第7話 八神愛守①

 天才と変人は紙一重と言われる。それは、新しい発明が、その奇想天外な発想力や執着心から生まれているからだと考えられる。思考力のベクトルと関わる時間が、常人のそれとは違うため、二種類の人間が近いとされるのだ。


 もっとも、それは近いだけであり、イコールであるとは限らない。俺は今まで多くの人間を変人だと分類してきたが、その中に天才と呼べるやつはいなかった。


 発想力と執着心こそあれども、それは決して有用な使い方はされず、ただの欲として消費されていく。そう思えば、いかに世に役立つものを生み出せるかどうかこそが、天才と変人を分けるのかもしれない。


 星名こずえは、れっきとした天才である。彼女の場合、発想力や執着心の有無すら関係なく、天才と分類されている。それは、彼女が普通の人間の知識を短期間で習得する能力の持ち主だからだ。

 彼女は今後紙一重の存在になる可能性はあるが、現状では天才なのだった。


 授業に集中せずにそんなことを考えていると、あっさり一日の勤めが終了した。しかし、今日の俺はここからが本番である。


「それじゃあ」

「ああ」


 勇美に軽く手を振る。放課後に用事があることは、事前に伝えておいたのだ。優も今日はすぐに帰ったので、勇美には平和な放課後が訪れるだろう。


 俺は、こずえのほうを見ることなく教室を出ていき、そのまま部室棟へ向かう。教室から並んで歩くのは、さすがに抵抗があったのだ。

 こずえとは、部室棟前で待ち合わせた。


「お、おまたせしました……」


 俺が到着してまもなく、こずえが現れた。急いできたのか、軽く息を切らしている。


「早いな。走ってきたのか?」

「沢渡さんのあとを追ってきたので……」


 どうやら、ずっと俺が見えていたらしい。 


「大人の男の歩く速度に合わせたら、そりゃ息も切れるだろう。もっとゆっくりでよかったのに」

「そう、ですね……」


 こずえは口元を緩める。なんだか悪いことをしたような気分だ。


「それで、会わせたいかたというのは?」

「ああ、ついてきてくれ」


 俺はこずえを引き連れ、部室棟の三階へ向かう。部室棟は大小二種類の部室があるらしく、一、二階に大きな部屋、三階に小さな部屋が集まっているようだ。

 こずえの歩くペースに合わせながら、三階の奥地へと歩いていき、そこでようやく立ち止まった。


「会わせたいやつは、この写真同好会の部室にいる」


 こずえは部室の扉を凝視する。そこには、特に何も書かれていない。


「同好会なのに部室なんですね」

「知らんが、会室なんて聞いたことがないし、学校ならもれなく部室になるんじゃないか」

「なるほど。たしかにそうですね」


 どうでもいい疑問である。どうやら、こずえは緊張しているらしい。まあ当然かもしれない。


「入るぞ」

「はい」


 俺は軽くノックをする。すると、中から「はーい」と間延びした声が返ってきたので、それを許可だと受け取って扉を開き、中へと入っていった。

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