第16話 裏聖騎士団


 学校の昼休み、教室で麗華と雅彦が一緒に講買のパンを食べていると友人が現れて、


「ねえねえ、最近麗華って京くんと仲いいよね」


 自分も座り、パンを食べ始める。


「んっ? ああ、なんかこいつあたしと同じマンションで部屋隣りみたいでさ、同じ帰宅部だし一緒に登下校してれば仲も良くなるでしょ」

「あらあら、そいつはよろしいことね、それで京くん、京くんて付き合っている子とかいるの?」

「いや、そういう関係の女はいない」

「ほほぉう」


 麗華の友人の目が怪しく光って、雅彦は謎の悪寒に身を震わせた。


「おい雅彦ー」

「京くんと麗華ちゃんいますかー」


 ガラリとドアが開いて姿を見せたのは城谷(しろたに)航時(こうじ)と倉島(くらしま)亜美(あみ)である。


 二人の容姿を見てクラスの男子と女子がにわかに沸き立ち、その中を通り抜けて二人は雅彦と麗華の前に立つ。


「ちょっといいか?」


 亜美が麗華の友人に、


「ちょっと借りさせてね」


 言いたい事が予想できた二人は黙って立ちあがった。




「今朝の新聞かニュース見たか?」


 学校の屋上で、風に吹かれながら、航時はそう問う。


「見た、日本中で合わせて昨日だけで五〇〇人も殺人で死んでいる。

実際には隠蔽された分もかなりあるけどな」


 雅彦と航時のやりとりに麗華も口をはさむ。


「ただの殺人なら日本じゃ珍しくないんだけどねー、前からニュースをいれたら家族やクラスメイト同士で殺した殺されたってニュースばっかだったし、なんつうの? 世も末ってやつ?」


 亜美が続けて、


「でも今回は質が違いすぎたよね」

「まっ、ぶっちゃけて言えば死んだのはみんなチンピラや元犯罪者、チョイ悪連中って話だよ」


「元犯罪者がチョイ悪なのかは別として、明らかに箱舟の仕業だろうな。

昨日のニュースもそうだが、さすがに情報操作できるレベルじゃなくなっている。

あいつら、とうとう本気で動き始めたみたいだな」


 戦いの時のような目つきになる雅彦に、麗華が問う。


「本気? 今までは本気じゃなかったっての?」


「ああ、社長から聞いただろ?

聖騎士団の戦士の仕事には箱舟の戦士と戦う事が含まれている。

 当然箱舟の連中からしても俺達は邪魔だ。

 だから昔から聖騎士団と箱舟は敵対勢力として戦ってきたが戦力を俺達との戦いに回した分、殺戮行動はあまりやれなかった」


「だ、け、ど、なんか向こうさんも方針変更しちゃったみたいでさ、俺達の事を無視し始めたんだよ」


「無視って?」


 今度は亜美が答える。


「本来の目的の悪人殺しに徹底するようになっちゃったみたいなの。

前までは街中で会ったら人気(ひとけ)の無い場所に行って戦ってたし、聖騎士団の施設に襲撃をかけてくる事もあった。

なのに今はすっかり隠れちゃって、夜に街の人を殺してすぐアジトに帰る。

 きっとそんな感じだと思う」


「む~、なんか卑怯な連中ね、男ならバシッと戦いなさいよね……まあ、できれば戦ってほしくないけど……」


「まあなんにせよ、箱舟の連中は元々は俺らの仲間で離反する時にスパイとか残していったんだろうからな。

こっちの情報は知られてるのに俺ら聖騎士団はあっちの情報が解らないんだ。

これまで以上に俺らは後手に回っちまうだろうな」


 聞きながら雅彦が腕を組む。


「親父の情報を知るためにもできるだけ多くの戦士と接触したかったが、これからは難しくなるな……」


 表情を曇らせる雅彦に麗華が、


「ねえ、雅彦はバカな事やってる箱舟とかいう連中と戦うんでしょ?」

「ああ」

「解ってると思うけど、実戦は闘技場みたいにすぐ医者が治療してくれるわけじゃないんだから、あんま無理しないでよ」

「……わかってる」

「それとさ……」


 少し間をおいてから、麗華は小さく言った。


「殺しちゃ駄目よ」


 雅彦は両手を頭の後ろで組むと屋上の金網に体重を預ける。


「安心しろ、箱舟だろうと、あいつらも数少ない戦士だ。

 人材と技術確保のために、社長の意向で箱舟の戦士は可能な限り殺さないで捕まえる事になっている。

 あくまでも可能な限りだけどな……」


「……」

「おいおい、二人揃って空気悪くするなよ、まあ箱舟がいくら動こうが、市民を守るのは俺らの仕事で、特に麗華ちゃんには雅彦がついてるんだから安全だって、俺らはちょくちょく抜けるけど」

「あれ? 航時くんてあたしの護衛で転校してきたんじゃないの?」


「おいおいカンベンしてくれよ、俺は雅彦みたいな仕事人間じゃねんだぞ。

学校終わったら街で女の子達と遊んでるし夜は戦士の仕事、深夜は深夜でベッドで女とよろしくしてっからそんな麗華ちゃんの護衛ばっかに時間割けねえよ、俺多忙なんだからさあ」


「むしろ航時くんが多忙じゃない事がよくわかったわ」

「航ちゃんご飯よりも女の子が好きだから……」


 シュンとうなだれる亜美の肩を叩きつつ麗華が不憫に思う。

 そんな三人を見ながら、雅彦は反応せずにただ黙り込んでいた。


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