第10話 高橋さん
大げさに頭を下げて、よっしーが女子にノートを返す。ここに来た時と違って笑ってるからあまり怒っていないらしい。部外者の俺も無駄に緊張していたからよかった。と思ったら、女子がよっしーの座った。
「急いでたんじゃねぇの?」
「は? あんたがそれ言う権利ある?」
「すみません」
そうだね、よっしーには何の権限も無いな。
「えーと、では、お礼にジュースでもご馳走させて頂きます」
「どうも~」
オレンジジュースを所望した女子により、よっしーはおつかいの旅に出かけた。
「ごめんね、俺の友だちが」
「いいの。明日必要だから今日中に返してもらいたいだけだったし。もし明日緑谷君が休んだらもらえないでしょ」
「なるほどあり得る」
よっしーは程よく不真面目で、単位を取るための日数に余裕があると思ったら用事が無くてもサボる。結構サボる。でもこうして誰かからノートを借りてテストはクリアするんだよね。要領が良いというか、まあ、成績もぎりぎりだけど。
「蓮君は緑谷君と仲良いんだね。学部違うよね?」
名前……ああ、そういえばよっしーが俺のこと呼んでたな。
「うん。中学が一緒なんだ。えーと、名前は何さん?」
「高橋秋帆です。好きに呼んでいいよ」
「分かった」
流れで連絡先を交換する。何か用事でもない限り使わないだろうけど、友だちが増えるのは良いことだ。そこでようやくよっしーが戻ってきた。
「長い旅路だったぜ。自販機なんでか込んでたんだけど」
「はい、どうもお疲れ様。ありがとね~」
「いえいえ、高橋様には次のテストでもお世話になるので」
「は?」
よっしーがずっと居心地悪そうでカレー吹きそうになった。結局ラーメン半分残ってて伸びてるし。
「ジュースもらえたし、そろそろ行こうかな。またね、緑谷君、蓮君」
「お~」
「またね」
高橋さんが帰ったところで、よっしーが伸びた麺をダルそうに啜って言った。
「高橋と初対面だよな?」
「よっしーといるとこは見たことあるけど、会うのも話すのも初めて」
「じゃあなんで下の名前で呼ばれてんの」
「よっしーがそう呼んでたからじゃん」
「あ~なるほど!」
納得がいったからか、ラーメンを一気に食べ出した。伸びていても意外と食べられるよね。だけど絶対伸びてない麺の方が美味しい。伸びてても食べられるけど伸びてる必要は無い。
俺もカップラーメン出来上がった瞬間に電話着たことあってさあ。そんな時に限ってバイト先で無視出来なさそうなやつ。何事かと思って出たら「休憩室に帽子の忘れ物あったんだけど堀塚君の?」とかいうどうでもいいや~~~~つ。
「高橋って蓮狙いじゃね」
口をティッシュで拭きながらそう言ってきた。目が飛び出るかと思った。
「なんで。初めましてでいくらなんでも」
「いや~、最初蓮に話しかけられた時女子っぽかったから」
「女子じゃん」
「女子だけど、普段はもっと女子じゃねぇの」
「いや女子は女子だろ」
何言ってんだ。どう転んだって女子じゃん。よっしーの目には高橋さんが男に見えてるのか。まあ、関係ないからどうでもいいや。
「それよりよっしーはどうなの。彼女出来た?」
「彼女持ちに言われるとか完全煽り先輩~ッ蓮じゃなかったら絶許。誰か紹介して」
「特にいないよ。あ、高橋さんは」
「怖すぎて無理です」
そうかなぁ。由奈よりずっと怖くないと思うけど。でも由奈の本性を知ってるの俺だけだから、きっと可愛い彼女って羨ましがられてるんだろうな。
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