第14話 終わらない粛清
航時との戦いが終わってから数日後の夜。
とある武家屋敷の中で、酒を飲んで楽しむ紺色の着物姿の老人と黒いスーツを着た一〇人の男達は目の前に光景に仰天していた。
単刀直入に説明すれば、彼らはヤクザで、ここは組長の自宅である。
地上げに成功した事を幹部達と祝っていたが、その最中にいきなり襖(ふすま)が開かれ、両手に両刃刀を持った青年が姿を現したのだ。
警備は厳重。
殺し屋が入ってきたならすぐに誰かが気付くはずである。
他の組に雇われた殺し屋でないなら誰か……
無論、宴会を盛り上げるための演出をセッティングした覚えなどその場にいた誰の頭にもない。
その青年、雅彦が横回転をするようにステップを踏みながら進んだ。
組長の両サイドに縦に並んでいた幹部の首が次々に飛んでいく。
紅い噴水が増えて行く様を息もできずに凝視する組長。
雅彦が最後のステップを踏んで立ち止まるのと同時に振るわれた最後の刀撃が、組長の首を通り抜けた。
両刃刀を一振りずつして血を振り払うと早足に退室。
雅彦は組員達の気配を感じ取りながら誰にも見つかる事無く塀(へい)を飛び越えて屋敷から抜け出した。
一時間もしないうちに遺体は見つかるだろう。
だが、凶器と人数がバレる事は無いだろう。
現代の警察が鋭利な切り口を見て〈両刃刀〉
部屋が荒れていないから〈犯人は一人〉
そんなふうに考えたなら、正解だが上司にきっと叱られるはずだ。
聖騎士団へ任務完了の報告を入れてから、京雅彦はマンションの自分の部屋のドア開けて、すぐ違和感に気付いた。
中に人の気配。
それも複数のだ。
背負ったケースから刀を一本取り出す。
気配を殺し、音を立てずに明りのついているリビングの前に立ち、一気にドアを開け放った。
「おっ、帰ったか雅彦」
「あんた帰るの遅すぎるわよ」
勝手に人の家のリビングでテレビを見ながらスナック菓子をテーブルに広げる麗華と航時はジュース片手に振り向いてそう言った。
「……なんで城谷……と麗華がいるんだよ?」
顔を引きつらせる雅彦に麗華はあっけらかんと、
「ほら、父さん言ってたでしょ、あんたの部屋のロックにあたしの声紋登録してるって、あんたが出かけてから街に行ったら偶然亜美ちゃんと航時くんに会ってさあ、ちょうどいいから雅彦の部屋で待とうって事になったのよ」
「そゆこと」
「あうぅ、ごめんなさい、わたしは京くんに迷惑だって言ったんだけど……」
申し訳なさそうに頭を下げる亜美に責める気を削がれた雅彦ではあったが、怒りの原因はまだあった。
「それで麗華、確か今『街に行ったら』って聞こえたぞ」
ギロリと雅彦が睨んでくる。
麗華は気まずそうに視線を反らして、
「き、気のせいよ……」
「いいや、確かに今行ったよな?
俺が任務で出かけるからその間は部屋でじっとしてろって俺行ったよな?
なのになんで街に行ってしかも城谷と倉島部屋に連れ込んでるんだよ?」
静かな圧力に無言で応える麗華。
雅彦の眉間にシワが寄る。
「一日中監視されていたら可哀相だと思ってあえて代わりの護衛を呼ばなかったけど、次からは容赦なく呼ぶからな」
「ちょっ、そりゃないでしょ!」
「おいおいそんなんじゃ女にモテねえぞ」
「航ちゃん、それ失礼だよ、ごめんね京くん」
三者三様の反応に雅彦が刀を構えて怒りを現すと、麗華がふと気付く。
「あれ、あんたその刀って確か航時くんと戦って折れなかったっけ?」
「んっ、これは新しい刀だ」
「発注早いわね、刀って作り置きされるような商品だっけ?」
「いや、同じ刀を何本も持ってるんだ、ちょっとそこのクローゼット開けてみろ」
刀をケースに収める雅彦が視線で差したクローゼットを開けて、麗華はギョッとして仰け反った。
なんと、驚いた事に衣類が入っているべきクローゼットの中には、雅彦が持っているのと同じ、鍔の無い刀が鞘に収められた状態でギュウギュウ詰めにされていた。
「な、なによこれ……?」
驚く麗華の質問には雅彦ではなく航時が答える。
「雅彦の野郎は武器の扱いが雑で戦っている時にすぐ折れたり欠けたりするからな、こいつ安物の刀をちょくちょく買ってんだよ」
「良いモノを買ってもどうせすぐ折れるからな、折れるの前提で安いのを買ったほうがいいだろ?」
航時と雅彦に続いて亜美も、
「まあよほどの名刀じゃない限りは刀は元々消耗品らしいしね」
と説明を付け足した。
「はは、それよりこんなん詰め込まれたクローゼットが可哀相で仕方ないわ」
「でもお前らいつのまに仲良くなったんだ?
麗華確かそいつらと話した事ないだろ?」
言いながら雅彦は刀を入れたケースを壁にたてかけてソファに座る。
「まさひこぉ、女の子ネットワークなめんじゃないわよ。
亜美ちゃんのメルアドなんてあんたと航時くんが戦った日に聞いたし結構メールでやりとりしてんだから。
そうそう、二人ともあたしらと同じ高校に転校してくるわよ」
「なに?」
視線を向けられた航時は頷いた。
「本当だぜ、言っておくけど俺らは高二だから学校じゃ敬語使えよ」
残りのジュースを飲み干す。
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