第37話 宝島②

 翌日は、見渡す限りの晴天であり、行楽日和だった。学校付近で待ち合わせをし、俺と八神、そして優と勇美がそこに集合した。

 大通り沿いに出ると、そこにワンボックスカーが停まっていた。運転手は喜多山先生である。俺たちはそれに乗り込んだ。


「……まったく、突然すぎるよ」


 そうぼやいたのは運転手だ。


「いいでしょ? いつも大した予定なんてないんだから」

「でも、僕も急で驚いたよ」

「言い出しっぺは虎太なんでしょ?」


 勇美、優も呆れたように言う。今日、これから何をするのかを知っているのは、首謀者の俺と、共犯者の八神だけなのだ。


「よし。じゃあ、まず空港に行くぞ」

「え? どうして?」

「こずえがそこにいるからな」

「おお! こずえちゃん来るんだ! でも、なんで空港? こずえちゃんどっか行ってたの?」

「とりあえず行くぞ」


 こずえの話が出ると、優もとたんに嬉しそうな顔になった。優も勇美もかなり心配していたから、ホッとしたのだろう。

 二人には、こずえがアメリカへ行く話もしていなかった。本当のことを知ったら、勇美辺りは止めてきそうだからだ。


 今回、悪いのは全て俺である。八神にはやむを得ないところがあったので伝えたが、共犯者はできる限り少ないほうがいいのだ。


 空港はかなり南の方にある。一応、フライトの時間を調べ、余裕を持って時間設定をしていた。今からなら間に合うだろう。


「かえでちゃん、ゴー!」

「……こういう遊びには、本来顧問はいらないんじゃないのかい?」

「こずえちゃんを迎えに行くのに必要なんだもん。ほら、ゴー!」


 八神が乗り気ではない顧問の尻を叩く。俺ははやる気持ちを抑えるため、一度深呼吸をした。


「……一生忘れられない日にしてやる」


 そうポツリと呟く。それは、こずえにとってもそうだし、俺にとってもそうなるはずだった。




 地上を少し進むと、高速道路に乗る。その後しばらくすると、右手には海が見えた。このまま海沿いに進んでいくのが空港への道筋である。


 それほど遠くないはずなのに、海を見るのは久しぶりだった。比較的狭い海のはずだが、それでも、俺の目には果てしなく大きく見える。

 こずえの乗る飛行機が越えるのは、これよりももっとずっと大きな海だ。そこにあるのは、きっと、全くの異世界なのだろう。


 逆の窓際では、興奮の抑えきれない優が、いつもと変わらずのんびりしている勇美に話しかけている。助手席に座る八神は、質問には明るく答えるものの、いつもよりはずっと大人しかった。きっと、俺と同じように、いろいろと頭を巡らせているのだろう。


 何度も海が見え隠れしたのち、海を渡る馬鹿でかい橋が見えてきた。その先が目的地である。


「こういう橋ってテンション上がるよなー」


 優が言う。いつもならそんな発言も嘲笑してしまう俺だが、今の俺は、優と同じで少し興奮していた。橋の先にある孤島には、宝が眠っているような気がした。


 橋を渡り切ったところに高速の出口がある。その先には空港しか存在していなかった。

 いよいよである。ここで、俺は今後の動きを指示する。


「第1ターミナルの手前の道路で止めてください。八神は俺と一緒に来てくれ。優と勇美は後ろの席に移動しておいてほしい」

「了解」


 そう返すのは、一番現状をわかっている八神だった。声に力が入っている。


「えー、私もこずえちゃんを迎えに行きたいんだけど」

「すぐに会えるから我慢してくれ」


 優にはそう言って制御する。実際は、そこは不確定要素である。


「……君たち、決して危ないことはしないでくれよ」


 喜多山先生は、何かを察したように言った。


「大丈夫だって! 楓ちゃんは運転するだけだから」

「……嫌な予感がする」


 なかなかの直感である。まあ、喜多山先生へのフォローは八神に任せておこう。何せ、八神は先生の弱みを握っているのだから。


 まもなく到着する。まだフライトまで時間はあるが、探す時間を考えると、それほど余裕はない。一階出入口前に着くと、俺と八神は急いで車から飛び出した。


「じゃあしばらく待っていてくれ!」


 車内の三人にそう告げると、俺たちは走ってターミナルビル内へと入っていった。

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