第24話 最強過ぎるパシリ


「悪いけどな、俺のパシリはパシリはパシリでも最強のパシリなんだよ」

「……おもしろい」


 間合いを詰めてきたジャックと航時の得物が喰らい合う。

 そこに航時の大刀を収納できる長大なケースが襲い掛かる。


 二対一、形勢逆転である。

 逆に一対二を強(し)いられている雅彦はというと、やはり防御で手一杯といった感じであった。


 両手にアイスピックを持った涼風。

 両手に大き目のハサミを持ったアレクシア。

 計四つの得物に襲い掛かられて、さすがの雅彦も攻撃までには手が回らない。

 一番厄介なのは涼風である。


 アレクシアの攻撃は先が読める。

 かわすのは簡単だった。


 だが涼風の一番困ったところは先読みがまったくできない事にある。

 まず彼女には殺気が無い。

 攻撃の意が感じられないとでも言おうか、まるで機械を相手にしているような感覚であった。


 加えて涼風の動きには一切の音が伴わない。

 足音、

 風を切る音、

 その他一切の音がしなかった。

 無音の涼風とはよく言ったものだ。


 無言のままに、すばやく的確に攻めてくる涼風は死角からも襲い掛かり、雅彦を苦しめる。

 この状態が続けば分は悪くなる一方だ。


(仕方ないか……)


 雅彦は眞子の言葉を思い出しながら、二人の少女に対して明確な殺意を生んだ。

 雅彦の、全瞬発力と筋力に殺意を乗せた、二人に対して初めて振るう本物の全力を、二人は反射的に両手の得物で受けた。


 アレクシアは二本のハサミで、雅彦の左手の刀を。

 涼風は二本のアイスピックで雅彦の右手の刀を。

 だが、結果は武器破壊に終わる。


 アレクシアのハサミは破壊されて機能を失う。


 涼風は細いアイスピックなどでは刀を防げる訳もなく、簡単に切られてバックステップでなんとか攻撃をかわした。


 武器を失った二人だが、まだ予備がある。


 涼風は前掛けのポケットの中に両手を入れて、指の間にアイスピックを挟んで抜き取り、投擲を狙う。


 アレクシアは背中に背負った超巨大バサミを引き抜いて、両手で開閉し、雅彦を威嚇した。


 射出された六本のアイスピックが。

 開いたハサミの口が雅彦に襲い掛かる。

 その攻めの嵐は、しかし亜美の一撃で玉砕された。


 横から割って入るようにして振り下ろされた、アレクシアのハサミよりさらに巨大なケースの剛撃に、アレクシアのハサミはボーリング場の床にめり込み、涼風のアイスピックに至っては一本残らず潰れ折れている。


 眉一つ動かさない涼風と血管を浮かび上がらせて怒りを顕(あらわ)にするアレクシアに、亜美と航時が対峙しなおす。


「女斬るのは忍びないんだろ?」

「この二人はわたし達に任せて」

「Aランク様は、あっちを頼むよ」


 振り返った先で待ち構えるJ・Jを見て、雅彦は顔をしかめた。

 一目で分かってはいた。

 この三人の中で奴が最強だと、


(あいつに勝てなくて親父に勝てるか!)


 雅彦はかつて無いほどの闘気と殺気を全身に充溢させて、ふざけた武器の男と斬り結び始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る