第997話 VS 上位女神フローネ
前回のあらすじ。
レイを天界に迎えるために現れたフローネを説得する為に、ベルフラウは説得を試みる。結果、彼女の本音を聞きだす事に成功したものの、その意思を曲げることは出来なかった。
そこに現れたレイとその仲間達。
フローネは再び、レイに自分の元へ来いと問いかけるが、レイはフローネの誘いを断る。全てを諦めたような表情をしたフローネを見て、レイ達は説得に成功したのかと期待を掛けたのだが……。
気が付くとレイ達は暗闇の世界に居た。
いや、違う。この闇の正体はただの暗闇の中では無い。
暗闇の中で、はっきりと仲間達の姿が見える。
「……ここは」
レイ達は互いを見失わない為に一か所に集まり周囲を確認する。
周囲は暗いが自分達の姿は何かに照らされているようにはっきりと見える。仲間同士で何が起こったのか話し合っていると、周囲が月の淡い光に照らされるかのように明るくなっていく。
レイ達がその変化に驚いていると、闇の中からフローネが姿を現す。
「フローネ様……」
「……私の権能であなた達をここに移動させたの。ここなら主神様の目の届かない場所だから……」
彼女がそう言葉にすると、周囲が更に明るくなっていく。レイ達が周囲を再確認すると、そこは真っ白で何もない場所だった。
「この場所は、私が神器を用いて作り出した世界。
外の世界とは隔絶していて、ここで起きた事は主神様ですら一切干渉が出来ないし、地上で消えている時間も一瞬よ」
フローネはそう説明して、レイ達の後ろにいたベルフラウに視線を移す。
「……ベルフラウ」
「……はい」
「お互い引くことが出来ない理由がある。なら、ここは最も分かりやすい手段で決着を付けましょう。そう、魔物退治が得意なあなた達にとってうってつけの手段よ」
フローネはそう言いながらレイ達と距離を取る。そして彼女は両手を上に掲げると、彼女の掌から光があふれ出した。
「<神器召喚>」
フローネがそう唱えると彼女の手に光の球が出現し、それが形を変えて彼女の掌から肘の辺りまでを纏う白い手袋になった。
「……さぁ、戦う勇気があるなら、あなた達も武器をとって」
フローネはレイ達にも武器をとる様に促す。レイ達は互いに頷き合い、それぞれの武器を取り出して構える。
「……本気で戦うつもりですか、フローラ様」
ベルフラウも武器である杖を取り出すが、その表情はどこか悲しそうだった。
「ええ……。本来、神が地上の人間達に手を出すなんてあってはならない事だけど、あなた達なら別でしょう。何人か半神となる存在もいるようだしね……」
フローネはそう言いながらベルフラウの後ろにいる何人かに視線を向ける。
「……?」
その内の一人に、レベッカにもフローネは視線を向けていたが、レベッカは何の事か分からずに困惑した表情をする。レイは彼女を庇うようにレベッカの前に出て剣を構えフローネに質問する。
「僕達が勝てば、もう諦めてくれるんですか?」
「ええ、諦めるわ。でも私が勝ったら貴方を天界に連れていく。その後で貴方が神になるかどうか決めることになるけど……それは今考える事ではないわね」
フローネはそう言いながら再び光に包まれて、その姿を白いドレス姿に一変させる。
「さあ、始めましょう。これが最後よ」
フローネがそう宣言すると、空に舞い上がり、レイ達を見下ろす形になる。
レイ達全員覚悟を決めて各々が戦闘態勢に入るが、その前にカレンがフローネに向かって強い口調で質問する。
「確認するけど、手加減しなくていいのよね?」
「不要。仮にここで私が倒されたとしても著しく消耗はするけど死にはしない。むしろ手加減なんてすればあなた達が危ういことになる。なにせ私も本気で戦うのだから」
フローネはそう言って手を掲げる。すると彼女の周囲一帯からの無数の光の剣が出現し、その切っ先がレイ達に向けられる。
「さぁ始めましょう。私を倒して自由を勝ち取りなさい。私があなた達にとっての最後の障害になってあげる!」
フローネはそう言って、掲げていた手を振り下ろす。
それと同時に光の剣がレイ達に向かって雨のように降り注ぎ始める。
「皆、行くよ!」
レイの号令と共に全員がそれぞれ降り注ぐ剣をかわしながら行動に移る。
レイとカレンは前衛として飛んでくる光の剣を武器で弾いて背後を守る。
ベルフラウとノルンは後方から防御魔法を展開して防御に集中する。
しかし、フローネの攻撃の威力があり過ぎてすぐに効果が切れてダメージを受けてしまう。
「……く、これが上級女神の神器……!」
「ノルンちゃん、集中して! 一人じゃ無理だけど、私と一緒なら耐えられるわ!」
