第7話 求婚

 翌日、LIMEを開いた俺は絶望した。九時の時点で電話が二件、メッセージにいたっては十五件着ていた。起きてからもぽつぽつ着た。暇か。十時から仕事って言っていたから、それまで送りまくったんだな。暇か。


「うわッ」


 既読になったのを確認したからか、新たなLIMEが着て驚く。起きたの分かったしもういいでしょ。勘弁して。

 あっちが仕事の日はゆっくり出来ると思ったのに。もしかして、休憩のたびにこんなんなのか。どうしちゃった。昨日の夜までは普通だったのに。いや、普通ではないけど、異常とまではいかなかった。


 メッセージの内容を見ても、「おはよう」「外出たよ」「仕事場着きました」だの、他愛もないものばかり。あとスタンプ。スタンプ好きだよね。俺も送ったりするけど。

 ただ単に甘えたい時期なのかな。落ち着いてくれるといいな。


「一言だけ返しておくか。既読スルーで怒られたら嫌だ」


 起きたことを送ったら、怒涛のスタンプが返ってきた。完全に連打してるよね。


 結局、俺が心配した通り、その日一日断続的にLIMEが送られ、最終的には本人が突撃してきた。マジかよ。昨日から別人になったみたい。明日も仕事だから泊まれないのに、今から一時間かけて帰るのか? そして俺は送らないといけない。


「来ちゃった」


――来ちゃったじゃないね! 俺の静かな休みを返して!


「仕事お疲れ様。いたからいいけど、俺がいなかったらどうするつもりだったの?」

「待つよ。それにGPSが部屋から動いてなかったから」

「ああ」


――G・P・S!!! いつでもどこでもGPSが付いて回る!!


「来てくれたのはありがたいけど、明日も早いんだから帰ろう。送るから」

「泊まっちゃダメ?」

「ここから仕事先までだと一時間半かかるじゃん。それに用意も無いし、また今度ゆっくり出来る時にしよ」

「う~~~~ん」


 本人も分かっているらしく、文句を言いながらも、準備を始めた俺の傍に座った。


「蓮く~ん」

「はいよ」


 話しかけてくるのを生返事する。急に来られたから準備に時間がかかる。往復で二時間だから、帰りの時間考えたら今のうちに洗濯物を取り込まないといけないし、おやつで使った食器そのままだったのも洗っておきたい。


「次来た時は泊まるよ」

「はいよ」

「途中で夜ご飯食べようね」

「はいはい」

「結婚しよ」

「はい」

「やった!」

「ん?」


 俺は顔を上げた。


「今、なんて言った?」


「んふふ、結婚しよって言った」


「けっこ、ん」


――結婚しよ!?


 結婚って言った!? 今の流れで!?


 なかなか会えなくなるって言って、こうやっていきなり来られて適当な返事しかしない男相手に?

 由奈の脳内快楽分泌で溢れてるのか?


「あ~~~、今のはなんていうか」


 シュルルルルルルルル!!!


 言い訳を言おうとしたら、急に視界が回り始めた。なんだこれ!!!


「うおおおおおお!」


 回る。回る。しかも、よく見えないけど、会社の出来事や由奈との生活が高速で展開されてる。人生を早送りされてるみたい!











「ッッあれ!?」


 辺りを見回す。みんながテーブルに座って歓談している。奥のスクリーンには二人の思い出エピソードとともに写真がスライド上映されている。


――これ、俺たちの結婚式!


 戻ってきちゃった。最悪だ。求婚に返事しちゃったからか? 最悪だ。適当に相槌打ってただけなのに。

 横ではやっぱり由奈が幸せそうに笑っている。しかも、今回は俺も同意の上の結婚式になってるってことでしょ。前より悪くなってるじゃん。ウエディングエンドフラグ折れなかった。うぅ、泣きそう。


「蓮君てば目が潤んでるよ」


 由奈がハンカチ渡してくれる。うん。結婚式で泣いてるわけじゃないんだよね。結婚式が理由だけどそういうことじゃないんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る