第15話 オジサンの活躍
「いやー、オジサンの活躍でここまでこれたねー」
「大佐は何もやってないだろ!」
自信たっぷりに頷くライナに怒鳴るロイ、だがライナは気にせず周囲を眺め回し続けている。
今、四人がいるのはかなり広い一室で、最初は暗かったがライナが壁のレバーを倒すと電気はすぐについた。
最近誰かが入った形跡は無い、そこにあるのは生物の匂いとは程遠い無機質な鉄の匂いで満たされた空間だった。
壁際に陳列した棚には用紙の束が並んでいる。
床にはコンソール付きの机が全部で八機、その一つにライナが歩み寄る。
「なんでこの部屋に入ったんだ大佐?」
「こういう時は地下の大きな扉の部屋が怪しいと相場が決まっているのだよ」
言いながらコンソールのツマミを捻ると出入り口から見て左側の壁が突如光を宿し、何行もの文章が浮かび上がる。
機械好きのリアはますますはしゃいで視線を光る壁から離そうとしない。
「って、なっ、なんだよこれッ!?」
「何って、ロイはディスプレイ見たこと無いの? 田舎者だねー」
「田舎者」という単語にロイが機嫌を悪くするとカイも驚いたように目を開いたまま画面を見る。
「いえ、ですがここまで大きなディスプレイ、軍でも見たことがありません……」
普段は冷静なカイも、壁一面を覆い尽くすサイズのディスプレイには理解が遅れた。
何故なら彼女の知るディスプレイとはどんなに大きくても、せいぜい一平方メートル程度の物で、文章を表示することしかできない低性能な物なのだ。
だというのに壁一面を使ったその画面には文章が説明している対象の図や写真が挿絵のように割り込んで表示されている。
「すごいすごーい、この国にもこんな場所あったんだね」
「この国のじゃないけどね」
三人が驚いている間にも慣れた手付きでコンソールのキーを叩きながら次々に上へ流れていく画面の内容に視線を走らせているライナは急に手を止め、それに合わせて画面の映像も止った。
「どうした大佐? 何かわかったのか?」
ライナはコンソールから離れると壁の棚に陳列している用紙の束に目を通しながら一人頷く。
「ここはリブル共和国の研究所じゃなくてアーゼル帝国の隠し研究所だよ」
「アーゼル帝国……しかし大佐殿、何故そのような建物がわが国に?」
「ほら、リブル共和国ってアーゼル帝国の隣国だし、特にこのエリアは国境が近いからね
宿敵バルギア王国の目から逃れる為に国外にも巨神の研究所を作ったんだろうね」
「でもさあライライ、共和国にバレずにどやって作ったの?」
思わずライナは失笑を漏らした。
「そんなのカンタン、リブル共和国に内通者がいただけだよ、お金とバレた時にそれなりのポジション付きで帝国に亡命させてくれるなら大抵の人は祖国を裏切るからねー」
「まったく、地位と金の為に祖国を戦争に巻き込むとは情けない」
軍のふがいなさに気を落とすカイの肩に手を乗せてロイが続く。
「まあまあ、結局大元のアーゼル帝国が滅んだ以上、その裏切り者は金も地位ももらえなくなって慌てているって、それより大佐、結局この研究所は失踪事件に関係あるのか?」
「それは解らないけど、どうやらここでは巨神の新しい燃料について研究していたみたいだね」
「燃料? ガソリンと石炭に変わるモンなんてあるのかよ?」
滅んだアーゼル帝国を含め、この世界の燃料はガソリンや重油といった石油燃料と石炭に頼っている。
自然エネルギーは太陽光発電が最新でそれ以外は地熱発電を筆頭に研究中である。
「えーっと、食物らしいね」
ライナの言葉に三人は「は?」と効き返してしまう。
「大佐殿、食べ物などが燃料で巨神が動くものですか?」
「それってボク達と同じじゃん」
「機械が飯食うのかよ」
三者三様の反応に対して黙々と用紙の文章や図に目を通しながら返す。
