第11話 徹夜でゲームと揚げ物食べ放題は若い内に
「あれ」
使わないと思っていた連絡先は予想を反して数日で目にすることとなった。高橋さんからLIMEが着た。ウソ、連絡先の交換って社交辞令じゃなかったんだ。
『また会った時はよろしくね』
こんばんはのキャラスタンプとともにそんなことが書かれていた。律儀な人だ。ノートもきっちり取る真面目な人だもんな。よっしーちょっとは見習え。
「ほわぁッ」
返信していたら、今度は由奈から着た。大学生活を懐かしんでたからすっかり油断していた。そうだ、俺は由奈とのことを考えなきゃいけないんだった。
『土曜日午前中行っていい? 午後は友だちと用事あるからお昼までなんだけど。ごめんね』
謝らなくていいよ。むしろ、用事あるなら無理しないで土曜日は会わなくていいと思う。なんてことは言わない。怒らせるよりもっと穏便に離れたいから。だって将来手錠を持ち歩く大人になる人間だぞ。なんか怖いじゃん。手錠持ち歩く人間って全人口何パーセントだよ。
でも土曜日か。指定してきたってことはそれまでは会わなくて済むってことだ。
「今日はえーと、水曜日か。じゃああと二日は自由だな」
前回は焦り過ぎた。社会人だったからって言うのもある。大学生なら時間はある。由奈にも出会いがある。だから、どうにか由奈の興味を俺から他の男に移すことが出来れば。
それにしても、大学の由奈は大量のLIME送ってこないな。それだけで安心する。朝から夜まで送られるとそれだけで精神が疲弊するから。まだまともな時期の由奈で安心した。もうスマホに怯えるのは嫌だ。
「明日の準備でもしよ」
講義のスケジュール表を探す。大学時代の講義なんて何を受けていたか覚えていない。というか今何年生かすら分かっていない。
「あ、三年だった」
見つかったスケジュール表で年齢を知る。
一年じゃなくてよかった。さすがに必修科目ばかりの毎日は飽きる。かといって三年が楽かと思えばそうでもないんだよね。就活も始まるし。もう一回就活するの? やだな~、でもうちの会社受ければいいのか。
そうだ。どういう人材を求めているかも、どういう仕事をしているかもよく知っている。何年も営業としていたじゃないか。これならさっさと弊社受けて合格もらっちゃおう。
「へへ、就活さえクリアしちゃえば、三年四年なんて軽いや。必修はほとんど残ってないし」
これで由奈のことに集中出来る。俺は現状に満足していなくて未来を変えたいわけじゃない。由奈と別れられれば、他のことはなるべくそのままがいい。
「あっちの大学に良い人いないのかな」
付き合っているのだから、良い奴がいたってそっちには向かないんだろう。俺だってそうだった。由奈が一番で、由奈の幸せが俺の幸せだった。
とりあえず、由奈がおかしくなるまでまだ二年はある。その間に段々と距離を取っていけばいい。
余裕が出たからか、ここ数年モヤモヤしていた心がだいぶ落ち着いてきた。ここでビールでも買ってきて徹夜で映画鑑賞でもしたら最高かもしれないけど、飲めないんだよね、お酒。ほんとに一口で勘弁ってなる。社会人になれば飲む機会が増えるから慣れるって言った奴出てこいや。二十八歳でも全く変わらなかったぞ。ジュースの方が五億倍美味しい。
「お?」
ちょうどいいところによっしーから電話が着た。
「もしもし」
『今暇? ゲームしようぜ』
「暇暇。何やる?」
『スパラがいい。それかユアクラ』
「じゃあスパラ。先に部屋作っといて」
『オーケー』
スパラかぁ、懐かしいな~! この時はレベル上げハマって星付きになってたはず。社会人になってからやる時間結構減っちゃったけどまだ現役って言ってやる。少なくともよっしーには負けん!
ソフトを入れてスパラを開く。ヤバ、そういえばこれ前作か。でも操作は一緒だから大丈夫。よっしーと合流する。白熱した戦いを繰り広げた俺たちは、連続プレイ六時間を記録した。つまるところ気付いたら朝だった。
「やっちまった……」
徹夜なんて五年以上していない。というか、日付変わる前に眠くなっちゃう。これが体力の有り余る学生ってやつか……。若いって怖い。よっしー、徹夜出来るのは今のうちだけだよ。二十八歳でもう毎日寝ないと具合悪くなる体になっちゃうから……。四十代で元気な上司いたけど、どんなトレーニングしたら化け物体力を手に入れられるんだろう。
『これから寝るわ!』
そんなムカつく言葉とともによっしーは沈没した。よっしーはいいかもしれないけど、こっちは一限必修なんだよ。三年で必修落とすのは自殺行為だから、出席しておいた方が絶対良い。
「九時からだから……二時間だけ寝るか」
二時間寝たら八時、これならゆっくり準備しても間に合う。俺はベッドに倒れ込んだ。良い夢見られますように。
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