第3話 ボーイミーツガール



 朝のホームルームが終わると俺は速効で行動する。


 幸い他の男子や女子は彼女の少し近寄りがたい空気に気押されている。


 『お前話しかけてこいよ』『いやお前が』なんて先鋒を押し付け合う弱腰連中を出し抜き俺は行く。


 その結果クラス中を敵に回しても俺は後悔しない!


 小市民の俺よさらば!


「如月さん!」


 俺の席は窓際後ろから三番目、如月さんの席は窓際の一番後ろ、ようするに俺の席の二つ後ろ、地の利もばっちりだ!


「……何?」


 本のページから顔を上げた彼女の視線と目が合った。


 うわぁ……やっぱり美人だ。


 すげぇ……他の女子生徒なんて全員モブだ。


 そして如月さんが読んでいた本は『信長――戦場の軌跡――』


 織田信長が駆け抜けた各戦の敵、戦場、両者の動きなどについて詳しく書かれた逸品で、世間で言うところの歴女は絶対手にしない。


 歴女が好きなのは武将個人の事で歴史には興味が無い人が多いからだ。


「俺、長(なが)谷(たに)歴(れき)人(と)っていうんだけど俺も歴史好きなんだ、それでちょっと歴史トークでも」

「私、人と話す気無いから」


 終わった。

 俺の『同好の士ゲット作戦』という名目の『共通の趣味を持った美人の彼女ゲット作戦』は五秒で破られた。


 敵の軍師は化物か……


 なんて言ってる場合じゃない、苦節一五年、年齢イコール友達彼女いない歴に終止符を打ってやる!


「いやぁでもさぁ、このクラス他に歴史好きいないから俺みんなと話合わなくってさぁ」


 あくまで明るく気さくに話す俺、戦の神八幡(はちまん)平(だいら)菩薩(ぼさつ)様、俺の一生分の運を使っていいから彼女との歴史トークを俺に!


 恋の戦争に勝利を!


「じゃあ2chでも使えば?」


 俺の来世の運も全部捧げますから!


「ネットなんて顔の見えない相手と喋ってもつまらないって」

「そう、でも私友達とか作る気ないから」


 グハッ!

 ば、バカな、俺の一生分と来世の運全てを使っても落とせないのか!?


 これで俺は来世も含めて一生一人身決定だ……


 如月さんはまた本を読むし周りからは嘲笑のクスクス声、黒歴史だらけの真っ黒な俺の人生年表にまた一つ黒い太字が増えた瞬間だった。




 今更黒歴史の一〇や二〇で俺が怯むかよ!


 あの冷たい態度に結局クラスの連中は誰も如月さんには話しかけなかった。


 故に放課後の彼女はノーマーク。


 今こそレッツストーキングタイム!


 どうせ大人になったら汚い事いっぱいするんだ、この程度人生の通過儀礼さ。


 それに如月さんが好きな信長も『人生はたったの五〇年、野望を成し遂げようと思うなら普通のやり方では駄目だ』って言ってるしな。


 というわけで忍者のストーキング術の鉄則、物陰に隠れない。


 俺は漫画のストーキングキャラよろしく電柱に隠れたりなんかしないで堂々と、彼女と同じ歩調で学校を出ると常に彼女の一〇メートル後ろを歩く。


 彼女の動向を探り話しかけるタイミングや待ち伏せポジション、そして自宅を突きとめるというナイスアイディア。


 俺のひい爺ちゃんと爺ちゃんと親父が代々成功させてきた恋愛必勝法、活用させて頂きます!

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