第15話 パシリ?


 残りのジュースを飲み干す。


「まあ高校生の戦士少ないからな、麗華ちゃんの学校に戦士集めておけば社長も安心だし、お前と違って女の亜美なら友達に混ざって自然と麗華ちゃんの側にいられるだろ」

「じゃあ倉島だけ転校してくればいいだろ、なんでお前まで来る必要があるんだ?」


 聞かれて、航時は亜美の頭をわしわしと撫で回す。


「おいおい、こいつがいなくなったら誰が俺の荷物持ち兼パシリやるんだよ」

「わたしと航ちゃんは聖騎士団でも基本セットだからね」


 航時に頭を撫でられて喜ぶ亜美を見て、麗華の口から抗議が突いて出た。


「ちょっと航時くん、彼女にパシリは失礼でしょ、そんなんじゃいつか愛想尽かされちゃうわよ」


 軽いノリで忠告する麗華に対して、亜美は、


「かか、彼女!?」

 と言って赤面したが、航時は首を傾げて、


「何言ってんだ? こいつは俺のパシリで彼女じゃないぞ」

 と言った。


「って、どんだけ失礼言ってんのよ!


 航時くん亜美ちゃんに朝から晩まで身の回りの事全部亜美ちゃんにやらせといて!

 今すぐ亜美ちゃんに謝りなさい!」

 怒鳴る麗華に、だが航時は少しも堪えてない様子である。


「やらせるって言われても今更だよなー?」


 同意を求められた亜美も、


「そうだね」

 と言う。


「まず俺らの出会いが幼稚園の時に……」




「おいそこのちっせえの、お前先生から画用紙もらってこいよ」

「うん、わかった」




「だったしなー」

「あとは気付いたらもうこんな感じだったよね」


 さも当たり前のように言いながら顔を見合わせる二人に呆れつつ、麗華は亜美に後ろから抱きつく。


「そんな事言ってると亜美ちゃん誰かに取られるわよ、亜美ちゃん可愛いんだから、あーもー女のあたしから見ても可愛い」


 後半はもう完全に笑顔で、麗華は小動物でも扱うように亜美の頭に頬を擦りつけて腕はしっかりと体をホールドする。


「わわ、だからわたし、これでも二年生で……麗華ちゃんの先輩……」

「えー、この身長差で先輩って言われてもしっくりこないわよ、いいじゃん亜美ちゃんは亜美ちゃんで」


 今度は亜美を反転させて真正面から抱きしめる。

 ムニュン


「いやー、亜美ちゃん可愛い可愛い柔らかい……ムニュン?」


 頭に疑問符を浮かばせて、麗華は亜美と体を離す。

 そしてゆっくりと視線を落として……

 突然麗華の両手がワンピースの上から亜美の胸を揉み掴む。


「ひゃう! れれ、麗華ちゃん、なにを……!?」


 赤面する亜美。

 真顔で揉む麗華。

 しばらくしてから今度は自分の胸を揉んで、麗華は床に手を付いた。


「き……着痩せするタイプだったか……」


 哀愁漂う背中には、雅彦すら同情して何か励ましの言葉は無いかと探したのに、


「そいつチビだけど何気にEカップだからな」


 と航時が付け加え、麗華は吐血した……ような気がした。


「もう、航ちゃんたらなんでそういう事言っちゃうの!?


 他の男子(きょうくん)いるんだから!」


 亜美ほどではないが、顔を赤くして雅彦が、


「わ、悪いな」


 と謝るも肝心の航時は悪びれる様子も無く、


「小さいならともかくデカイんだから恥ずかしがる事ねえだろ?

むしろもっと自慢しろよ学年一位を誇りに持てよ!

そうやってネガティブだからお前は背が伸びなければ毛も生えないんだよ!」


「わぁああああああああああ!!!」


 亜美が力の限り叫んだ。

 全力で航時の口を防いだ。


 が、一度吐いた言葉は取り消せないのだ。

 教育者が昔から時々言う言葉が頭をよぎっている雅彦は背を向けてから振り返りなおして、


「んっ、今何か言ったか?

 いやもう考え事してて何も聞こえなかったぞ」


「うぅ……そんな紅い顔で言われても説得力ないよぉ…………」


 目に涙を溜める亜美の側で罪悪感ゼロの航時はやはり首を傾げて


「どうかしたか?」

 などと言っている。


「てか、航時くんあんた覗きとかしちゃってるわけ!?

 亜美ちゃん危ないからそいつから離れなさい!!

 いつか絶対に後悔するから!!」


 叫ぶ麗華に、だが今度は亜美も首を傾げた。


「覗き?」

「亜美とは五歳の時から一緒に風呂入ってるんだ、覗きなんかする必要ねえよ」

「航ちゃんの背中流すのわたしの仕事だしね」

「どんだけ!?」


「だから亜美の体なんて見飽きてるし欲情する前から倦怠期(けんたいき)だっての」


 そう言う航時の横でめいっぱい涙目になる亜美に、麗華は同情。

 そしてこの部屋の住人、雅彦は溜息を吐いて言った。


「ラブコメは外でやってくれ」


 そこへ、点けっぱなしだったテレビから流れたニュースに、四人全員の注意が自然と集まった。

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