第7話 歴史召喚術
「万能じゃないんだな」
まぁ、本当にこの世の全てを召喚できるなら騎馬軍団にロケットランチャー撃ち込んで終わりか。
「あと召喚できる事物は歴史師が愛する事物だけよ」
「あ、愛する?」
なんか、急に話の空気が変わって、思わず如月さんの言葉を反復してしまう。
「げ、厳密には魂から生まれる精神力とか、その事物をこの世に降ろし繋ぎとめようとする存在力とかそういう話になるんだけど、一般人の長谷君には難しいと思うから簡単に言ったのよ。
それで、歴史事物検索にはその事物へ対する深い知識が必要で、召喚には対象事物への深い情熱と霊力が必要なの。
例えば召喚に一〇〇の力が必要な事物があったとして、歴史師の情熱レベルが六〇なら全体の六〇パーセントは情熱で賄われるから、四〇の霊力で召喚できるわ。
当然、二〇〇の力が必要ならその六〇パーセント、一二〇の力は情熱で賄われるから、霊力は八〇しか消費しないわ。
逆にその事物への熱い思いが足りないと霊力を大量に消費してしまうし、異常なまでの情熱があれば少ない霊力で事物を召喚できるわ」
「引き算じゃなくてパーセンテージなのか、じゃあ霊力よりも情熱の方が重要なんだな、でもやっぱり強力なもん召喚するほど力はたくさん必要なんだよな?」
「そうね、基本的に性能の高い事物大掛かりなモノ程大量の力が必要ね、同じ人間でも何々軍歩兵とかより徳川家康呼ぶほうが力はいるし、ただの槍を召喚するより城壁を召喚するほうが力がいるわ。
それで話を戻すけど、だから歴史師は一人の例外も無く全員重度の歴史オタクで、それぞれ得意な召喚分野が決まっているわ」
「すっげー! 何それ!? つまり歴史オタク同士による歴史バトルじゃん! どんなドリームマッチだよ!」
「予想通りの反応ね、それでさっきの男は戦国時代の武田軍が得意で、私はもう分かっていると思うけど戦国時代の織田軍が得意分野よ、信長に関係無い事物は、知識さえあれば召喚できなくは無いけど、私は織田軍以外に興味が薄いから召喚に必要な力の全てを霊力だけで賄わないといけないから非効率的ね」
武田……ってそうだ、あの男ヤバいじゃねえか!
「如月さん! さっきの男だけどもしかして殺しちまったのか!?」
「安心して、死んではいないわ、急所は外したし、すぐに隠密部隊が治療して協会に運んでいるはずだから」
「隠密部隊?」
「歴史師協会っていう世界中の歴史師を統括する組織があるのよ、私達歴史師は歴史召喚を使って戦う人で、隠密部隊は歴史師の存在を世界に秘匿するためのサポート部隊で、霊力を使った回復術や記憶操作術、人払いの結界が使えるわ。
まぁ人払いの結界だけは歴史師も使えるけど。
歴史師のいる町には常に数人の隠密がいて、歴史召喚を悪用する異端の歴史師を見つけたらすぐに地区の担当歴史師に連絡するし、戦いの事後処理も全部してくれるわ」
「なんでこんな技術秘匿してんだよ? だって秘匿したって悪用する奴はいるし、そもそも重度の歴史オタクしか使えない限られた技術なんだろ?
それとも社会に与える衝撃が強いからとかか?」
「それは私達歴史師の歴史のせいね」
「歴史師の歴史って?」
「そもそも、私達は最初はただの歴史の探究者だったわ、何千年も前から、ずっと歴史の研究をして、歴史を追い求めて、それで今と違ってまだ世界が魔術や神様、悪魔や精霊といった神秘に満ちていた頃、歴史オタクの魔術師達がアカシックレコードの記録を具現化させて歴史的事物を召喚する事を考案して生まれたのが歴史召喚。
でも当然、歴史師に対して世間は冷たかったわ。
奇跡を起こせるのは神だけ、それ以外は悪魔だっていう考えの宗教から弾圧されたり、死者への冒涜だって迫害されたりしたわ。
魔女狩りと称して何人もの歴史師が殺されて、古代の兵隊を召喚して応戦する歴史師はネクロマンサーなんて言われて、歴史師達は国中から追われて、そしてついには世間から隠れて暮らすようになったの。
以来『歴史召喚は秘匿すべき』これは全世界の歴史師の間では人の命より重たい絶対の掟になったわ。
自分達の存在が明るみになれば世界中にいる何万人もの歴史師全員の命を脅かす事になるからってね」
「………………」
出る言葉は無いけど、如月さんの言っている事はわかる。
社会から弾圧されて、され過ぎて、歴史師っていう人達には国民性というか、民族性のような絶対の価値観が生まれたんだろう。
その気持ちは俺も痛いほど理解できる。
昔、俺は自分に嘘をつこうとした事がある。
学校という生き物は酷く排他的で、自分達とは違うモノを決して受け入れない。
幼い頃から誰も友達がいなくて、みんなから変だって言われて、中学に上がる時、俺はみんなには歴史にはもう飽きたっていう事にして、嘘でもいいからスポーツや芸能に興味があるっていう事にしようと思った。
それで好きでもないのに歌番組やトーク番組を見ながら、最近の流行りや有名人を勉強した。
クラスに居場所のいない俺はあの時、自分の趣味を秘匿しようとしたんだ……
でも中学校の入学式の日。
自己紹介の時に俺はあらかじめ用意したセリフを言おうとして、でも言えなかった。
結局俺は『好きな物は歴史で尊敬する人物は上杉謙信、チンギス・ハン、ジャンヌ・ダルクです』なんて言ってしまった。
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