするカイに二人の口が開く。


「やめとけカイ」

「カイちゃんには無理だよ」

「何っ!? 私はそんなに肩幅の広い女ではないぞ!」


 やはりカイも女性だ、ダストシュートに入るのが無理と言われれば骨太、もしくは肥満宣言をされたも同じであり、それは彼女の冷静さを奪うほどの効果があった。


 顔を赤くしてカイは肩の鎧に手をかける。


「こんな穴、鎧を脱げば簡単に……」


 わざわざ鎧を脱いでまで急いで迎えに行く必要は無いのだが、ムキになって鎧を脱ぎ出すカイをロイとライナは温かい目で見てあげた。


 ……結果、頭、腕、そして一番の問題である肩も余裕を以ってダストシュートに入ることができた。


「ほらみろ、私の体はこれくらいの穴なら……」


 カイの言葉が止まる、否、体も途中で止まってしまう。


 腕も肩も余裕があるのだが体がダストシュートの口付近から少しも前に進めないのだ。


「そんな馬鹿な、こんなことが……」


 慌てふためき、体を入れようとするカイ、そしてダストシュートの入り口で体を入らせまいと抵抗する豊かすぎる彼女の胸部をロイが凝視する。


 横幅に余裕はあったが体の厚みには余裕が無かったらしい。


「ほらほら、無理しないで、別にカイちゃんが太いわけじゃないんだから」


 ようやく気付いて体を抜いたカイはまだ納得がいかない様子。


 すると両手を自分の胸に当て。


「わ、わかっています、こんな胸、こうやって潰せば……」


 言いながら再びトライ、と思いきや今度は頭を入れる直前でストップ、スッと頭を引くと青ざめた顔で手を胸から離し、大きく息を吐き出す。


「ブハッ……い、息が……苦し……む、無理だ……」

「あのなあカイ……」


 次の瞬間、両肩で大きく息をするカイの胸を、二つの手がわしづかみにした。


「こんだけ成長した胸が手で潰したぐらいで、どうこうできるわけねえだろ?」


 ロイの手がカイの胸を揉みほぐすのと並行してカイの額に青筋が連続的に浮かび上がりライナは二歩下がった。



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