第18話 ロリ登場!


「「真弥さんっ!?」」


 見事にシンクロした二人の声にその人は「キャハ」と笑って応える。


 急に部屋へ飛び込んできたのはどう見ても一〇歳過ぎぐらいにしか見えない少女で、彼女も紗月同様、珍しい髪をしている。


 煌びやかに光る銀髪と白い肌、大きな瞳の色こそ黒だが、龍斗はそれがカラーコンタクトによる色だと見抜いており、コンタクトに隠れた瞳はもっと派手な色の気がしている。


 顔のほうはといえば、イマイチ人種のわからない雰囲気で髪の色のこともあり、たいていの人はハーフだと想像する、可愛さレベルのほうはといえば、小学校では常に女王様だったと言えばわかりやすい。


 フリルのついた見た目どおりに子供っぽい、白を基調とした服に身を包んだ美少女の名こそ、カイン絡みの事件全ての情報操作を行っている陰の実力者、鈴村(すずむら)真弥(まや)である、龍斗の後方支援を担い、時には一緒に黒門会へ潜入してくれる。


 とは言っても彼女は決して龍斗の友達や助手などではなく、むしろその逆、龍斗達のパトロンのような存在で二人の逃亡生活を手助けしてくれている。


 戦闘に必要な情報や武装は勿論のこと、黒門会の関連施設内部の詳細な地図なども全て彼女が取り揃えてくれるのだ。


 龍斗に武の全てを教えてくれた師匠も彼女の紹介で取り付けものだし、書類上も二人はこの鈴村真弥という少女が後見人という立場になってくれているおかげで周囲に怪しまれること無く高校に通い、こうしてマンション契約もできている。


 本当に信じられないことだが、彼女の偽造身分証明書には年齢二五歳と記載されている。


 龍斗達に対しても自称鈴村真弥、自称二五歳、自称日本人と何もかもが自称で塗り固められているが、中学生の頃からお世話になっていることもあり、龍斗も紗月も一応は強い信頼を寄せている。


 ただ、龍斗が来なくていいと言っているにも関わらず中学生期の参観日の時は無理矢理やってきてクラスメイトには龍斗の妹だと言って茶目っ気たっぷりに龍斗に抱きつき、担任との面談時は成長ホルモンの異常で未だにこんな姿だと同情を誘いながらうまいこと龍斗と紗月のことを誤魔化すなど抜け目がない。


 その上、日頃の会話の内容からは彼女が半世紀以上生きていることが明らかであり、龍斗ですらその正体はつかめていない。


 当然、銀髪だが一輝の言っていた銀髪の女とは別人である。


「こんなに早くからどうしたんですか真弥さん?」

「もう、龍斗くんたらそんな真弥さんなんて、あたしは後見人なんだから遠慮しないでママって言っていいんだよ」


 どうやら真弥はさきほどまでの気まずい雰囲気をまるごと、そんなものはなかったと言わんばかりに徹底的に打ち砕くつもりらしい、身をよじりながら声のトーンを上げて言う真弥に龍斗が嘆息を漏らす。


「っで、土曜日の朝に緊急ミッションですか?」

「まあね、あともうすぐでちょっとばかり忙しくなりそうだから、今のうちに渡せる物全部渡しとこうと思って、はい、じゃあ来月分の生活費」


 そう言って真弥は結構な厚みの封筒を紗月に手渡す。


「あの、毎月言っていますが私と龍斗君の二人だけならこんなにはいらないんですけど」


 当惑する紗月に真弥は満面の笑みで返す。


「何言ってるの、デート代とラブホ代と勝負下着代を考えればこれぐらいは必要でしょ?」


 途中からニヤニヤとした笑いに変わる真弥に紗月は赤面して口をパクパクと動かすばかりで何も言えない。


「真弥さん、いつも言っていますが俺と紗月はそういう関係じゃ……」

「ああそうだ、二人におみやげあるんだー」


 龍斗の言葉を聞き終える前に廊下に出てなにやら大きな箱を運んでくる。


 いつのまにそんなものを持ち込んだんだと龍斗は呆れた。そもそも彼女がどうやってこの部屋に入ったのかも謎である。


 この部屋はカギが無くても顔や声紋などでドアが開く仕組みになっている、もちろん書類上は二人の親であり実際の契約者である真弥の顔と声も登録しているのだが、彼女が直接ドアから入ってくることなどなく、ほとんどの場合は今日のように音も無く忍び込んでくる、本人曰く、この部屋には自分しか知らない抜け道があるとのことだが、住んでいる二人でさえその場所は見つけられないでいた。


「これこれ、おいしいよ」


 箱から出てきたのは二リットル瓶いっぱいに入った白い液体である。


 ラベルには牛乳と明記されている。


「北海道産だからね、牛乳は寝る前に飲むと吸収が良いから寝る直前に飲むんだよ」

「はい」と、素直に応える紗月と違い、龍斗は「寝る直前に」という言葉に違和感を感じて牛乳と書いてあるラベルを剥がした。

「あっ、龍斗くん駄目ッ!」


 真弥の制止も聞かずにラベルを剥がした下には精力剤の表示が顔を出した。


「真弥さん……これはどういうことですか?」


 戦闘モードの眼光を刺された真弥は気まずそうに汗を流しながら、どこの星から来たんだと問いたいほどわざとらしい仕草で可愛さを振り撒く。


「あっれー、おっかしいなー、ママ間違っちゃった、テヘ」

「適量は大さじ一杯って書いていますよ、牛乳はコップ一杯分飲むものですよね?」


 そう言って龍斗の目付きが戦闘状態を通り越して鬼のソレとなり、真弥の顔は営業スマイルを保っているが固まったまま動かず、口の端がピクピクと痙攣している。


「いやほら、引っ込み思案な若人を正しい道へ導くのが大人の仕事だし……」


 乾いた笑い声を上げながら龍斗に擦り寄る真弥だが龍斗の迫力は増すばかり、すると真弥は急に表情を和らげて逃げるように紗月に飛び掛る。


 紗月は龍斗と真弥のやりとりに頭の中がぐちゃぐちゃになっていたため、咄嗟に避けられず、そのまま背後に周られ後ろから抱きつかれる形になる。


「ッッ……まっ、真弥さん!?」

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