第42話 悪の女神との再会
「久しぶりね、龍斗……」
生物というよりも、芸術品に近い美貌を飾る黄金の双眸が動いたのはその時だった。
華麗なバックステップと同時に彼女が過去にいた床が陥没した。
陥没した床の光景に、龍斗は我を取り戻し、エバと同じく、気配のする方を向いた。
かくして、そこにいたのは銀髪の美少女、鈴村(すずむら)真弥(まや)だった。
「真弥さん……」
「ご苦労だったね、龍斗君」
そこに立つ真弥には普段の明るさが無く、彼女が放つ、悪魔もおののく貫禄と存在感はすでに人間に出せる範疇を超えていた。
一つの時代にそういくつも存在してはならぬ、神が如く威圧感を滾(たぎ)らせ、エバと真弥は出会い、カラーコンタクトでは押さえ切れない紅い眼光を飛ばす真弥の双眸が、同じく紅い双眸のエバを睨む。
銀髪紅眼の両者は言葉を交わすことも無く、真弥が龍斗と紗月を守るように二人の前に立ちはだかり、開戦直前の緊張感に溢れた静寂を真弥の、静かだが確かな怒気の込もった声が引き裂いた。
「エバ、人の子に手を出すのはやめてくれる?」
だが真弥の威圧感に動じることなく、エバは余裕を湛えた声で返す。
「イブ、貴方、まだその名前使っているのね? それに、その子は私の子よ?」
真弥の眼光がより強く光るとエバの周りの床が陥没した。実際にはエバ自身も真弥の攻撃対象になっているのだろうが、どうやらエバが真弥の力を相殺しているようだ。
やがて真弥の力に耐え切れなくなった床が抜けて下の階へ落ち、支えを失ったエバの足元も道連れに落ちたが、もとより彼女に足場など必要なかった。
足場など失っていないと言わんばかりに空気の上に直立するエバに真弥は吐き捨てる。
「攻撃しないなんて余裕のつもり? そっちがそのつもりなら本気で殺すわよ」
カインですら睨み殺されそうな迫力を全身に浴びながら、エバの顔は愉悦にほころんだ。
「無理しなくていいのよ、紛い物の貴方が私に勝てるはずないじゃない、それに……」
二人の姿が空間から消え、一瞬で互いの距離を詰め、エバが真弥の右ストレートを左手で受け止める形で静止している。
「そういうことはもっと強くなってから言うものよ」
不意に真弥が舌打ちをして、渾身の回し蹴りを放つが、エバは右手で難なく受け止める。
それを皮切りに真弥はエバの腕を強引にはずすと、いや、正確にははずしてもらうと突きと蹴りの連撃を放ち続ける。
無論、進行方向に超重力をかけて威力を底上げしたものである。
単純な威力ならば龍斗のソレにも匹敵する攻撃だが、エバは顔色一つ変えずにその全てを手で受け止めてしまう。
そんな戦いもエバの飽きで終りを告げた。
エバが溜息を一つつくと真弥の体は突然弾き飛ばされ、血を吐きながら床を転がり、間髪いれずエバの背後の空間から無数の光刃が放たれる。
光刃が真弥に迫り、横から飛び出した影がそれをかわりに受ける。
「「龍斗君!」」紗月と真弥の声が同時に響く。
戦艦の主砲すら効かぬ龍斗の肉体に食い込む光の刃は時間の歩みとともに掻き消え、龍斗がエバを睨む。
「お前、人の母さんに何をするんだ?」
自然に「母さん」と言う龍斗はエバの放つ破格の覇気を真っ向から受け止め、静かな怒りを湛えて向かい合い、ゆっくりと構える。
「物語に刺激をと思って来たけど、そうね、せっかくだから貴方とも遊ぼうかしら」
「「ちょっと待ったー!」」
エバの頬が緩むと同時に、場違いなほど明るい声が割って入り、階段のほうから一輝と由加里が踊り出た。ちなみにマスクはもう被っていない。
「ストップストップ、人が出るタイミング計ってたらお前らどんだけ隙ないんだよ? 龍斗も真弥ちゃん助けるの早すぎだっての」
「このままボク達の出番にゃいかと思ったよ」
慌てて喋る二人の様子にエバは小さく笑うと一呼吸おいて囁く。
「じゃあ、貴方達はこの子達の相手をしてもらおうかしら」
言い終えるのと同時に龍斗と紗月は絶句した。
エバの背後の空間にはいくつもの青い大魔方陣が展開され、その全てから白銀に輝く騎士やら神話に登場しそうな聖獣達が次々に召喚されていく。
その中に虚はなく全てが真、一体残らずエバにも似た神威の気を全身に充溢させていた。
にも関わらず、一輝と由加里はソレ口笛の一つで流し、さも楽しそうに笑った。
「こいつはおもしろそうだな、由加里、どうやら本気でやれそうだぞ」
「アイアイサー」
途端に由加里の露出された肌から刃が生まれ、一輝が腰から抜いたナイフと拳銃サイズの小型レールガンが一瞬スパークした。
「ほんじゃ、雑魚は俺らに任せて龍斗様(しゅじんこうさま)はラスボス頼んだぞ」
自らの得物を振りかざし、二人は唸り声を上げる白銀の群れに飛び込む、その姿に紗月は思わず龍斗にしがみついた。
「龍斗君、一輝さんと由加里ちゃん大丈夫なの!?」
慌てる紗月に、だが龍斗は落ち着いて答える。
「安心しろ、前に言ったろ……一輝は俺と何度も戦っているって」
その言葉の証明は紗月達の視線の先で起こっていた。
一輝はあのエバが召喚した連中を相手取り、余裕を持って戦っている、彼のナイフは獣の皮膚を裂き、レールガンは騎士の甲冑を打ち砕く。
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