第14話 恐怖スタンプ

 寝坊したんだけどね!


 翌日、俺はまた走っていた。ただし小走りなのでセーフ。二限の余裕からアラームをかけなかったのがいけなかった。昨日の俺に殺意。選択授業だからって舐めてた。ふざけんな。


 このまま上手く進めば、この世界が俺の本当の世界になるんだから、元の人生となるべく同じように過ごさなくちゃいけない。元の俺は必修を落とさなかった。選択は落としたことあるけど、必修は落とさなかった。


 もし落としたら四年でも同じ講義を受ける上、万が一落としたら留年ということになる。そんなギリギリの生活は嫌だ。せっかくもらう予定の内定もパーになる。嫌だ。

 もちろん選択だって落とさない。落としたの二年だしね。すでに落としてる。だから三年で落としたら過去以下になる。


「間に合った……」


 今日の場所は大教室。昨日のように目立つことはない。どうにか五分前に着けたので、まだ教室はざわざわしていた。


 ピコン。


「やばッ」


 スマホをマナーにしていなかった。慌てて音が出ないようにする。講義中に鳴らなくてよかった。確認すると由奈からのスタンプだった。


「…………?」


 何やら困った顔の動物。これだけじゃ何を言いたいのか分かりかねる。由奈も寝坊したのか、忘れ物でもしたのか、化粧のノリが悪いって不機嫌な時もあったな。まあ、大ごとだったら直接言ってくるだろう。


 昼休み、偶然会った山田に軽く嫌味を言ってみたり一緒にご飯を食べてみたり。別に謝ってもらう程のことじゃなかったわ。


 帰りは夜中でも一時間近く待つというラーメン屋に寄ってみた。開店したばかりの十七時過ぎはさすがに空いていて、それでも十分待った。人気店恐るべし。豚骨醤油のこってりを食べた。味も恐るべし。また来よう。こんな良い店通ってなかったの、もったいなかったな。由奈はこういう店来ないから今度よっしーと来よう。彼女とも気軽にラーメン屋巡りとかしてみたいなぁ。


「はぁ~満腹」


 替え玉したら大分胃に溜まった。でももうちょっといけそう。三玉ならぎり。あっさりも美味しそうだった。

 社会人になるとお金はあっても新規の外食場所を探す時間が無いから、こうやって新しい美味しい物に出会えるのは幸せだ。これで由奈のことが片付けば完璧。


「ん?」


 部屋でごろんと転がっていたら、また由奈から困った顔のスタンプが届いた。まだ困ってるのか。せめて、何か文章が欲しい。説明してくれないと、さすがに悩みの中身までは分かってやれない。


「うーん……察してってやつかな」


 デート中も、たまに顔でアピールしてくることがある。それはたいていマイナスなことで、でも「こっちを向いてほしい」だの「寒いからエアコン入れてほしい」だの些細なことだった。


「分かった。明日のデートそっちで決めてほしいってことだ」


 明日は九時にうちへ来るとしか決まっていない。だから詳細を考えて由奈を喜ばせれば、このスタンプが花いっぱいのにこにこスタンプに変わるはず。

 だらだら家で過ごしてお昼を食べるしか考えてなかったけど、一週間会えなかっただけで寂しがる子だから、こっちから提案を望んでいるんだろうな。


「って言っても遠出は出来ないし、午後用事のある駅まで行ってそこで遊んでお昼食べればいいか」


 それなら由奈を送ったことにもなる。デートも出来る。一石二鳥だ。


『明日の午後はどこで遊ぶの? その駅まで行って、友だちが来るまでそこで遊ぼう』


 よし、これで俺の仕事は完了だ。由奈も機嫌が直るだろう。今日はやることないからゲームするかな。もちろん、日付が変わるまでには終わらせる。社会人は学習するのだ。


 ピコン。


「お、着たかな」


 ゲームしながらLIMEの音を聞く。多分由奈だ。この試合が終わったら読もう。


 ピコン。


「お?」


 ピコン。


 ピコン。


「なんだ?」


 ピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコンピコン。

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