「いや、食べ物はみんなが思っている以上にエネルギー豊富だよ、質量が同じならガソリンの三倍だからね、つまり機械なんかよりオジサン達生物のほうがよっぽど良い燃料で動いているってことだね」
「へー、そりゃ以外だったな、それで、その食べ物っていうのは具体的に何使うんだよ?」
「残飯」
三人の表情が一瞬固まる。
「戦争中は食べ物の輸入ができなくて食糧不足だし、国民の食料を巨神に回すことは正直言って無理、だから野菜の皮とか芯とか、肉の脂身、そしてお偉いさん方の食べ残しとかを巨神の燃料にするつもりだったらしい……んっ、みんなどうしたの?」
見れば、三人は皆渋面(じゅうめん)を作っていた。
「残飯で動く巨神……カッコ悪いね、お兄ちゃん」
「俺はそんなのと戦いたくねえぞ」
「残飯マシンが友の仇になっていたかもしれないのか……」
「何ブルーになっちゃってるの? ここの資料を見る限り、結局は残飯燃料の巨神は実戦投入にこぎつける前に一〇年前の事件が起こったみたいだから、心配しなくても大丈夫だ……ちょい待ち」
不意に、ライナが棚の一番下、丁度書類と書類の間に挟まれるような形で鎮座しているソレに気付いた。
「これ……」
「なになにー、ねえねえ、おもしろい物?」
ライナが棚から取り出したのはロボットの玩具だった。
直方体の体の上にドーム状の頭、目のレンズは点のように小さく、体の側面と下の面からは小さな手足が生えている。
その姿に、駆け寄ってきたリアの目が輝いた。
「カワイー、ボクにも貸してー」
だが、ライナがリアに手渡そうとすると横からロイの手が伸び、玩具の頭を掴み上げた。
「おいおい、こんな大福のどこが可愛いんだよ」
「あーん、お兄ちゃん貸してよー」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら人形に手を伸ばすリアを無視して、その点の目だけのマヌケな顔にメンチを切るロイの目の前で、その点の目が淡い光を灯した。
『■■■■』
「うわっと、なんだこいつ!?」
やおら手足をバタつかせながらロイの手から逃れた玩具は重力の赴くままに自然落下、しかし、リアのやわらかい手の平に受け止められてなんとか事無きを得る。
「ふー、ギリギリセーフ」
「驚いたな、もしやそれも機甲兵か?」
息をついてソレを抱き上げるリアに近寄り、カイも思わず感嘆の声を漏らしてしまうのだった。
「へぇ、これは珍しい、んー、見たところ武装はしていないみたいだね、おおかた、研究員が遊びで作ったか、ただ単純に最小の巨神作りにチャレンジしてみたってところじゃないかな」
「巨 神? こいつのどこが大きいんだよ、巨神じゃなくてチビ神兵(しんへい)でいんじゃね?」
「じゃあチーちゃんにしよ」
「ハハ、気に入ったなら持って帰っていいよ」
「ホント!? ライライ大好き」
満開の笑みでライナの腕に抱きつくリア、それにカイが申し訳なさそうに謝った。
「すいません大佐、でもいいんですか? こういうことは本来軍に報告書などを提出して然るべき手続きを取らなくては……」
「別にこんな玩具一つ報告書に書くまでもないでしょ、これがもしも巨神を倒す重大な手掛かりを握っているなら話も変わってくるけど、もしもそういうのが解れば後で連絡くれればいいよ、そしたらオジサンのほうで適当に報告書でっちあげるから」
「あいかわらずてきとうですね、まあ、大佐殿がそれで良いなら私は構いませんが」
「大福がペットってのは気になるけどリアがそんなに気に入ったならいんじゃねえの」
カイに目線を向けられたロイも承諾し、リアは嬉しそうにチビ神兵を抱きしめた。
そして、部屋を出る間際にカイがロイに一言。
「ところで大福とはなんだ?」
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