第8話 二度目の死
スライドショーでも観よ……うわぁ、式場見学のドレス試着写真ある……。未来、変わっちゃったね。由奈にとっては良い未来になったんだろう。
前回スライドショーなんてあったっけ。サプライズが衝撃過ぎて何も記憶に無い。
俺が全身冷や汗を垂れ流している間に、式は和やかに終了した。
参列者たちが俺たちに話しかけながら去っていく。よっしーは今回も一番に来てくれた。ありがとう。二回もありがとね。
「由奈さんのこと守るんだよ」
「二人で幸せにね」
「うん」
お父さん、お母さん。どっちかというと、俺を守ってほしい。由奈から。二十八歳だけど実家に帰りたいです。二人はにこやかに帰っていった。一人息子の結婚式だもん。そりゃ嬉しいわ。俺は悲しい。
俺も連れていってほしかった。ここは幸せな新婚生活じゃなくて監獄が待ってるんだよ。
「そろそろ行こっか」
二次会ね。前回はその前に死んじゃったからどんなところか分からない。食べ物が美味しいといいな。食べまくって現実逃避するしかない。
今回は俺も式の準備に携わったはずだから、好物があるレストランにしてるかもしれない。イタリアンかステーキあたりか。式と違って、二次会のノリはわりと好き。今まで二回だけ参加したけど、親や親戚がいないからちょっとかしこまった飲み会みたいな雰囲気だし。ビンゴゲームあるかな。あれ盛り上がるよね。
「蓮君!」
「えっ」
「車が!」
――俺、ここで車に轢かれるんだった!
何をボーっと考え事していたんだ。死ぬのは嫌だ。さすがに二度も死にたくない。
確か車は右から!
「うわッッ!」
ブゥゥゥン!
あと十センチずれていたら当たっていたというところでぎりぎり避ける。心臓がヤバイ。耳の横にあるみたい。とりあえず、心臓が動いているってことは生きているってことだ。
そんな俺を無視して改造済の轟音を背に車が走り去る。あの音、車検通らなさそう。由奈がスーツの裾を引っ張る。そういえば、由奈も反応してくれたらしく、俺のことを引き寄せてくれていた。あれがなかったら掠るくらいはしてたかも。今更ながら恐怖が襲う。
「はあ……ッは……!」
「当たってない!?」
「……うん。当たってない、平気。ありがとう」
あちこち体を調べられ、スーツが全く汚れていないことを確認した由奈が座り込む。俺は慌てて抱き起こした。
「服が汚れちゃうよ」
「私服だから平気。二次会で着替えるし。それより、よかったよぉ……!」
そうだよね。目の前で今日結婚式挙げた相手が轢かれるかもしれないなんて、とんでもない悪夢だ。いくら由奈でも申し訳ない気持ちになる。
「大丈夫だから、二次会行こう」
「うん。でも、心配だから電車じゃなくてタクシーで行く。あ、呼んだタクシーに轢かれるかも」
「そんなことならないよ」
「でも」
由奈に詰め寄られる。式場から出たところであまり目立ちたくない。結婚式関連で揉めてるカップルだと思われる。事実だけど、関連で困ってるのは俺の中だけだ。
「じゃあ、手を繋いで行けば心配しないで済む?」
「手? それなら轢かれる時は一緒か……」
「怖いこと言わないでほしい」
「でもでも、蓮君だけ轢かれるかもしれないから。二次会まで絶対離れないように手錠してこっか」
「てッ」
――手錠って何!?
怖い怖い! 結婚式に手錠持参の花嫁ってどこぞのミステリーだよ。花婿に恨みを持つ元カノ役か!
じりじり近寄られて、そのたび俺が一歩二歩と下がる。これじゃ二次会遅刻しちゃう。
「由奈! ほら! とりあえず、ね」
「私と一緒に付けて」
「うう、うう~~~~~ん」
「恥ずかしくないから」
「由奈はね?」
自分で用意するくらいだからどうとも思っていないのだろう。でも俺は別だから。一回仕切り直したい。もうちょっと穏やかな気持ちで二次会にッ!?
「…………えぁッッ?」
後ずさりをしていた俺の体が傾いた。
ヤバイ。
そう思った時にはすでに遅く、風が俺を突き抜ける。
どうやら落ちたらしい。暴走車から逃げて入り口の前まで戻っていたから、階段を数段上がっただけだと思っていたけど、入り口の横は地下までの吹き抜けになっていたとこんなところで思い出す。数メートルでも、下がコンクリートだから、ダメなやつ。
「ぅあああああああ!」
「蓮君ッッッ」
由奈の叫びが上から聞こえる。
たかが数メートルなのに長く感じる。俺、やっぱりこのまま死ぬの?
せっかく車を回避したのに。
また死ぬの!?
「くそぉぉぉッッッ!!!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます