第52話 外伝1
二十一世紀も後半に入った現在、日本の警察はここ数年で激化する奇怪な連続殺人事件に頭を悩ませていた。
日本中で起こり続ける事件に国民の不安と、それをいつまでも解決できずにいる警察への不満は高まり続けている。
総じて、夜間に外へ出る者は減少、それに反比例して警察への苦情の電話は増加の一途を辿っているが、決して警察が無能なわけではない。
犯人はおろか、動機や凶器まで未だ不明とあっては、確かに無能に見えるかもしれない。
だが、それこそ警察からすれば迷惑な話である。なにせ路地裏や廃屋を中心に、人通りの少ない場所ならどこであろうと起こる上に被害者には統一性がまるでないのだ。
ここまでなら無差別殺人でいいがその殺し方こそが一番の問題である。
全身を切り刻まれている遺体や消し炭になるまで燃えた遺体、全身が凍りついた遺体などまるでSF映画にでも出てきそうな変死体ばかり、中には外傷が皆無にも関わらず死んでいる者までいるのだ。当然、検死で毒殺でないことは証明されている。
さらに警察が抱える問題はこれだけに止まらない、連続無差別殺人事件に比べればその数は少ないものの、誰一人として見つからない失踪事件に建設物の破壊もまた、日本中で頻発している事件である。
ニュースでは爆弾テロという事で住民のパニックを軽減させたが、そうなると今度は架空の爆弾テロ集団を捕まえなければいけなくなり、警察は止まらない事件の事後処理と住民からの苦情の対応、そして事実の隠蔽に上層部の人間はひと時の休みも無く働き続けなければならなかった。
そんな警察の苦労など露知らず、全ての謎を知る者達は、ひたすら殺戮者(カイン)の研究に没頭していた。
アベル隊本部、表向きは警備会社ということになっている機関の研究所では何十人と言う研究員達が未知の超人達の実験を行なっている。
長い間研究室に籠って顕微鏡と睨み合いをしていた研究員の内、二人は今、所内の休憩所で自販機のコーヒー片手に、やはり殺戮者(カイン)絡みのことを話してしまうのはきっと職業病と言うやつだろう。
「戦車並の肉体強度に戦車の主砲並の攻撃力、そのくせして走る速度は電車並ときたもんだ。軍事転用したらホントに人間兵器だよな」
白衣を着た、若い眼鏡の研究員の男性に、同じく眼鏡の女性研究員が怠慢な返事を返す。
「そうね、もしかして、殺戮者(カイン)の犯罪者を捕まえるためとか言って、本当はそっちが目的であたし達に研究させてるんじゃないの? あんなの軍事転用したって制御できるわけないし……」
「それは酷いなあ」
背後の言葉に二人が振り返るとそこには私服の赤い、派手な格好をした飯島(いいじま)一輝(かずき)が立っていた。
研究員は思わず手の缶コーヒーを落としてしまった。
二人は別に殺戮者(カイン)に畏怖の念を抱いているわけではない、ただ一般論としてあまりにも強力すぎる殺戮者(カイン)の可能性について述べただけなのだが、こうも運悪くその部分だけを聞かれるとまるで自分達がドラマや映画に出てくる敵役にでもなった気分である。
「ああ、えっと飯島、お前今日はどうしたんだ?」
一輝は慌てる男性研究員へ視線を向けてニッと笑う。
「明日新人の天宮(あまみや)由加里(ゆかり)って子の初仕事でよ、俺がそのサポートってわけ、写真を見る限りじゃかなり可愛いぜ、そ・れ・よ・り」
一輝は女性研究員のほうに詰め寄り目と目を合わせて甘い声を出した。
「酷いなあ、俺は綺麗な女性のためならアメリカ軍だろうがイギリス軍だろうが平気で戦うよ、何せ俺の力は戦場じゃ無敵だからね……」
女性研究員が思わず頬を染めると一輝は顔を離して背を向けたが、立ち去り際に一言。
「安心しろって、お前らが裏切らない限り、俺は女性限定で味方だぜ」
明らかな軽口、だが二人はその言葉に頼もしくも何か言いようの無い恐ろしさを感じた。
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