第15話 絶望パレード
「うわぁぁッ」
大量の受信音にゲーム機を投げ落としそうになる。危ない、緊急で三万以上の出費になるところだった。
スマホが気になって試合は負けた。いいや。ランクが下がる程じゃなかったし。とりあえず今はスマホだ。何かあったのか? それとも、由奈以外にも同時に送ってくる人がいたとか。
「……由奈だ」
全部…………由奈からだった。
しかも全部スタンプ。
困った顔から真顔のスタンプに変わっている。それが何度も何度も連打されて送られてくる。
何。鞄の中で間違えてタップ、はされないよね。反応しないもんな。じゃあ、わざ送ってきてるってことだ。俺、何かした!? デートの提案がダメだった? 気に入らなかった?
『ごめん。気に入らないところあった? 家がいいならこっちもそれで大丈夫だよ』
当たり障りない返信をしてみる。
どうだ。
「…………」
十分待ってみて、スマホは鳴らないでいてくれた。息を吐く。どうやら提案が気に入らなかったらしい。どこが悪いのか見当もつかないけど、由奈の暴走を止められただけマシだ。
「八時か……お風呂でも入ろうかな」
気分転換がしたい。一時間くらい長風呂しよう。この部屋は広くないワンルームだけど、風呂とトイレが別ってところが気に入っている。
パジャマを持って立ち上がったところでインターフォンが鳴った。
荷物が届く予定は無い。というか、この部屋にいきなり誰かが来るということ自体無い。部屋を間違うなんて早々ないだろうし、なんだろう。酔っ払いかな。出るの嫌だな。
それでも、もしかしたら大学の誰かが急用で来た可能性もあるので、仕方なくドアスコープを覗いた。由奈だった。
「……ふぉッッ」
ドサッ!
驚き過ぎて尻もちをついちゃった。痛い。いや、それよりなんで!? 約束は明日だぞ。
スタンプが止んだから解決したと思っていた。もしかして、駅から歩いていて単純にスマホを操作出来なかったとかそういう……?
出ない方が、いや、部屋の電気は点いているしたった今尻もちをついちゃったから、壁が薄いと評判のここなら廊下まで聞こえている。居留守使った方がヤバイ。
ピンポーン。
ああああ絶望が微笑みながらやってくるよぉぉ! ええい、開けるしかない!
「はーい、お待たせしました。あれ、由奈。急にどうしたの」
「会いたくなっちゃって。ダメだった?」
「そんなことないよ」
そんなことあるぅぅぅダメェェェ来ないでほしかったぁぁぁぁ!
でも、あんなスタンプ連打していた割には落ち着いている。よかった。俺の早とちりか。すごい怒ってると思った――。
「よかった、家にいて」
由奈が笑顔で包丁が握られている右手を差し出した。ほ?
――包丁ォッッッッッ!!!!!
包丁だ! 包丁……? なななんで、由奈が包丁握ってるの久しぶりに見たなぁ……めちゃくちゃに料理下手だもん……て言ってる場合じゃない!!
「え、なに、どうしたの。落ち着いて」
「落ち着いてるよ。蓮君こそ慌ててるよ」
「そ、そんなことない。とりあえずせっかく来たんだし、座って、ゆっくり話でもしよ」
「いいよ、ゆっくり、ゆっくりね」
にこにこ笑って近づいてくる。俺に向けた包丁はそのままに。怖い。手のひらが冷や汗で滑る。ホラー映画の時は何したら生き延びられるんだっけ。いや、これはサスペンスか? どっちでもいいから助けてくれ……!
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