第38話 共闘
「飯島に天宮? ここで何やってるんだ?」
「早かったねクロちゃん、それとボクのことは由加里って呼ぶように」
「そんなことは置いといてと、俺らはとある人の情報が元で下りてきた任務をクリアしにきただけだ。お前が敵を引きつけてくれたから楽に潜入できたぜ」
いつも通りの、やたらと露出した由加里と、ゲームセンターにでもいそうな軽い格好の一輝に龍斗が嘆息を漏らす。
「相変わらず露出狂とナンパ野郎スタイルだな」
「まあまあ、そっちは黒ずくめだし、怪しさ指数は変わらないって」
陽気な由加里の前に一輝がずいっと進み出る。
「っで、俺らはその情報提供者からの頼みでお前がこの階までたどり着いたら報告の電波を飛ばすよう言われたわけだ」
「頼まれた?」
怪訝な顔つきの龍斗に一輝はすぐに返す。
「ああ、何でも紗月ちゃんとハグハグしている現場をカメラに収めるまでは死なれちゃ困るらしい」
「じゃあいつまでも色ボケるなエセ小学生と伝えてくれ」
眉間にシワを寄せて告げる龍斗の顔に、一輝はさも楽しげに笑った。
「ハハハ、最近任務中でも表情作るようになったじゃねえか、紗月ちゃんと何か……」
「ボクのおかげだね」
一輝のチョップがクリーンヒットして由加里は頭を抑えてうずくまった。
「まっ、その言葉も俺なんかに頼まないで自分の口で直接言いな、そのためにも死ぬなよ」
「言われなくても……っで、お前らのターゲットは誰だ?」
「この上にいる、そこで一度お別れってやつだな」
うずくまる由加里は一輝に無理矢理起こされ、その後は二人とも「なんか昔やったゲームを思い出す」とか「そうだったら最上階にいるのは魔王か捕らわれの姫君だね」とか言いながら階段を上った。
八三階で廊下に出ると、そこにはまたも武装集団、だが、龍斗が拳を作ると一輝と由加里はどこからかネコ耳付きのホッケーマスクを取り出して被る。
「お前の目的は陽動だろ、じゃあここはこのフライデー・サーティーンズに任せてもっと上の大ボスと派手に戦ってこいよ」
「こいよ」
一輝につづいて反復した由加里のマスクには赤字でサーティーン、一輝のマスクにはフライデーと書いてある。
なんというミスマッチだと龍斗は苦笑する。
「それ作ったの真弥さんだろ?」
「おっ、分かるのか?」
「クロちゃんすごーい!」
「わかるに決まってるだろ」と龍斗が呆れて嘆息を漏らすと、確かに表情がついてきたかもしれないと自嘲して由加里に質す。
「そういえば、お前は戦えるのか?」
「もっちろん、こう見えて由加里ちゃんは強いんだよう、クロちゃんには負けるけどね」
言い終えると由加里の両腕の肘から手首までの皮膚から巨大な刃が飛び出した。
「これがボクの力、この刃で切れない物なんて見たこと無いよ」
刃で服が斬れるから露出度の高い服を着ていたのかと龍斗は一人納得する。
「それは良かった。じゃあ俺は上に行くけど、お前らも死ぬなよ」
「「わかってるって」」
陽気な声を背中に受けて漆黒の武神は上を目指した。
時計の音だけが静寂に染み込む寝室で、倉島紗月は未だに眠れず。涙を流していた。
彼女は、暗いところに一人でいる事に対して極端に怯えた。
七年前の夜に孤児院が襲撃された。孤児院に入る前のことはよく覚えていないが、親に捨てられたあと、暗い道を一人で歩いていたのは覚えている。
どんなに暗くても、龍斗がいてくれたら耐えられた。
しかし、夜は毎日来る、寝る時は一人になってしまう。
彼女の過去を考えれば別に恐くても仕方ないのだが、一人で寝るのが恐いなどと子供じみたことを龍斗に言えるはずも無く、毎晩紗月は暗闇と孤独に怯えて過ごすことになっていた。
「……龍斗君……」
真弥から聞かされた敵の戦力は一個大隊プラスカイン三人以上、龍斗の強さに全幅の信頼を置いている紗月ではあるが、実際に龍斗が出かけていなくなってしまうと不安が徐々に湧きあがり心配になってしまう。
夜の恐怖も重なって、もしも龍斗が自分の前からいなくなってしまったらと考えると、涙がいつも以上に流れ出して歯止めがきかなかった。
そのときだった……
パキッ と音が鳴って、紗月は上体を起こす。
ベランダの窓ガラスに無数のヒビが広がり続けている。やがて中心からいくつにも裂けて内側にめくれる。
外に立っていたのは白銀の女性、ガラスは彼女に道を譲っているように見える。
月光を反射し、流れるように美しい長い銀髪、雪のように白い肌にルビーのように紅く燃える瞳、美しいという言語だけでは表現しきれぬ美の集大成を前に紗月は絶句して何も反応ができなかった。
窓をくぐると時間を巻き戻したようにガラスは元の姿を取り戻す。
ヒビの一片までも消え去るとその女性の瞳が赤から黄金色へと変わり、また違った美しさを見せる。
人間を逸脱した神威を放つ彼女の動きは、まばたき一つでも見過せず。ただ一言「あなたは……?」と問うのが精一杯だった。
唖然として見る黄色い双眸と黄金の双眸の視線が合わさり、白銀の女性は艶然(えんぜん)と笑いかけた。
その笑み一つとっても、同じ女性として畏敬の念を禁じえない。
「毎晩泣いて、寂しい思いをして、あなたはそれでいいの?」
ベッドに一歩近づいて紗月の顔を覗き込む。
「早く起きて着替えなさい、私が連れて行ってあげる」
どこまでも響きそうな美しい声に、紗月は無意識に頷いた。
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