第2話 俺の趣味



 俺の名前は長谷(ながたに)歴人(れきと)、どこにでもいる普通の高校一年生……と言っては語弊があるだろう。


 まず俺の趣味が異常だ。


 何が異常かって、歴史の大学教授を父に持つ俺はものごころついた頃から歴史が好きだ。


 どんだけ好きかと言えば、常人がドン引きするくらい好きだ。


 クラスメイトが俺の趣味を理解できないように、逆に俺にはクラスメイトの趣味が理解できない。


 例えば演技の営業スマイル振りまいているアイドルの女の子とか、


 台本通りに動いて喋っているタレントとか、


 歌手も歌が上手いのは認めるし俺も好きな歌が無いわけじゃないけど、歌手は歌を歌ってお金を稼ぐ職業なわけで、カッコイイ歌があってCDを買ってもそれはその歌と曲を聞きたいからであって、歌った本人が好きだからじゃないし、本人には興味が湧かない。


 クラスの男子が、地味でまじめな清純派アイドルについて熱く語っているのを見ると、


 『地味で真面目な奴がなんで芸能界に入って派手は衣装着て大勢の前で歌うんだよ?』


 と聞きたいし、


 『目立ちたがり屋で自尊心が強いから芸能界に入って短いスカートで男達の前で歌っているじゃないの?』


 という感想しか出無い。


 本当に地味で真面目な奴はコツコツ努力して勉強して就職して会社で働きながら平凡な人生を歩むもんだ。


 とは言っても、俺は他人の趣味を非難した事は無い。


 趣味なんて個人の自由、アイドルや歌手、女優俳優やスポーツマンにタレントが好きな人は好きにすればいいと思う。


 だから俺の趣味も放っておいて欲しいけれど、みんなはこぞって俺をバカにする。


 白い目で見る。


 高校入学初日の自己紹介で、先生が趣味と尊敬する人物を答えるよう言うから、みんなが尊敬する人物でミュージシャンとかの名前を言う中、

 『趣味は歴史研究、尊敬する人物は上杉謙信です!』

 と答えた瞬間鎮まる教室とみんなの冷めた顔は今でも忘れられない。


 でも、しょうがないんだ。

 だってそれぐらいあいつらはカッコイイんだ。


 それぐらい歴史は壮大でロマンに溢れているんだ。


 価値観は人それぞれだから、重ねて言うがこれは俺個人の考えで決して他人を誹謗中傷する意志なんてないけれど、一個人が一国の為、何万という他人の為に槍一本で死力を尽くして戦ったり、知略を尽くして口一つで救世主となった英雄達は本当に、ただ歌が上手かったり、スポーツ競技が得意な現代の有名人達よりも遥かにイカして見えたんだ。


 そして今は無きかつての世界。


 歴史は自分が生きるこの世界の成り立ち経緯で、このつまらない日常に溢れた世界には、かつてこんな時代があったのだと思うと興奮が止まらない。


 どういう経緯で世界が変わったのか、それは本当に興味が尽きない。


 長々と説明してしまったが、そんな俺には友達がいない。


 『歴史書に書いてる事なんて全部嘘っぱち、昔の人だって自分達に都合のいい事しか残さないだろ』


 と、言って来る連中も後を絶たない。

 言えるものなら、


『芸能界も同じようなもんだろ』


 と言いたいが、中には本当に純粋な気持ちで芸能界にいる人もいるだろうからそれだけは言わない。


 なんか本気で長々自己紹介をしてしまったけれど、なんでこんな、ようするに俺が友達いない歴史オタクって事を説明したかと言うと、それは俺の人生の風向きが少し変わったからだ。


「では、みなさんに転校生を紹介します」


 いつもの変わらない日常。


 明日からゴールデンウィークを迎える教室はすでに長期休暇モードで生徒は皆先生の話なんて上の空。


 退屈な朝に俺もあくびをすると、先生の一言からソレは始まった。


 ガラリ


 教室に入って来たその少女に、いや、美少女に俺の目は一瞬で覚めた。


 まさしく、目の覚めるような美少女だった。


 腰まで伸びた長い艶々の黒髪、大きな瞳に筋の通った鼻、小さく形の良い唇、肌は雪のように白くて、スタイルが良く、スレンダーな体と品のある佇まいはうちのクラス、いや、うちの学校の誰よりも魅力的だ。


 落ち着いた雰囲気の、知的なクールビューティーといった風情の彼女は小さな唇を開いて、冷たい声で告げた。



「如月(きさらぎ)舞華(まいか)、趣味は歴史書を読む事、尊敬する人物は織田信長です」

 


 不意打ちだった。

 耳を疑った。

 今この美少女はなんて言いましたですか?


 趣味はショッピング? 映画? 音楽鑑賞?


 違う、歴史書を読む事って言った。


 尊敬する人物の織田信長って誰だ? タレント? 歌手? スポーツ選手? フィギュアスケート選手の?


 違う、戦国大名でフィギュアスケート選手は彼の子孫だ。


 だが待て如月歴人、ここは落ち着け、どうせぬか喜びに終わるに決まっている。


 信長好きの女子って事はどうせ無双でBASARSAなゲームや漫画にハマって、


「すいません、如月さんはいつから歴史が好きなんですか?」

「四歳の時からです」


 キター! その時はまだ某ゲームやそれに付随したグッズや薄い本は無かった。


 今質問した奴グッジョブだ!


 つまり彼女は、彼女は…………本物だ。


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