第6話 メロメロ
俺の淹れたコーヒー片手に信長トークをする事二時間、時間は深夜一時半を過ぎている。
「やっぱり彼だけは別格なのよね、目線を向けているところが違い過ぎるって言えばいいのかしら。
どの戦国大名も国を豊かにしたり軍費確保に米ばかり見て、どうやって米の収穫量を増やすかしか考えていないのに、彼だけは関所撤廃や楽市楽座で商業経済を回し税収を増やす事で軍資金を確保したわ。
まだ経済学も無い時代にこんなの考えられる?」
根本の、ミステリアスな雰囲気は崩れないものの、コーフンしているのは目に見えて明らかだった。
目がより大きく開かれて、必要最小限しか喋らない彼女が饒舌に語っているのだ。
「まぁその経済力が信長最強の所以だからな。結局三〇〇〇丁の鉄砲もそれに見合うだけの火薬や弾丸も、全部その圧倒的な資金力に物言わせて用意したわけだし、それに茶器の価値を上げたのも見過ごせないぜ」
「そう茶器よ、部下の恩賞に広大な土地や多額の報奨金をあげたら軍備にかける費用が無くなるもの。
それをただの陶器に過ぎなかった茶器という存在そのものの価値を大きく上げて、茶器を恩賞にしたり、茶会を開く許可を与える事で部下への恩賞問題を解決するなんて、天才なんてもんじゃないわ」
楽しい。
そう断言できる。
家族以外で、他人と談笑するのは人生で初めてかもしれない。
同年代の奴と歴史トーク、俺が求めていた全てがここにあると言ってもいいかもしれない。
如月さんには聞きたい事が山ほどあるけど、できればこの時間を一秒でも長く。
俺がそう思った矢先、急に如月さんは話を切り上げる。
「流石あの『世界の英雄解体新書シリーズ』を書いただけの事はあるわね、ところで、その竹刀って長谷君の?」
如月さんが指したのは壁に立てかけられた一本の竹刀、これは、
「俺のだぞ、俺ガキの頃から世界中の英雄に憧れててさ、親父とお袋も男の子が生まれたら剣道、女の子が生まれたら薙刀習わせる気だったんだと、ちなみに初段な」
俺がちょっと胸を張って誇らしげに言うと、如月さんは考え込む。
「なるほど……ますます都合がいいわね」
え? 都合?
「それで長谷君、ちょっと相談があるんだけどいいかしら?」
相談?
それってやっぱりさっきのグラウンドの事と関係あるのか?
「貴方、歴史師にならない?」
「歴史師?」
そういえば校門の前でもそんな事言ってたよな?
なんなんだその歴史師って?
「簡単に歴史召喚を使う人の事よ、黒魔術を使う人を黒魔術師って言うのと同じね」
そう言って、如月さんはまたも饒舌に、だが今までのコーフンした様子とは違い、どこまでも真面目な口調で話す。
「歴史召喚っていうのは簡単に言うと歴史上の事物を召喚して意のままに操る技術よ、さっきの戦いを見ていたなら分かると思うけれど、相手の歴史師の男は武田騎馬軍団を召喚して、それに対して私は織田鉄砲隊を召喚したし、貴方を敵の仲間だと勘違いした時は日本刀を召喚したわ」
唐突な話に頭がついて行かない。
「えーっとそれってつまりRPGゲームにあるような召喚術師って事か?」
「ちょっと違うわね、いいわ、これから歴史召喚や私達の事について説明するから、疑問があったらそのつど質問して」
「お、おう」
「長谷君はアカシックレコードって知ってるかしら?」
「なんか前テレビで聞いた事あるけど、世界の全てが記録されてる場所だっけ?」
「そう、この世界で起こった事は全てアカシックレコードっていう目には見えない世界のデータベースに記録され残っているの。
長いから歴史師によってアカシックとかレコードとか、世界の記録とか言ったりするんだけど、私達はそのアカシックレコードと意識を繋いで世界の記録を具現化して、歴史の事物を現世に召喚することができるの」
「って、それ最強じゃねえかよ! 俺なら戦車とか召喚して」
「それは無理ね」
「無理? だって世界の記録にあるの召喚出来るんだろ? じゃあ世界中の兵器使い放題じゃねえか?」
如月さんは人差し指を立てて咳払いを一つ。
「勿論こんな便利な技術には制約があるわ、一つは歴史であること。
レコードに記録されるのには時間がかかるから、あまり新し過ぎるモノは記録が薄くて召喚できないわ、私達が召喚できるのはあくまで歴史なの、例えばつい昨日あった事は思い出と言っても歴史なんて言わないでしょ?」
「確かに……」
「それに世界の人の認知度が低い事物ほどレコードでの検索が難しいから、この世界に住む人々がほとんど知らないような、歴史上のものでもなんでもない、ただの一般人や建物も召喚できないわ。
だから、死んだ友達を生き返らせるとか、取り壊された学校を召喚するなんてのも無理よ」
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