「……ベルフラウ。……ええ!」
二人はお互いの防御魔法を重ね合わせて一つの防御結界を作り出す。彼女達の特性がシンクロし、仲間達全員を覆うほどの極大の結界を生み出し、フローネの攻撃を押しとどめる。
「流石ベルフラウさんとノルンちゃん! よぅし……私も……!」
二人の結界で攻撃が緩んだ所で、ルナは竜化を使用して上空からレイ達を援護に回る。
「(……なら私も……どうにか死角に回り込んで……)」
アカメは天使の翼で空を駆け回って光の剣を回避しつつ、フローネの隙を伺う。
「レベッカ、行きますよ!」
「はい、エミリア様!」
レベッカとエミリアは互いに示し合わせて、レイの背後から飛び出して弓と杖で狙いを付けてフローネに向かって攻撃する。
「
「はあっっ!」
レベッカの矢とエミリアの杖から放たれた魔法が光の剣の壁を潜り抜けてフローネに向かって勢いよく飛んでいく。
どちらも直撃すれば即死するほどの威力で一切の手加減が無い。だが相手はミリクやイリスティリアを上回る格の上級女神。
「甘いわね」
フローネがそう言って軽く手を動かすと、二人の仕掛けた攻撃が彼女の手元に引き寄せられ、その攻撃が打ち消されてしまう。
「なっ……!?」
「わたくしの弓矢とエミリア様の魔法が消されてしまいました……!」
驚きを隠せない二人。
フローネはその隙に攻撃を仕掛ける。
「じゃあ、次はこっちの反撃ね。全力で攻撃するから本気で抵抗しないと全滅するわよ?」
フローネは笑みを浮かべながら左手を上空に掲げる。
「さぁ……私の神器
フローネは叫ぶ。
すると、その左手の10センチ上あたりに巨大な光球が出現する。
それを見たエミリアとカレンが表情が固まる。
「カレン、あれ……!」
「信じられないほど高密度の魔力……! 私が全力で魔力を解放しても凌ぎきれないわ……!」
魔力量に置いて最強の二人が、目の前の光を見て恐怖で顔が引きつってしまう。
「うっ……あの魔力量は……!」
後方でベルフラウと共に光の剣の防御に当たっていたノルンも同じ反応だ。
「レイくん! あの攻撃は私達じゃ防げないわっ!」
「……!!」
四人の焦った声を聞いてレイは聖剣を解放する為に神経を集中させる。
「威力は、そうね……あなた達の使う聖剣技の四、五倍くらいかしら。普通の相手には過剰だけど、あなた達なら耐えられるかしらね?」
フローネはそう言って左手をレイ達に向かって振りかぶる。それに呼応して光球が彼女の手から離れて、周囲の空間を振動させながらレイ達に向かっていく。
レイは意識を集中させてその攻撃を見据えると、仲間達の前に立ちはだかる。そして――
「――聖剣技、
レイは自身の魔力を聖剣に注ぎ込み、光の波動を解き放つ。
「くっ……!」
「……っ」
互いの光と光のぶつかり合い。
その衝撃は凄まじく、空間全体が自身のように激しく振動する。
仲間達はその衝撃に耐え、光と光のぶつかり合いに目を庇いながらその結果を見届けようと集中する。
しかし、徐々にレイがフローネの攻撃に圧されていく。
このままでは押し負けると判断したレイは――
「まだま……だあああっ!」
「っ!」
レイは自らの魔力の出力を上げてフローネの攻撃に対抗する。レイの聖剣技の威力が跳ね上がったことで、フローネの光球が徐々に押し返されていく。
「こ、この力は……!」
レイの聖剣技に圧されながらフローネは驚きを隠せない。
そしてついに光球が打ち消されて消滅してしまう。
「……っ!」
「レイ君っ!!」
が、大技を全力で放ったレイは、一気に力が抜けてしまいその場で膝を崩してしまう。そこにカレンが彼のカバーに入って、彼の前に立ってフローネからの追撃に備える。
しかし、フローネもまたレイとの鬩ぎ合いで自身の攻撃を相殺されたことに驚愕して隙を見せていた。
そして―――
「――隙、見つけた」
ずっとフローネの隙を伺っていたアカメがその隙を見逃さない。一気に接近してフローネの背後に回り込んで、彼女の背中に自身の右の掌を当てる。
「……っ、しまっ――!」
「
彼女が言い終える前に、アカメの魔法が彼女に向かって解き放たれる――!
アカメの闇の魔法によってフローネの魔力の根源たるマナが吸収されて、彼女の全身から力が抜けていく。
「く……ああああああああああ!!!」
フローネはアカメの手を握って抵抗するが、その抵抗も虚しく苦痛に顔を歪ませる。
「……意外と呆気ない……なら――」
アカメはそう口にすると、もう片方の手で彼女に止めを刺そうと闇の魔力を左手に乗せて手刀を構える。そして、フローネの首筋に向けて手刀を放つ!
