第14話 地下
「こいつは驚いたな……」
とっくに使われなくなった廃屋かと思い、入り口をこじ開けてみれば、施設の内部は生きていた。
窓の少ない研究所は内部に行くほど太陽光が届かないのだが、廊下の奥には電球が廊下を照らしていた。
発電システムが生きているとなれば非情に嫌な予感がするが、当然に嫌な予感というのは当たると古代から決まっている。
何年掃除されていないのかも想像できないほど汚れた埃っぽい廊下の奥からは金属同士を打ちつけるやかましい音が耳に響く。
突き当たりから右へと伸びる廊下にライナが頭を出すとさきほど艦を襲ってきた機甲兵達が廊下を右往左往している真っ最中である。
金属製の床を金属の足が踏み鳴らし、うるさくてかなわない。
「整備する人間がいないのにまだ動いているとは、巨神シリーズは長持ちですなー」
「大佐殿、他の道へ行きますか?」
ロイが飛び出したのはカイが言い終えるのと同時だった。
両手のチェーンソーは既に準備万端、人間サイズの機械兵達はロイの姿を見咎めるのと同時に首から上を刎ね飛ばされ、視界を失ったのと同時に胴体部を縦に両断されて鉄屑へとその身を堕とす。
「よっしゃ俺最強」
「何やってるんだロイ!」
ガッツポーズを作るロイをカイが嗜めた瞬間、天井の赤いランプが光り、警報が鳴り響く。
「おっ?」ロイが赤いランプを見上げる。
「『おっ』じゃないだろ! 何故貴様はそう後先考えないで行動するんだ!」
檄を飛ばすカイに、だがロイは臆することなく笑う。
「じゃあ向かってくる奴片っ端から潰すかー!」
「おっ、なんか面白い展開になってきたねぇ、じゃあオジサンはゆっくり見物させてもらおうかな」
ロイとライナの緊張感の無さに諦めたようにかぶりを振るカイの肩に手を当て、リアはぐっと親指を立てた。
ロイ達が奥へ進むと、さらに曲がり角から数機の機甲兵が出現、注目すべきはそれらの両腕であった。
「武器腕ですかぁー」
ライナが悠長に感想を漏らしながら四人は物陰に隠れ、一秒前まで彼らのいた場所めがけて機甲兵の両腕から鉄の雨の風が吹いた。
今までの機甲兵と違い、肘から先がサブマシンガンになっているそれらは警戒態勢に入っていたため、部外者(ロイたち)を視確するや否や、警告も無しに発砲を続ける。
「おいおい、銃火器なんて高級品、今時軍しか持ってないぞ」
「文句を言うな、だが巨神、機械兵の銃器は皆弾切れになっているはずだが……」
「いや、ここの連中は侵入者としか戦わないんだと思うよ」
「外の巨神と違って戦うことが無いから弾が残っているってこと? そんなのズルーイ」
四者四様の反応の後、リアが再度口を尖らせる。
「でもさあ、いくらお兄ちゃんとカイちゃんでもこんなに撃ってこられたらまずくない?」
「確かに、弾丸てマジ速えからな、弾道読むのメンドクセーしよう」
「ならばどうする?」
「そうだな……」
カイの問いにロイは周囲の状況を見渡し、天井近くの壁で視線を止めた。
「やってみるか……カイ、耳貸せ」
「?」
ロイ達が隠れてから少しすると弾幕は収まったが、ロイ達が姿を現せばまた銃撃を放つだろう、ライナはロイとカイの二人がどう動くかを楽しむように想像しながら笑みを浮かべる。
「じゃあ行くぜ」
「わかった」
刹那、二人が左右、上斜めの壁に向けて跳躍した。
人間の目線に銃口を合わせていた機甲兵達は視界の端に現れた侵入者を狙おうと砲身を上へ向けるがその時には既に遅かった。
ロイとカイは三角飛びのように左右の壁を飛んで渡り合い、天井をジグザグに移動し、機甲兵が狙いを定められぬ間に真上に到着。
落下し、着地しながら機甲兵を両断した。
『■■■■』
鈍いギアの軋む音を最後に糸の切れた操り人形のように倒れた機甲兵に目もくれず、ロイ達はさらに研究所の奥へと走る。
途中に転がっていたネズミの死骸には気付かず踏み潰した。
やがて下り階段の前に並ぶ横に五機前後二列の機甲兵を見つける。
「ガーディアンの後ろには次のダンジョンがあるに決まっているよ」
ビシッと指差して軽快に言うライナに促されるままにロイとカイは一度の跳躍で距離を詰め、刹那の踏み込みで互いに四機ずつ切り伏せた。
こんどの機甲兵は武器腕ではなく、直接手に刀剣類を持ったタイプだったので殲滅は容易であった。
「へー、一階だけだと思ったら地下なんてあるんだね」
かなり下まで続く階段を覗き込むリアが驚いたような声を上げるが、カイはやや難しい顔で沈黙を守る。
「おや、カイちゃん、どうかしたかい?」
「いえ、さきほどから見ていれば向かってくるのは機甲兵ばかりだと思いまして」
「そーだねー、やっぱりここは捨てられた研究所で主を失った機械達だけが動き続けているんじゃないの?」
「死体は発見されているんですか?」
カイの問いにライナは二、三度頭を掻いた。
「いや、このエリアの端で乗り捨てられた乗り物が見つかったりここを通る予定の人と連絡がとれなくなったりはするけど死体は見つかってないね」
「ということは、被害者は殺されたのではなく、さらわれたんですよね?」
不意に階段を下り、背中越しに返答する。
「だったら機械を制御している奴がいるかもね」
ライナに続いてロイ達も底の見えない螺旋階段を下りていく。
地下には一階を遥かに越える機甲兵達が待ち受けており、楽しそうに「今度はオジサンも遊ぼうかな」と言ってライナが先行したが、打ち漏らしが多く、というよりも敵をかわしながら勝手に進んでしまうのでロイ達はライナを見失わないよう全力で敵を解体しながらなんとかライナに追いつこうと刃を振り続ける。
ちなみに、狭い建物の中では使いにくいという理由で武器のハンマーを持ってきていないリアは後ろからスキップでついてくる。
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