第26話 俺TUEE主人公
勢いで壁まで押し飛ばされた龍斗の周りの粉塵が晴れる。不可視の触手は全て龍斗の体に刃を突き立てており、顔面を襲った刃にいたっては脳まで達していた。
喉の奥から込み上げてくる笑いを抑えられず、否、抑える気もなくローは高らかに笑い出した。
「ハハハハハ、なんだよ、結局俺の圧勝ってわけね……これで俺様の地位もドーンと……」
言葉が途切れるローの目に信じられない光景が映っている。
顔面に何本もの刃が刺さっているにも関わらず、龍斗は両手を楽そうに動かして不可視の触手に感触を確かめるように触っている。
そしてその様子を凝視するローの目の前でなんの抵抗も無く刃を引き抜いた。
途端、顔の傷がまるでその場所だけ時間の流れを何万倍も速く進めたように傷口が塞がり、影も形も無く綺麗さっぱり消えてしまう。
「なな、なんだよそれ、お前今死んだじゃん……何インチキこいてんだよ」
恐怖が乗った声を出しながら触手達は退いていく。
悠然と立ち上がった龍斗は嘆息を漏らしてから教えてやった。
「瞬速再生能力アンリミテッド・リボルス、俺の再生力の前じゃどんな攻撃も意味がない」
「はは、なんだよ、再生力ぅ? 補助系能力なんて聞いたことねえぞ、カインの能力はどいつもこいつも大量殺人に特化したものばかり、なのに自己再生ってか、不老の女に再生男、二人揃って地味地味、俺の不可視の魔手(ブレイドローズ・アンチサイト)の敵じゃねえな」
「じゃあなんで声が震えているんだ?」
ローの表情が冷え、憎らしげに龍斗を睨んで不可視の触手をうねらせた。
「震えてなんかねえよ、顔みたいな急所なら斬れるのは実証済みなんだ。再生力の限界まで切り刻めば問題ねえ」
完治した傷を確認しながら龍斗は立ち上がり、黒い双眸の中心にローを捉える。
「悪いが、今まで殺した人達の痛みを知ってもらう時間だ」
「人の痛み? 俺に一撃も与えられないクセに何言って……」
「もう分析は終った。お前の力は触手ではなく正確には長い腕だ。先端には手があってその五本の指それぞれに長い刃が生えているんだ。形状も、硬さも、あえて受けることで分析に全神経を集中できた。もう俺には効かない」
ハッタリだと信じたかったが、ローの目から見ても龍斗の視線が自分の持つ不可視の腕達を把握しているように感じてならない。
「クッ……再生能力なんて役に立たねえ、正義の味方面して調子こいてんじゃねえぞッ!」
何処から生えているのかわからないが、直感で数は五〇本、刃の数は二五〇枚、だが龍斗の才能を以ってすれば、もう不可視の攻撃には慣れていた。
「悪いが家族を待たせているんだ。すぐ終らせてもらう、そしてお前は……再生力をナメている!」
まるで本人の精神を反映させたように狂気乱舞する魔手の大軍に、龍斗は敢然と真っ向から走り込んだ。
とはいえ龍斗は猪武者ではない、全方位から襲いくる無数の攻撃を全て避け、弾き、砕き、一撃も喰らうことなく確実にローへと近づいていく。
「なっ! なんだテメー、お前の力は地味な再生能力なんだろ!? お前のソレはなんなんだよ!?」
「再生力の賜物だ……」
見えているとしか言いようのない動き、そして素手で次々に魔手とその刃を潰し、砕き割り、何者もよせつけない絶対領域を作り出すのは当然、龍斗の超武術が成せる技だ。
超回復――筋肉痛が治ると筋繊維が太くなるように、擦れた皮膚が治ると以前よりも硬くなっているように、人の肉体は傷が治ると強くなる。
そして、龍斗の力は超再生能力、時間を巻き戻すのでも過去に起こった事象を否定するのでもなく、あくまでも生物的な再生というプロセスが度を越えているだけ。
言うまでも無く、傷が深ければ深いほど治ったときの効果は高い、凡人の再生限度領域でさえバットのフルスイングに耐える強度を持てるならば、紗月に内臓ごと潰され、裂かれ、千切られ、肉塊へ変えられた状態から再生したなら、元々の肉体強度が戦艦並なら、その超回復はすでに人間の理解を遥かに超える物である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます