第28話 何かおかしい


 買い物に行ってから二〇分、両手にオレンジジュースを持ってようやく帰ってきた龍斗の姿に紗月は立ち上がり、すぐに近くへ駆け寄った。


「悪いな、売店がすごい混んでて……って、なんで飯島と天宮がいるんだ?」

「えと……それは……」

「さっちんがナンパされていたのを助けたんだよ、感謝してねー」

「まったく、女の子を待たせるなんて男の風上にも置けない奴だな、混んでいるからなんだってんだ。俺が高校生の時なんか購買部のコッペパンを買うのにモデルガン撃ち鳴らして客を蹴散らしたもんだぜ」


 誇らしげに胸を張る一輝に龍斗が真顔で「それは犯罪だぞ」と突っ込む。


「まあまあ、硬いこと言うなよ、じゃあ俺達はこれで、じゃあな」

「じゃーねークロちゃん、紗月ちゃんを大切に」


 早々と立ち去る二人の姿が見えなくなると、龍斗からジュースを受け取った紗月が恥ずかしそうに龍斗を見上げる。


「あの、龍斗君……今日は無理して付き合……」


 龍斗の手が不意に頭に乗って紗月は口を止めた。


「まあ、なんだ紗月……今までお前のためにと戦ってばかりで全然かまってやれなかったけど……紗月がしたいなら、映画とか、遊園地とか、人間の女子高生らしいこと、俺なんかでよかったらいくらでも付き合うぞ」


 龍斗の言葉に、紗月は目に涙を溜めながら今日一番の笑顔を見せてくれた。


「ありがとう、龍斗君」





「由加里、変だと思わないか?」

「にゃ? なにがー?」


 自販機の前でコーヒーを飲みながら由加里が聞き返す。

 一輝からは普段の軽さが消え、敵地の地図を見る策略家のような面持ちを崩さない。


「黒門会が狙っているのは紗月ちゃんの不老の力、ここまではいい、でも龍斗の超再生能力に興味を示さないのはどうしてだ?」

「ああそれね、ボクもそれは気になってたんだよね、黒門会がクロちゃんの能力知らないはずはないし……」


 不老とは年を取らないだけで死なないわけではない、もしも本当に永遠の命が欲しいなら龍斗の再生能力にこそ着目すべきはずだ。


 黒門会がそのことを知らないなら話もわかるが、由加里の予想は当たっている。


 ローが知らなかったのは悲しいことに、彼が下っ端の下っ端で、龍斗の戦力を分析するための捨て駒としてしか見られていなかったせいだ。


「実は、黒門会所属のカインの居場所が数名明らかになっているんだ、明後日そこに乗り込むんだけど……お前も来るか?」


 由加里は悪戯っ子のような笑いを見せてビシっと敬礼をした。


「もっちろんです」

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