―――だが。
「……ふふ、掛かったわね」
「!?」
フローネは不敵な笑みを浮かべて、アカメの手刀攻撃を自身の左手で簡単に掴み取られて防がれてしまう。
「く!」
トドメに失敗したアカメは、その場から離れて再度攻撃を仕掛けようとする。しかし、フローネによって腕を掴まれて身動きが取れなくなってしまう。
『アカメちゃん!!』
上空でアカメの援護に入ろうとしてたルナは、アカメが劣勢になったと判断。
竜の翼を羽ばたかせ多数の攻撃魔法を仕掛けながら一気に突進する。
だがフローネはチラリと彼女の方に視線を向けると、彼女が放った攻撃魔法を悉く無効化してしまう。
そしてルナにニッコリと笑顔を向けると……。
「少しだけジッとしててね、椿楓ちゃん」
『えっ』
突然、自分の本名を呼ばれてルナは戸惑って動きを鈍らせてしまう。
それが隙になってしまった。
「
次の瞬間、彼女は突如意識を失ってしまう。そして、意識を失ったことで彼女の<竜化>が解けてしまい、元の人間の姿に戻ると同時に地上に向けて落下を始める。
「ルナ!!」
アカメは叫んで彼女の救援に向かおうとするが、フローネに左手を掴まれて身動きが取れない。
「離して!」
「貴女、強そうだったから少し警戒してたのよ。でも、これでお終いね」
フローネはそう言いながら、あろうことか彼女を抱きしめる。
「!?!?」
その予想外の行動にアカメだけでない。
援護しようとしていたレイや地上にいる仲間達も動揺を隠せない。
かろうじてレイだけは何とか動いて、落下してきたルナの身体を受け止める。
「ルナ、しっかりして!!」
「……」
しかしルナは身動き一つ取らない。
おそらく先程の魔法で彼女の時間だけが止まってしまったのだろう。
息すら止まっていて死んでいるように思えてしまう。
フローネに抱きしめられて混乱していたアカメだったが、自身の身体からどんどん力が抜けていってる事に気付く。
「う……っ、これは……」
アカメはそれが自分のマナを目の前の彼女に吸収されていってる事に気付く。力の入らない彼女は抵抗できずに、やがて完全にマナが枯渇してしまい意識を失ってしまう。
フローネは意識を失った彼女をそっと手放すと、アカメはそのまま地上に向かって自然落下していく。
「アカメ!!」
それをカレンが慌てて追いかけて彼女を受け止めようとするのだが……。
次の瞬間、アカメの姿が突然消失する。
「なっ!?」
アカメを受け止めようとしたカレンは、突然消えた彼女の行方を視線で追う。しかし、何処にも彼女が居ない。レイ達も視線を彷徨わせてアカメを探そうとするのだが、その次の瞬間にレイの両手でぐったりとしていたルナまで消失してしまう。
「ルナ!」
「……どういうこと、まさかフローネ様が!?」
ベルフラウはフローネがいる上空に視線を向ける。
「正解よ、ベルフラウ。あの子達は戦えなくなったからこの場から消えてもらったの」
「そんな、あの子達は皆の為に戦ってくれていたのに……」
ベルフラウは上空にいるフローネを睨みながらそう呟く。
「……よくもルナちゃんとアカメちゃんを!」
カレンは怒りを露わにする。
同じようにレイを含めた全員がフローネに厳しい視線を向ける。
しかし、当のフローネは呆れたような表情をしていた。
「……って貴女達、勘違いしてるわよ」
「え?」
「彼女達は戦闘不能になったからこの場から離脱してもらっただけよ。私達が転移する前の場所で待機してもらってるわ」
「……そ、そう、ですか……良かった」
レイと仲間達はそれを聞いてホッと安堵する。
「桜井鈴、ベルフラウ、エミリア、レベッカ、カレン、ノルン……6人。
あなた達も二人のように意識を失うか、ある程度のダメージを負うと強制的にこの空間から離脱させるからそのつもりでね」
「そう簡単には、倒されませんよ……必ず貴女様に勝って見せます! そして、レイ様と一緒に幸せな日々を過ごすのでございます!」
レベッカが弓を再度構えながらフローネに向かってそう叫ぶ。
エミリアも杖を構えて魔法を唱える準備に入る。
「……良い気迫ね……さぁ、続きを始めましょうか……!」
フローネは剣を構えながらレイ達にそう言い放つ。そしてアカメとルナの離脱によって人数が六対一になったレイ達の戦いが再び始まるのだった。
これが本当に最後の戦いになります。
レイ達は彼女を降して自由を勝ち取れるのでしょうか。
最終回まであと僅か。
あと少しだけお付き合いください。
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