第9話 出会い

 ガバッ。


 伏せていた体を起き上がらせる。どこだ。あの世ではなさそう。ということはまた過去に戻ったってことか? きょろきょろしていたら、ここが見覚えのある場所だということに気が付いた。


 大学の食堂だ。てことは、大学時代に戻ったんだ。テーブルにはお盆が無い。食べる前に寝ちゃってたってとこかな。

 死ぬと戻るのか。結婚エンドになると死ぬのか。どっちだ。俺が戻りたいと思わなくなったら、未来が続くのかもしれない。続かないかもしれない。分からないからすごい怖い。

 でも、チャンスがまだあるってことは理解した。これで三度目。今回こそ由奈とバッドエンドを迎えて結婚ルート回避してやる。


「それにしても大学か。前回よりマシだな」


 三度目の人生で一番安心したところは、大学時代に戻れたこと。だって、ここには由奈がいない。高校で出会って付き合いだしたけど、大学は別だった。講義が早く終わる日や土日は会ってたけど社会人とは違ってお金が無いから、会っても適当に家でだらだらするだけであちこちデートにも行かなかった。

 それに、大学の時はまだ拗らせていない。由奈も可愛い性格だったように思う。おかしくなったのは社会人からなら、それまでに別れたら問題ない。


「よっし!」

「何? そんな待った?」

「よっしー!」


 気合が呼びかけに聞こえたらしい。よっしーが返事をしながら座った。なんだ、よっしーを待ってたのか。そういえば、大学一緒だった。


「はい、蓮の分」

「ありがとう」

「そんな腹減ってたんだ」


 そうじゃないけどそういうことにしておこう。優しいな。つい一分前に由奈の手錠事件を経験しているから、ふとした優しさが心に染みる。手錠ってどこで買ったんだろう。結構本格的に見えた。夜な夜なネットで購入する由奈を想像して身震いする。


「いただきます」


 持ってきてくれたお盆にはカツカレーが載っていた。学食のカツカレー好きだったなぁ~。しかもこれで四百五十円。安い。カレーだけなら三百円。安い。学食なんてもう一生食べられないと思ってた。


「あ、お金」

「さっきくれたじゃん。寝ぼけてんのか?」

「そうだった」


 払ってたのか、墓穴掘った。まあ、寝てたらしいからごまかされてくれるだろう。寝起きだいたい変だしな、俺。


「うわ」

「どうしたの」

「クラスの子にノート借りっぱなしだった。やっべ、すぐ返せって」

「返しなよ」

「え~、ラーメンなんだけど」


 確かに、よっしーのメニューはラーメンだった。それも美味しいんだよね、安いし。学食の料金体系に慣れたら、近所のファストフードですら高く感じちゃう。


「使いたいんじゃない?」

「もう帰るから持って帰りたいみたい」

「そりゃすぐ返さなきゃ」

「えぇ……じゃあ、取りに来てもらおう」


 よっしー自由過ぎる。借りた挙句取りに来てもらうとか甘えん坊三歳児か。


「取りに行くって」

「優しいじゃん」

「すげえ鬼のスタンプ大量に着たけど」

「大激怒じゃん」


 可愛い動物がぷんぷん怒ってるスタンプを想像していたら、見せられた画面いっぱいにわりと凶悪な鬼がいた。幼児が見たら泣く。

 どんな子が来るんだ。内心怯えていたら、よっしーの頭がグーパンチされた。グーって。


「いッッて!」

「おおげさぁ。早く返してよね」


 おお、ハスキーボイスのショートカット女子。いつもふわふわ由奈ばっか見てたから新鮮。カッコイイ。前によっしーと一緒に話してたの見たことある人だと思う。遠目だったからこんな見た目だったの初めて知った。


「ごめんね、こいつワガママで。急いでたんでしょ?」

「へっ? いや、そんなことないです!」

「おやぁ~? 俺と蓮とで態度全然違うんですが?」

「あんたは早く返す」

「はい。失礼しました。お世話になりました」

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